新たな電源として注目される「マイクロ水力発電」
2050年カーボンニュートラルを目指して、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の1つである中小水力発電のうち、特に「小水力発電」(10,000kW未満)のうちの100kW以下の「マイクロ水力」が、脱炭素と地域振興を同時に実現可能とする新たな電源として注目されている。
マイクロ水力発電は、自治体において上下水道水や工業用水など、地域インフラとして敷設されているが利用されていない「水エネルギー」を活用して電気をつくる新しい水力発電方式である。
このため、政府は2024年2月に、「中小水力発電の導入促進に向けた手引き」を発表注1するなど、その導入を促進している。このような流れの中、宮城県名取市で2024年8月23日に運転を開始した、発電出力約50kWのマイクロ水力発電所について見ていこう。
約337億円を削減した、官民連携の水道管理・運営方式
現在、宮城県では、官民連携による社会インフラ管理・運営の新たなフレームとして「みやぎ型管理運営方式」(以下、みやぎ方式)が実施されている。正式には「宮城県 上工下水一体官民連携運営事業」注2で、宮城県が最終責任をもちつつ、同県の水道用用水供給、工業用水道、下水道の各事業を一体化して民間に委託し注3、そのノウハウやスケールメリットによって経費削減、設備更新費用の抑制、技術革新などを目指す取り組みである。それを実現するために、契約の期間や単位などが独自の規定となっている(図1)。
この「みやぎ方式」は2022年4月に開始され、初年度における宮城県の試算では総事業費2,977億円で、従来体制との比較で約337億円の削減を実現した。公共インフラの管理・運営は、人口減少による料金収入減や施設更新などさまざまな課題が指摘されているが、それらの解決につながる事例として高い評価を獲得し、国土交通省「第7回インフラメンテナンス大賞(国土交通大臣賞)」(2024年1月)、内閣府「第1回PPP注4/PFI注5事業優良事例表彰(大臣賞)」(2024年6月)、などを受賞している。
図1 宮城県上工下水一体官民連携運営事業(みやぎ型管理運営方式)における契約条件や業務内容、従来との比較
出所 宮城県庁、「宮城県上工下水一体官民連携運営事業(みやぎ型管理運営方式)概要」
50kWのマイクロ水力発電所で年間約305MWhを発電
名取市で開所したマイクロ水力発電はみやぎ方式の任意事業注6として、宮城県名取市〔人口:7万9,819人。2024年10月末現在〕に発電出力約50kWのマイクロ水力発電所(後述。所在地:宮城県名取市愛島塩手字岩沢14)が新たに設置され、2024年8月23日から運転を開始している。これによって災害時の電力支援や再エネの普及促進にもつなげていく。
このマイクロ水力発電は、同県の七ヶ宿ダム(しちがしゅくダム、宮城県刈田郡七ヶ宿町字上野8-1)から取水し、南部山浄水場で浄水処理した水を姥ヶ懐(うばがふところ)調整池に(宮城県柴田郡村田町)貯水して宮城県名取市の岩沢配水池に送水し、同配水池に流入する際の流量と落差(高低差)67mを利用した水力発電だ(写真1、図2)。
写真1 岩沢配水池の外観
出所 株式会社日水コン提供、「名取マイクロ水力開所式_配布資料」
図2 マイクロ水力発電の仕組み
名取テレメータ室内の既設管路の本管およびバイパス管に発電用の新設管路を連結し、発電を行う。
出所 株式会社日水コン提供、「名取マイクロ水力開所式_配布資料」
発電所設備の設置は、みやぎ方式参画企業の1社である株式会社日水コン(株式会社日本水道コンサルタント。以下、日水コン。本社:東京都新宿区)が担当している。発電所の正式名称は「日水コン名取マイクロ水力発電所」。
発電システムは22kWクラスの発電機を2機設置し(写真2)、発電出力は49.8kW(≒50kW)で、年間発電量は約305MWh。これは一般家庭約77世帯分の消費電力量に相当する。ここでのCO2排出削減量は年間約134トン。またここで発電した電力はFIT(固定価格買取制度)によって東北電力に売却し、年間1,100万円程度の売上を見込んでいる。
日水コンでは名取市の他、宮城県内の柴田町、角田市、多賀城市の水道施設にもこの事業を展開し2025年夏頃までの完成を目指している。最終的にこれら全4カ所で年間約1,300MWh(一般家庭約329世帯分)の発電量を見込んでいる。
日水コンのような建設コンサルタントが水道施設を活用したマイクロ水力発電の発電事業者となる事例は、今事例が国内初となる。
写真2 名取テレメータ室内の発電機の様子
マイクロ水力発電機(22kWクラス)はDK-Power製で合計2基設置されている。
出所 株式会社DK-Power Webサイトより
図3 管水路用マイクロ水力発電システムの概要
縦型インラインポンプを採用しコントローラと発電機が一体化されている。
出所 株式会社日水コン提供、「名取マイクロ水力開所式_配布資料」
インバーター技術を応用したマイクロ水力発電システム
今回採用されたマイクロ水力発電システムは、株式会社DK-Power(大阪府吹田市)が開発したシステムだ。同社は、空調設備のダイキン工業株式会社が創エネなどを目的に設立したスタートアップで、親会社がもつモーターやインバーター注7の最新技術を活用した水力発電システムを開発し、提供している。
同社のマイクロ水力発電システムは、既存の水道施設に設置することで再エネ発電が可能となる。
注1:経済産業省 資源エネルギー庁「中小水力発電の導入促進に向けた手引き」、2024年2月
注2:上工下水一体:水道に関する3事業である「①上水」「②工業用水」「③下水」を一体化して推進する事業のこと。①上水:飲用の水道水を供給する水道事業、②工業用水:飲用に適さないが雑用(トイレの用水等)や工業用などに使用される水道事業、③下水:生活や産業等から排水される汚水を処理する水道事業のこと。
注3:「宮城県 上工下水一体官民連携運営事業」運営のために株式会社みずむすびマネジメントみやぎが特別目的会社として設立されている。
注4:PPP:Public Private Partnership、公民連携。「官」「民」が連携し、公共サービスの提供を行う基本構想。
注5:PFI:Private Finance Initiative、プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ。PPPの代表的な手法の1つで、公共施設等の建設、維持管理、運営等を、民間の資金や知見を活用して行う方式。
注6 :任意事業:宮城県 上工下水一体官民連携運営事業運営のための特別目的会社、株式会社みずむすびマネジメントみやぎが日水コンに水道設備を有償貸与することでこの事業が成立している。
注7:インバーター(Inverter):交流モーターに供給する電力の周波数を制御することによって、交流モーターの回転速度を制御する機器。
参考サイト
宮城県「宮城県上工下水一体官民連携運営事業(みやぎ型管理運営方式)」
宮城県庁「宮城県上工下水一体官民連携運営事業(みやぎ型管理運営方式)概要」
宮城県名取市「日水コン名取マイクロ水力発電所開所式が行われました」
日刊建設工業新聞 2024年8月26日 6面「日水コンら/宮城県名取市でマイクロ水力発電開始、みやぎ型管理運営方式の任意事業」
東北放送 ニュース 2024年8月23日(金) 18:20
「マイクロ水力発電所が名取市で稼働 年間発電量は一般家庭77世帯分 電気は東北電力に売却し年間1000万円程度の収益見込む 宮城」
株式会社日水コン ニュースリリース 「日水コン名取マイクロ水力発電所の開所式を開催」
株式会社日水コン提供資料、「名取マイクロ水力開所式_配布資料(パンフレット)」