活用が期待される森林由来J-クレジット
カーボンニュートラル推進の施策として活用の拡大が期待されているJ-クレジット注1。太陽光発電や木質バイオマス利用などによるCO2排出削減の取り組みを国の認証のもと価値化する制度で、その1つとして森林が吸収するCO2を対象とした森林由来J-クレジットがある。
林野庁の資料によると、2021年8月までにJ-クレジットとして認証されたCO2排出量相当分706万トンのうち森林由来は9.3万トンと、約1.3%に留まっているのが現状だ。これには木材需要の低迷や林業の人手不足により放置林や老齢林が増加し、森林のCO2吸収量が減少傾向となっていることなどが要因とされている。しかし、日本は約2,500万ha(ヘクタール)の広大な森林があり、その再生と活用が期待されている。
鶴岡市、約50haの林地でプロジェクトを開始
株式会社野村総合研究所(以下、野村総研)は2024年2月21日、森林由来J-クレジットの創出・流通促進の取り組みを山形県鶴岡市で開始すると発表した。野村総研は、鶴岡市が進めるデジタル化や地域課題の解決など、構造改革事業の連携活動に係る基本合意書を2019年に締結注2しており、今回の取り組みはその一環でもある。
対象となる林地は、鶴岡市内の2林地、それぞれ約50ha。プロジェクトの実施は、温海町森林組合、三瀬地区自治会、株式会社佐藤工務がそれぞれ担う。これらによって、鶴岡市の森林由来J-クレジット創出を促進するとともに、森林資源の活用や雇用促進など地域課題の解決も目指す。また、2024年度創出分の森林由来J-クレジットは野村総研が買い取る。
申請書作成の自動化やブロックチェーン技術基盤を野村総研が提供
今回の取り組みにおける具体的な施策は、「森林由来J-クレジット創出の実践と申請書作成の効率化」と「ブロックチェーンを活用した情報管理機能の構築」の2つ。
森林由来J-クレジット創出は、申請書作成の負荷が高いことが1つのネックとなっている。要件を詳細に理解し、対象となる林地の樹木の本数など詳細情報を申請書として提出する必要があるほか、認証対象期間8年+永続性担保期間注310年といった長期にわたって信頼性を確保する仕組みづくりが求められている。
これらの課題解決のために野村総研では、申請書作成の手続きを自動化などによって効率化する仕組みを提供する。さらに、CO2吸収量などの情報管理における信頼性確保のために、暗号技術であるブロックチェーンによる基盤を構築する。
図 森林由来J-クレジット創出・流通促進基盤の概要図
出所:株式会社野村総合研究所、お知らせ 2024年2月21日 、
「野村総合研究所、森林由来J-クレジットの創出・流通促進を通じて、CO2削減や森林を取り巻く地域課題解決に貢献」
注1:J-クレジット制度:省エネ・再エネ設備の導⼊や森林管理等によるCO2等の温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして認証する制度。2013年度から国内クレジット制度とJ-VER制度※を⼀本化し、経済産業省と環境省、農林⽔産省が運営している。
※ J-VER制度:J-VERはJapan Verified Emission Reductionの略語。国内排出削減・吸収プロジェクトにより実現された温室効果ガス排出削減・吸収量をオフセット・クレジット(J‐VER)として認証する制度。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/attach/pdf/shinrinshoui-5.pdf
注2:野村総合研究所「鶴岡市と野村総合研究所との連携活動に係る基本合意書を締結〜鶴岡市のデジタル化による構造改革の推進を支援〜」、2019年12月12日
注3:永続性担保期間:認証対象期間が終了した後、毎年森林経営計画の写しを提出することが必要となる期間。
参考サイト
株式会社野村総合研究所、お知らせ 2024年2月21日、
「野村総合研究所、森林由来J-クレジットの創出・流通促進を通じて、CO2削減や森林を取り巻く地域課題解決に貢献」
株式会社野村総合研究所、ニュースリリース 2019年12月12日、
「鶴岡市と野村総合研究所との連携活動に係る基本合意書を締結」