[COP28スペシャルインタビュー]

IGES 田村堅太郎氏に聞く!《後編》  2050年/1.5℃実現に向けた削減目標と『IGES 1.5℃ロードマップ』

― COP28合意の「2030年までに再エネ3倍、エネルギー効率2倍」と、日本における5分野の達成可能なアクションプラン ―
2024/02/16
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

『IGES 1.5℃ロードマップ』とは

〔1〕5分野にわたるアクションプランを策定

─編集部 COP28において合意された、1.5℃目標の実現に向けた大局的な動きがよくわかりました。次に、COP28の日本パビリオンで田村さんが発表された『IGES 1.5℃ロードマップ』(図3)についてお話いただけますか。

田村 この技術レポートは、正式には「IGES 1.5℃ロードマップ:日本の排出削減目標の野心度引き上げと豊かな社会を両立するためのアクションプラン」(全172ページ)という名称で、私も含めたIGESのスタッフによってまとめられ、COP28 の会場で2023年12月6日に発行されました。その目次構成は図3に示す通りで、全6章構成となっています。
 このロードマップは1.5℃目標の達成を目指して、2050年までの日本における現時点で達成可能な温室効果ガスの排出削減レベルを検討し、今後のビジネス活動などにどのようにプラスの効果をもたらすか、その行動内容を時系列にまとめたアクションプランになっています。
 詳しくは現物を読んでいただくとして、このレポートでは図4に示すように、2020~2050年の以下の5つの分野ごとに、それぞれ複数のマイルストーン(中間目標地点)を示しています。
 ■社会経済全体(例:本格的なカーボンプラシングの導入等)
 ■建物分野〔例:新築平均でZEH/ZEB以上、建物屋根の半分にPV(太陽光発電)等〕
 ■運輸分野(例:商用車のZEV注11化、完全自動運転等)
 ■製造業分野〔例:製造プロセスのデジタル化、素材(鉄鋼・セメント等)産業脱炭素化等〕
 ■電力分野(例:石炭火力の退出、再エネ9割等)

図3 『IGES 1.5℃ロードマップ』の目次と表紙
出所 右をもとに編集部で作成 https://www.iges.or.jp/jp/pub/onepointfive-roadmap-jp/ja

図4 『IGES 1.5℃ロードマップ』における分野ごとのエネルギー起源CO₂排出量の時間変化と主要なマイルストーン(中間目標地点)
※上図の起点となる2020年度の日本の温室効果ガス総排出量:11億5,000万トン(CO2換算)、https://www.env.go.jp/content/900518857.pdf
CP:Carbon Pricing、カーボンプライシング。CO2の排出量に価格を付けること、あるいはCO2の排出量に応じて企業などに金銭的な負担を課す仕組み
電化レディ:電化を促進するため、新築時に電気容量や電気配線を確保し準備しておくこと
出所 『IGES 1.5℃ロードマップ』(2023年12月6日)

〔2〕『IGES 1.5℃ロードマップ』の注目ポイン

─編集部 『IGES 1.5℃ロードマップ』の注目点はどこでしょうか?

田村 ポイントは大きく2つあります。
 1つは、エネルギー供給の脱炭素化だけでなく、デジタル化(DX:Digital Transformation)などによる社会経済全体の変化を織り込むことで、2035年に2019年比60%以上(2013年比70%以上)の温室効果ガスの排出削減も可能となってくることです。
 このような社会経済の変化に伴って生じる削減効果は、エネルギー消費量を抑制する場合に、「省エネする、あるいは電化する」ことと同じようなインパクトを与えるのです。
もう1つは、屋根置きを中心とする太陽光発電と浮体式洋上風力発電などの再エネ電力を、大幅に拡大するということです。さらに、産業の脱炭素化に必要なグリーン水素(再エネ電力でつくる水素)の国内での生産も行い、同時に電化中心のエネルギー転換を推進する。これによって、現在13%(2021年)注12と低い日本のエネルギー自給率を90%程度まで高められる可能性があるのです。
 その際、再エネの増大に伴って電力の全国的な相互融通が多くなってきますので、電力網系統の強化が求められますが、これはOCCTO(電力広域的運営推進機関)が推進している全国規模の「広域連系系統のマスタープラン」注13の実現に期待できます。同時に、系統運用ルールを再エネ優先にすることも不可欠です。

〔3〕期待されるペロブスカイト太陽電池

─編集部 再エネ電力のうち太陽光発電は第2フェーズを迎え、ペロブスカイト太陽電池が登場していますね。

田村 はい。ペロブスカイト太陽電池は、薄くて容易に曲げられるなどフレキシブル性も高く、ビルの壁面や住宅の壁面にも設置できますので、今後の普及を期待しています。また、最近、特にペロブスカイト太陽電池注14と従来のシリコン太陽電池と組み合わせた変換効率の高い「ペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池」注15、注16も登場し、注目されています。

─編集部 従来、中国に依存していたシリコン型太陽電池から国産のタンデム型太陽電池を利用できるようになると、エネルギー安全保障の点からも期待できますね。


注11:ZEV:Zero Emission Vehicle、排出ガスを出さない電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle。単にEVともいう)や燃料電池車(FCEV:Fuel Cell Electric Vehicle。FCVともいう)のこと。
注12資源エネルギー庁「エネルギー白書2023について」、令和5(2023)年6月
注13OCCTO:広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)、2023年3月
注14宮坂 力、「ペロブスカイト型太陽電池の開発」、国立研究開発法人 科学技術振興機構、2017年
注15東京都市大学「世界初、変換効率が30%に迫る、曲げられる太陽電池を開発 ―新構造の薄型シリコン太陽電池にペロブスカイト太陽電池を積層―」、2023年9月19日
注16NEDO、2023年度実施方針「太陽光発電主力電源化推進技術開発 」

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