[標準化動向]

802.11n(無線LAN)の標準化動向(2):600Mbpsを実現する物理層の仕組み(前編)

2006/09/06
(水)
SmartGridニューズレター編集部

802.11nの3種類のフレーム・フォーマット

前述の表1でも示したが、802.11nではデータ(情報)を送信するために、図3に示すように、

(1)レガシー・モード(LM):既存(例:11a/b/g)のフレーム
(2)ミックス・モード:既存の11a/gが理解できる11nのフレーム(下位互換性のサポート)
(3)グリーン・フィールド:11n同士の通信でのみ使用される高効率なフレーム

の3種類のフレーム・フォーマットをサポートしている。

図3 802.11nで規定された3種類のフォーマット
図3 802.11nで規定された3種類のフォーマット (クリックで拡大)

 

表3  図3の802.11nのフレーム・フォーマットに使用される用語
表3 図3の802.11nのフレーム・フォーマットに使用される用語 (クリックで拡大)

図3表3(図3の用語解説)のように、各フレームとも、基本的にプリアンブル部(同期部)と送信データ部で構成されている。具体的にプリアンブル部は、送受信する信号の同期を取るための信号部であり、L-STF、L-LTF、L-SIGで構成されている。

このプリアンブル部で、送受信するフレームの同期が取れると、信号の内容が解釈できるようになるので、L-SIGに書かれている内容を見て受信データの伝送速度(例:54Mbps)や変調方式、データの長さを知ることができる。

図3の(1)に示すように、レガシー・モード(例:11aの場合)は、802.11nの環境で、例えば11aなどのレガシー(既存)な端末が、11a端末や11g端末のフレームとやり取りできるようにしたモードである。

(2)のミックス・モードは、既存の端末が11nのフレームを理解し、受信できるようにするモードである。この場合は、11nのフレームの前に、11aのプリアンブル信号を付加して包んでおき(カプセル化という)、11a の端末が11nのフレームをあたかも11aのフレームとして受信し始め、L-SIGを受信した時点で、11nであることを認識し、自分に関係ない場合は破棄してしまう。11aのL-SIGには、このフレームの送信データ部には、11nのフレームが入っていることが記述されている。

このプリアンブル部は、(1)、(2)とも、それぞれ6Mbpsで変調されている。6Mbpsは最も遅いフレームであり、各局(ユーザー端末)へ最も遠くまで安定して情報を伝えることができるために採用されている。

(3)のグリーン・フィールドと名づけられたフレーム・フォーマットは、11nだけの端末しか存在しない環境で、11n端末同士が高速に通信するモードのフレーム・フォーマットとなっている。この場合、11n端末は、11a端末や11g端末からのフレームはまったく理解できないため、通信信号というよりは、雑音と認識されてしまう。

(つづく)

※本記事内容は2006年1月のドラフト草案に基づくものです。802.11nの標準化作業は現在進行形のため、仕様が変わることがあります。

用語解説

MIMO:Multiple Input Multiple Output、多入力多出力。広義の意味では、単純に送信側と受信側に複数のアンテナ(送信機、受信機)を設置して通信を行う場合をMIMOという。ただ し、ここでいうMIMOは、各送信系統からのデータ・ストリームを空間上で多重することを意味し、最大4ストリーム(4つのデータの流れ)までを多重する 方式を指す。コンピュータで例えれば、並列の4ビット・パラレルのバスをもつ通信路(チャネル)のようなものといえる。

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