[COP28スペシャルインタビュー]

IGES 田村堅太郎氏に聞く!《後編》  2050年/1.5℃実現に向けた削減目標と『IGES 1.5℃ロードマップ』

― COP28合意の「2030年までに再エネ3倍、エネルギー効率2倍」と、日本における5分野の達成可能なアクションプラン ―
2024/02/16
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

「第7次エネルギー基本計画」への展望

─編集部 ところで『IGES 1.5℃ロードマップ』を前提とすると、今年(2024年)に策定が予定されている日本の「第7次エネルギー基本計画」はどうあるべきでしょうか。

田村 はい。先ほど「2035年に2019年比60%以上(2013年比70%以上)の温室効果ガスの排出削減も可能」といいましたが、この数値は社会経済構造の変化を前提にしたものなのです。
 しかし、政府の将来ビジョンやSociety 5.0注17では、産業構造が大きく変わる未来社会を描いているのですが、それを具体的なエネルギー政策に反映させようとすると、なかなか産業構造が変わるという前提での議論になっていないのです。
 ですから、変化を恐れない議論をしないと「2035年に2019年比60%以上」の削減は難しくなってしまいます。つまり、日本が経済的にも世界で生き延びていくには、産業構造など社会変化を恐れない議論が必要なのです。そうでないと、政府の審議会などにおける積み重ね方式になってしまい、1.5℃目標を実現することと整合性が取ることが難しくなってしまいます。

─編集部 どのようにすれば1.5℃目標の実現へ進むのでしょうか。

田村 このようなときは政治のリーダーシップが重要となります。
 例えば菅政権のとき、米国主催の気候サミット(2021年4月22~23日)に出席注18した菅総理大臣は、2050年カーボンニュートラルに向けた目標として、日本は2030年度において、温室効果ガスを2013年度比で46%削減(さらに、50%の高みに向け、挑戦を続けていく)を目指すことを宣言し、これが「第6次エネルギー基本計画」のベース(表1)になりました。すなわち、このような政治的なリーダーシップが必要なのです。そのためには、国民一人一人が政治家に求めていかなければ政治は動かないのです。
 ですから、「第7次エネルギー基本計画」において、1.5℃目標に向かってどのように排出量削減(NDC)を実現できるかは、私たち国民一人一人の宿題でもあるのです。

表1 「第6次エネルギー基本計画」に見る2030年度の電源構成(左)と再エネの比率(右)
※日本政府が定義するFIT対象再エネの種類:太陽光発電、風力発電、地熱発電、水力発電、バイオマス発電の5つ
出所 経済産業省 資源エネルギー庁、「第6次エネルギー基本計画の概要」令和3(2021)年10月をもとに編集部で作成

右の記事も参考 https://sgforum.impress.co.jp/article/5301

─編集部 ありがとうございました。

◎プロフィール(敬称略)

田村 堅太郎(たむら けんたろう)

田村 堅太郎(たむら けんたろう)

IGES(地球環境戦略研究機関) 気候変動とエネルギー領域プログラムディレクター/上席研究員

ロンドン大学経済政治学院(LSE)大学院博士号(国際関係論)取得。横浜国立大学エコテクノロジー・システム・ラボラトリー講師を経て、2003年に地球環境戦略研究機関(IGES)に入所。研究テーマは、気候変動政策の国際協力、主要国における政策決定プロセスの比較分析、および低炭素技術の国際的な技術移転・普及。

撮影 松本 裕之


注17:Society 5.0:AIやIoT、ロボット、ビッグデータなどの革新技術をあらゆる産業や社会に取り入れることによって実現する新たな未来社会の姿。2016年1月に「科学技術基本計画」(第5期)が閣議決定され、2030年を目標に、超スマート社会(Society 5.0)を実現するというコンセプトが打ち出された。
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/5honbun.pdf
https://www.keidanrensdgs.com/society-5-0-jp
注18外務省「菅総理大臣の米国主催気候サミットへの出席について(結果概要)」、2021年4月22日

 

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