[標準化動向]

802.11n(無線LAN)の標準化動向(2):600Mbpsを実現する物理層の仕組み(前編)

2006/09/06
(水)
SmartGridニューズレター編集部

大きなワイヤレス・ブロードバンド化の波を背景に、ユーザーの利用環境に近いところで100Mbps以上の高速無線LANの標準化を目指し、IEEE 802.11n(TGn:タスク・グループn)の活動が活発化している。今回は、802.11nの物理層(PHY:Physical Layer)の技術的な特徴を解説する。

前回解説した802.11nの標準化プロセスを整理し、より詳しく見てみると図1に示すようになる。すなわち、2007年9月ごろ、IEEE SA(Standards Association、IEEE標準化協会)にて最終的な仕様の投票(スポンサー・バロット)を行った後、2008年1月にIEEE EC(Executive Committee、IEEE役員会)による投票を行い、2008年4月に最終の標準仕様が発行される予定となっている。したがって、2007年末頃には、最終仕様に近い802.11n規格に準拠した製品が登場してくると予想されている。

図1 802.11nの標準化プロセスとWFA(Wi-Fiアライアンス)の活動
図1 802.11nの標準化プロセスとWFA(Wi-Fiアライアンス)の活動 (クリックで拡大)

また802.11nは、最初の802.11のオリジナル(原型)規格や、その後標準化された802.11a/gと比較すると、図2に示すように、11a/gの物理層の変更に加え、MAC層においても11e(既存のMACレイヤを拡張しQoSを強化した規格)や、11i(セキュリティ機能を拡張した規格)など、物理層とMAC層を大幅に強化した規格となっている(図2の11j:日本の4.9~5GHz帯への対応規格)。

図2 802.11(オリジナル規格)と802.11nの関係
図2 802.11(オリジナル規格)と802.11nの関係 (クリックで拡大)

これによって、ユーザーにより近いMAC SAP(前回解説 )で100Mbps以上の実効速度を実現している(MAC SAP:Media Access Control Service Access Point、媒体アクセス制御サービス・アクセス点)。ここでは、現在審議されている物理層の仕様について詳しく見てみることにしよう。

802.11nにおける物理層(PHY)の特徴

2006年7月17日~7月21日の日程で、米国サンディエゴでIEEE802委員会の802.11WGのタスク・グループ11nの会合が開催された。今回は、前回のWG投票時に寄せられた6700に及ぶコメントを反映した802.11nのドラフト改版の作業を行った。

現在審議中の802.11nの物理層は、これまで標準化されてきた、2.4GHz帯(802.11g)と5GHz帯(802.11a)に適用できる仕様、すなわち11gと11aのアップグレード版となっており、従来の端末と通信しながら、11n同士の通信もできるように設計されている。

また、11nの物理層(PHY)全体としては、高速化だけでなく、使われるネットワーク・モデル(11a/g端末と11n端末の混在モデルなど)に対して幅広く適用できるように、柔軟性をもたせている。

さらに、11nの物理層の伝送速度、フレーム・フォーマット、使用する周波数領域(帯域幅)、空間多重、ガード・インターバル(電波の干渉を軽減させるためにフレーム間に挿入する一定の時間間隔)の項目などをまとめると表1のようになる。

この11nの物理層の中で、とりわけ伝送速度は、6Mbps~600Mbpsと100倍もの幅広い伝送速度をサポートする、無線システムとしては珍しい規格となっている。なお、周波数領域(使用する周波数帯域、4通りの使い方)や空間多重(MIMOの一種、欄外の用語解説参照)、ガード・インターバルについては、次回に詳しく解説する。

表1 802.11nにおける物理層(PHY)の特徴
表1 802.11nにおける物理層(PHY)の特徴 (クリックで拡大)

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