3GPPと3GPP2はIMSで一本化へ!
—ところで、3GPPや3GPP2のオールIP化への取り組みについてお話いただきたいのですが。
冲中 図1の携帯電話方式標準化活動の相関図を見てください。これはとても古い図なのです。2000年ごろに作ったものを持ってきたのですが。
最初に、この3GPPとか3GPP2と言うような移動系の標準化組織のアイデアを考えたのはETSI(欧州電気通信標準化機構)なのですけれども、この組織は結果として非常にうまくできている仕組みなのです。今後、固定系なども、だんだんこういう構図で、個々の標準が作られてくるようになるのではないかと、私は見ています。
江﨑 この3GPPと3GPP2という組織は、IETFにも近いし、IEEE802のやり方にもかなり近いですよね。ある技術を、かなり早いスピード(短期間)でベンダ(メーカー)が中心になって、標準化を作っていくのですね。
冲中 そのとおりです。どこが賢いかというと、ひとつは同好の士の集まりと言うところなのです。ですから、最初からこういうリクワイアメント(要求)に対して、こういうベース技術を使って標準化しようと、そこまでアグリー(合意)しているわけですよね。
江﨑 3GPPと3GPP2をインターネット側から見ると、この2つの組織が争っているのは、レイヤ2のデータリンク・レイヤのみというようにしか見えないのですよね。しかし、これは価値のあることなのです。つまり、レイヤ3のIP(インターネット)のレベルから見ると、データリンクの選択肢が2つあるわけですからね。
冲中 要するに3GPPと3GPP2に分かれて、携帯電話システムの仕様をつくっているのです。3GPPのほうは5MHzをベースとするW-CDMA方式を、3GPP2は1.25MHzをベースとするCDMA2000方式の標準化を推進しているわけです。
この2つの組織がすごく賢いのは、3GPPにしても3GPP2にしても、やっていることはスペック(仕様)を作ることなのです。ところが、この組織は実は何もリーガル(法律的)な権限の無い同好の士の集まりなのですよ。
その代わりに、図1の真ん中に示すように、これをスポンサーしている標準化機関が各国にあるのです。すなわち、これらは政府から認定されている、標準規格を作る機関なのです。この3GPPと3GPP2は、この各国の標準規格を作っている機関から、お金と人のスポンサーシップを受けているのです。
と同時に、この3GPPと3GPP2が作っている仕様については、各国の標準化機関は、自分ではローカルに何も作らないという約束をしているのです。スペック(仕様)を作るのはここだけだと。しかも、作った仕様は、なにも改変しないで自分の国の規格にしますと約束しているのです。これは、実に素晴らしい仕組みなのです。
江﨑 珍しいことですよね。
—しかし、どうして同じような各国の標準化機関が集まって3GPPと3GPP2という2つの組織が必要なのでしょうか? 1つで良いように思いますが?
冲中 ごもっともですね。その背景には米国のベンダと欧州のベンダ間、あるいはGSMを採用する通信事業者とCDMAを採用する通信事業者間の複雑な争いがあったのです。
江﨑 さらにその後ろには、特許にからむIPR(知的財産権)という問題があるようですね。
冲中 結局ふたつになったのですが、両方ともほぼ同じ仕組みになっています。先ほどの図1は5年前に作ったものなので、ネットワーク規格について3GPPがGSMから発展系のUTRAN(W-CDMA)に、3GPP2がANSI-41系のCDMA2000になっていますけれども、これらはすでにレガシーなシステムです。
これらを、先に言ったようにIP化にしようとしているのが、3GPPはIMS(IP Multimedia Subsystem、IPマルチメディア・サブシステム)であり、3GPP2はMMD (Multi-Media Domain、マルチメディア・ドメイン)なんです。
今までは、IP化について、お互いに異なる名前で仕様をつくってきました(実際はIMSをベースにMMDが作られた)が、最近、実は3GPP2の側がMMDをIMSに一本化しようと歩み寄っています。要するに、NGNネットワークのコアの一つであるサービス制御部分はIMSとして一本化できそうです。もちろん、IMSやMMDをトランスポート層に接続する部分は、トランスポート層の仕様が違うので別になりますが。
江﨑 それは素晴らしいことです。それならば私もやる気になって、IMSでいこうかと思いますね。
冲中 3GPPで作っているIMSは、あくまでもアーキテクチャです。すなわちノードやノード間を接続する参照インタフェースを定義し、参照インタフェースでどういう情報をやりとりするかなどを検討しているのです。
情報のやりとりの詳細な部分、すなわちプロトコルは図1のIETF(インターネット技術標準化委員会)が作っています。
江﨑 IETFの標準規格としては、35本くらいのRFC(Request For Comments、インターネットの技術標準文書)が参照されているのですよね。
冲中 さらにこの上に、いろんな携帯独特のアプリがありますが、アプリケーションについては、図1に示すOMA(Open Mobile Alliance、各国の移動通信関連企業が参加する業界組織)が仕様を作っています。(テーマ4につづく)
▼編集部注
3GPPと3GPP2の具体的な活動内容については 、
■3GPPの標準化動向(1)LTE(長期的エボリューション)を継続審議へ
■3GPP2の標準化動向(1)次世代CDMA、2007年4月頃の標準化を目指す
をそれぞれご参照ください。
プロフィール
江﨑 浩
東京大学 大学院
情報理工学系研究科 教授
WIDEプロジェクト
ボードメンバー
MPLS-JAPAN代表
IPv6普及・高度化推進協議会
専務理事
略歴
1987年 九州大学 工学部電子工学科 修士課程了。工学博士(東京大学)。
1987年 (株)東芝入社 総合研究所にてATMネットワーク制御技術の研究に従事。
1990年より2年間 米国ニュージャージ州 ベルコア社客員研究員
1994年より2年間米国ニューヨーク市 コロンビア大学客員研究員。高速インターネットアーキテクチャの研究に従事。
1994年 MPLSのもととなるCSR(セルスイッチルータ)技術を IETFに提案。その後、セルスイッチルータの研究・開発・マーケティングに従事。IETFのMPLS分科会、IPv6分科会で標準化活動に貢献。
1998年10月より東京大学大型計算機センター助教授、2001年4月より東京大学 情報理工学系研究科 助教授。
2005年4月より現職(東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授)
冲中 秀夫
KDDI株式会社
執行役員 技術渉外室長
略歴
1977年 早稲田大学大学院修士課程修了(物理学および応用物理学)
同年 国際電信電話(株)入社
1991年まで研究所にてディジタル移動衛星通信システムの研究開発
1986~1988年 インマルサット事務局にてInmarsat-M/Bシステム開発
1991~1994年 DDIにてPDCシステム開発
1994~1999年 KDDにて海外移動通信事業開発、IMT-2000事業企画等
1999年 DDI入社、移動体通信本部事業戦略部長
2003年 執行役員 au事業本部 au事業企画本部長
執行役員 技術統轄本部技術企画本部長
執行役員 技術企画本部長(組織変更)
執行役員 技術渉外室長
工学博士(早大、1986年)。1999年電子情報通信学会森田賞、業績賞受賞。2005年日本ITU協会功績賞受賞。現在WiMAX Forumボードメンバー。3GPP2 Steering Committee議長、3GPP2 Services and Systems TSG議長、MWIF Board of Directors、早大非常勤講師等歴任。