[COP28スペシャルインタビュー]

IGES 田村堅太郎氏に聞く!《後編》  2050年/1.5℃実現に向けた削減目標と『IGES 1.5℃ロードマップ』

― COP28合意の「2030年までに再エネ3倍、エネルギー効率2倍」と、日本における5分野の達成可能なアクションプラン ―
2024/02/16
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

2050年までの残余カーボンバジェットは11年分しかない

─編集部 世界の歴史的に見た温室効果ガスの排出量についてはいかがですか。

田村 図2は、産業革命以前(1850~1900年)から2020年までの累積排出量と、2050年に地球の平均気温上昇を1.5℃に抑えるために残された、残余カーボンバジェット(残っている炭素予算)の数値を示しています。
 図2に示すように、産業革命以前(1850~1900年)から地球の平均気温上昇を1.5℃以内に抑えるためには、CO2の累積排出量を2,900 GtCO2以内に抑える必要があるのです。ところが図2を見ると、すでに2019年までに累積で約2,400 GtCO2も排出してしまいましたので、この結果、地球の平均気温はすでに1.1℃も上昇してしまっています。気温上昇を1.5℃に抑えるために、2020年以降に排出できるCO2(残余カーボンバジェット)は500GtCO2しかありません。
 2019年の世界のCO2排出量は約45GtCO2ですから、この排出レベルを継続すると2020年から2030年の間(11年間)に495 GtCO2(=45GtCO2×11年)となり、ほぼすべての残余カーボンバジェットを使い果たすことになります。  
 このため、「1.5℃目標」を達成するためには、2050年実質ゼロということだけではなく、毎年、大幅に温室効果ガスの排出量を減らし、2050年までの30年間(=2050年-2020年)の累積排出量を残余カーボンバジェット「500GtCO2以内」に抑える必要があるのです。

─編集部 それは大変な事態ですね。

田村 この緊急事態を解決するため、世界各国がさらにネットゼロ(脱炭素)に向けた野心的(累積排出量の増加幅を大幅に下げる)なNDCを策定し、提出できるようにする必要があるのです。このために、前編で解説したグローバル・ストックテイク(GST)が注目されているのです。このような施策によって、残余カーボンバジェット(500GtCO2)を何とか2050年まで延ばしていく努力が続けられているのです。

図1 世界のエネルギー起源CO2排出量(2020年)〔単位:億トン〕
出典:国際エネルギー機関(IEA)「Greenhouse Gas Emissions from Energy」2022 EDITIONを基に環境省作成
出所 環境省「世界のエネルギー起源CO2排出量(2020年)」

図2 産業革命以前からの温室効果ガスの累積排出量と2050年/1.5℃までの残余カーボンバジェット気象庁「地球温暖化予測情報 第9巻」、平成29(2017)年3月。IPCCでは、工業化(産業革命:18世紀後半)以前の基準年を1750年としているが、当時の世界平均地上気温としては、データの不備から、より測器観測データの整った1850~1900年の平均値で代用している。
出所 環境省「IPCC第6次評価報告書 統合報告書 政策決定者向け要約」(2023年3月20 日)などをもとに編集部で作成

当面2030年までに「再エネ3倍、エネルギー効率2倍」に!

─編集部 2050年/1.5℃に向けた中間目標などはあるのでしょうか。

田村 はい。COP28では当面2030年に向けて、IPCCの第6次評価報告書が提示している温室効果ガスを、
 ■2030年までに2019年度比で43%削減する
 ■さらに2035年までに60%削減する
という数値が認識されました。また、これを具体的に実現するため、国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)らがCOP28前に公表した最新の分析に基づき、
 ■2030年までに再エネ発電設備を3倍にする
 ■さらにエネルギー効率の年間改善率を2倍に引き上げる
ことも明記されました。

─編集部 企業や自治体、家庭や学校などで脱炭素に向けた様々な努力(取り組み)をしていますが、そのような努力とは別に様々な脱炭素に向けた技術開発も話題になっています。例えば、大気から直接CO2を分離・回収する技術「DAC」(ダック。Direct Air Capture、直接空気回収技術〕注9などが話題になっていますが。

田村 そうですね。現在、DACはまだ実証段階の技術で、しかもまだ小規模なシステムです。今後の展開に注目していますが、コストの問題や他の技術との競合(例えばBECCS注10)なども含めて見ておく必要があると思います。また、これらの技術は、長期的な視点から開発されている脱炭素技術としての位置づけです。ですから、短期的な脱炭素技術として、1.5℃目標を実現するためにまだ依存できる技術的な状況にないように思います。


注9:DACのほか、DACCS(ダックス。Direct Air Capture with Carbon Storage、CO2を大気から直接回収し貯留する技術)もある。DACCS は、DACとCCS(Carbon dioxide Capture and Storage、二酸化炭素回収・貯留技術)を組み合わせた技術。
[参考]NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、特集記事「発電所や工場からの排ガスを対象としたCO2分離回収とは」、2023年9月4日
注10:BECCS:Bio-energy with Carbon Capture and Storage、CO2回収貯留付きバイオマス発電ネガティブエミッション技術(NETs:Negative Emissions Technologies)。ベックス。空気中のCO2を大気中から除去するDACCSやBECCSなどの技術は、ネガティブエミッション(回収・除去)技術いわれている。
[参考]
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/negative_emission/pdf/002_02_00.pdf

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