物理層における必須項目とオプション項目
802.11nにおける物理層(PHY)がサポートする具体的な項目としては、表2に示すように、必ずサポートする必要のある「必須項目」と「オプション項目」(場合によってはオプションのほうが重視される場合もあるので要注意)がある。
【1】802.11nの物理層の必須項目
「必須項目」の内容は、次の通りである。
(1)表2の左側に示す、(1)20MHzの周波数帯域を使用から、(5)ガード・インターバルは800ns(ナノ秒)までは、11a/gなどレガシー(既存)の物理層に対応するための項目である。すなわち11nとしては、11a/gのサポートは必須であるということである。
(2)11nとしての新しい必須項目は、表2の左側に示す(6)~(7)の項目である。(6)のクライアント(端末)の物理的な伝送速度(1ストリーム)というのは、送受信するデータのストリームは1本だけ使用し、複数のストリームで多重化しないということである。
端末に1ストリームだけという制限をしている理由は、携帯端末のように処理能力が小さい端末に適用するときに2ストリームを必須項目にしてしまうと、かなり重くなってしまう(PCの場合はこの限りでない)からである。
そのため、クライアントは1ストリームからサポートすればよいような仕様になっている。一方、AP(アクセス・ポイント)は、802.11n で100Mbps以上の高速化を実現するために、1ストリームと2ストリームの両方をサポートすることが必須となっている。
【2】802.11nの物理層のオプション項目
また、表2の右側に示す「オプション項目」の内容は、次の通りである。
(1)「40MHzの周波数帯域を使用」については、オプションといえども必須項目に近い項目である。オプションとしている理由は、国によって周波数政策上、40 MHzの運用を禁止している国があるため、40 MHzを必須項目としてしまうと、その国では11nは使用できないことになるからである。日本などが、40 MHzでの運用上の問題点を検討しているので、その辺の事情を配慮している。
(3)のSTBC(Space Time Block Coding、時空間ブロック符号化)や(4)のLDPC(Low Density Parity Check、低密度パリティ検査。誤り訂正符号の一種)は、通信ロバストネス(通信の耐障害性)を向上させるための機能である。
(5)のガード・インターバルは400 ns(ナノ秒)というのは、実際にはオプション項目というよりは、実装の面からかなり必須に近い項目になってきている。また、(7)のAS(アクセス・ポイント)のストリーム数については、最大4ストリームまでサポートできるようになっている。
(9)は、送信機と受信機が情報交換しながら、ビーム・フォーミングという技術により、特定の端末に電波エネルギーを電気的に集中させ、通信品質を向上させるための機能である。
さらに、(10)のストリームごとに独立した変調方法というのは、複数のストリームを使用する場合、あるストリームはOFDMのQPSK変調で、他のあるストリームは64QAMの変調で行うような独立した変調をすることが可能ということである。
なお、11a/gで使用されているOFDM変調が11nでも使用されている。OFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplexing、直交周波分割多重)とは、最近広く使われるようになった変調技術の1つで、高速に送信されるデジタル・データ信号を高品質に伝送する方式である。
簡単に説明すると、OFDMとは、送信する高速なデータ信号を一つの周波数(シングル・キャリア)ではなく、それぞれが直交した複数のキャリア(マルチキャリアという。マルチキャリアを構成する1つ1つのキャリアをサブキャリアという)に分けて送信するデジタル変調方式である。
すなわち、高速なデータを複数の各サブキャリアに分散させて乗せ、並列に多重化して送信する変調方式である。このとき数学的な手法で、各サブキャリアが干渉しあわないようにし(これを直交という)、さらに、受信した後に、お互いにきれいに分離できるような仕組みになっている(詳しくは「改訂版ワイヤレス・ブロードバンド教科書:高速IPワイヤレス編 」インプレスR&D刊参照」)。このOFDM方式は、地上デジタル放送などにも使用されている変調方式である。