5G／6G

ローカル5Gと5G公衆網を駆使して、次世代・鉄道用通信基盤の実証試験を8月から開始！

東京メトロ・日立・三菱電機・NTTコムなどが共同で推進

2024/02/26

(月)

鉄道・ITシステム・通信、各社共同による実証実験

　鉄道の運営会社では、現在、自社の「鉄道用通信システム」を安全性などの観点から独自に構築・運用している。そのため、開発・維持管理コストの増大や、保守作業に対する就労人口減の影響などが課題となっている。
　それら課題解決を目的に、東京地下鉄株式会社（以下、東京メトロ）をはじめとする下記の5社・団体が共同で、5G（第5世代移動通システム）を使い、地上設備と列車間で通信するための実証実験を行う。この実験に参加する5社・団体とその役割は以下の通り。5Gによる列車運行システムの実証試験は国内初で、実験は2024年8月から開始する予定。
（1）東京地下鉄株式会社：鉄道事業者としての試験車両の運行および試験監修
（2）公益財団法人鉄道総合技術研究所：鉄道用無線通信基盤の研究に関する知見の提供および評価
（3）株式会社日立製作所：ローカル5G網および鉄道用無線通信基盤を含む、地上／車上設備に関する設備構築および技術的支援
（4）三菱電機株式会社：同上
（5）NTTコミュニケーションズ株式会社：パブリック5G網の活用および技術的な支援

AI、センシングなど最新技術を活用

　現在、産業界をはじめ各所でAIやセンシング^注1、分析などのデジタル技術を駆使したDX（デジタル・トランスフォーメーション）が進められている。今回の実証実験はこのDXを視野に入れて展開している。
　実験にあたってまず、次世代の鉄道向け無線通信基盤を構築する。この通信基盤は、多様な通信手段を集約して通信状況に応じて柔軟な切替え制御を行うもので、現在欧州を中心に標準化が検討されているFRMCS^注2（鉄道向け無線通信基盤）を参照したプロトタイプを導入する。無線通信基盤には、現在利用されている各種の列車運行管理システムのほか、無線通信によって列車間の安全距離を自動で保つCBTC^注3（列車運行システム）や、鉄道設備の保守にセンシングや分析データを活用するCBM^注4（設備状態の保守方式）など、次世代システムとの接続も想定している。
　無線通信基盤は列車上と地上施設それぞれに設置され、それを5G網で結ぶ。一定エリア内で東京メトロが運用を行う5G自営網（ローカル5G網）を構築し、これに通常の5G公衆網（パブリック網）や専用無線を組み合わせる（図1）。
　実証実験は東京メトロ丸ノ内線の新大塚・後楽園駅間で行われ、無線通信基盤や5G通信の実用性を検証する（図2）。

図1　次世代の鉄道向け無線通信基盤の試験構成

出所　東京地下鉄株式会社東京メトロニュースリリース 2024年1月24日、「国内初、5Gを活用した鉄道システムの実証試験を2024年度に開始」

図2　実証実験が行われる東京メトロ丸ノ内線の「新大塚-後楽園駅間」

出所　東京地下鉄株式会社東京メトロニュースリリース 2024年1月24日、「国内初、5Gを活用した鉄道システムの実証試験を2024年度に開始」

技術標準化による海外展開も視野に

　今回の実証実験によって、新たな通信基盤と5G自営／公衆網による鉄道用無線システムの安全性・安定性や効率化・省力化を検証し、現在の課題解決につなげる。加えて、事故未然防止や保守業務の生産性向上など鉄道システムDXの可能性も検証する。
　同時に、今回の鉄道用通信基盤は欧州仕様との検証も行い、国際標準化への対応や、将来的には海外プロジェクトへの参入など新たな鉄道ビジネスの展開を視野に入れている。

注1：センシング：温度センサーや圧力センサーなどを用いていろいろな情報を数値化し、状態を「見える化」すること。
注2：FRMCS：Future Railway Mobile Communication System、欧州を中心に規格化が検討されている次世代鉄道向け無線通信基盤。
注3：CBTC：Communication Based Train Control、地上と列車間で無線通信により列車の安全・安定運行を制御する列車運行システム。
注4：CBM：Condition Based Maintenance、センシングや分析の技術を活用した設備状態の保守方式。