実に130年ぶりのイノベーション(技術革新)
携帯電話の普及をはじめ、インターネットによる安価なIP電話や、ユーザー同士では無料となるスカイプ電話の登場などによって、既存の固定電話事業が圧迫され、通話料収入の減少傾向に歯止めがかからない状況が続いている。
このような厳しい環境を背景に、固定通信事業者はサバイバルをかけて、ネットワーク設備のコストの削減などをめざして、電話網をオールIP化する次世代通信システムの構築に乗り出した。この次世代通信システムが、現在、ITU-T で標準化が進められているNGN(Next Generation Network、次世代ネットワーク)なのである。
アメリカのボストンで最初の手動式電話交換機が設置され、1877年に、コネチカット州ニューヘブンで商用電話サービスが開始されて以来、実に130年ぶりのイノべーションであり、新しいビジネス・モデルへの歴史的転換であると言っても過言ではない。
このNGNに最初に取り組んだのは、モバイル系の通信事業を持たないBT(ブリティッシュ・テレコム)であった(2004年6月)が、日米欧を問わず世界各国の固定通信事業者はBTと同じように、共通の危機に直面している。このため、相互接続性の確保とNGNを構築するための各種通信機器などを低価格で調達できるようにするため、一斉にNGNの標準化に動き出した。
このNGN(次世代ネットワーク)は、IP(Internet Protocol)をベースとして、2階層モデルを特徴とし、既存の電話網サービスやインターネット・サービス、移動通信サービスを統合的に提供し、電話やデータ、動画(IPTVあるいはストリーミングなどを含む)などを柔軟に提供する新しい通信基盤(プラットフォーム)のことを指している。NGNの主な特徴を要約し整理すると、表1のようになる。
ITU-T勧告「Y.2001」にみるNGNの定義
ここでITU-T勧告の標準文書から、NGNの定義をみてみよう。具体的には、2004年12月に発行されたITU-T勧告Yシリーズの「Y.2001:General overview of NGN(NGNの全体構成)」の中で、次世代ネットワーク(NGN)のフレームワーク(枠組み)やアーキテクチャ・モデルが定義されている。ここでYシリーズとは、ITU勧告のうちグローバルな情報基盤やIP(インターネット・プロトコル)関連、NGNなどを扱うITU-Tの勧告群として位置づけられている。
NGNは、この勧告Y.2001で次のように定義されている。
■ NGNの定義(原文)
"Next Generation Network (NGN): A packet-based network able to provide
telecommunication services and able to make use of multiple broadband,
QoS-enabled transport technologies and in which service-related functions are independent from underlying transport related technologies. It enables unfettered access for users to networks and to competing service providers and/or services of their choice. It supports generalized mobility which will allow consistent and ubiquitous provision of services to users."
■ NGNの定義(和訳)
『次世代ネットワーク(NGN)とは,電気通信サービスを提供することを目的として,広帯域でしかもQoS(サービス品質)の制御が可能な、いろいろなトランスポート技術を活用したパケット・ベースのネットワークである。このNGNでは、サービス関連の機能が転送(トランスポート)関連の技術とは独立しているが、お互いに連携してサービスの提供がなされるネットワークである.またNGNでは、ユーザー(利用者)はいろいろなサービス・プロバイダを選択することができ、自由にアクセスできるようになる。さらに,汎用的なモビリティをサポートするため,ユーザーに対して一貫性のある、ユビキタスなサービスを提供することができる。
簡単に言えば、NGNとは、前述したようにパケット・ベースのネットワークであり、いろいろなサービスが連携して提供される、また好みに応じてサービス・プロバイダを選択でき、ユビキタスなサービスを実現するネットワークといえる。