802.15.3cミリ波WPANのネットワークの課題
すでに標準化されている既存の802.15.3 WPAN標準は、802.11b/gなどと同じ2.4GHzマイクロ波帯を用いた最大55Mbpsのデータ通信を対象に規定された規格である。このため、15.3c TGが目標とする60GHz帯ミリ波を用いた2Gbpsの伝送を行うネットワークとしては、単純に既存の802.15.3規格の物理層を置き換えただけでは不十分であり機能しない。
そこで15.3c TGでは、現行の802.15.3 MAC部の規格との不整合について必要な見直しも含めた検討が今後行われる予定である。今後見直しが必要と認識されている15.3c用MAC部の課題としては、一般に次のような点があげられる。
DEV間の通信路の捕捉確認方法
2.4GHzのマイクロ波帯を用いる既存の802.15.3では、一般にアンテナは無指向性型が使用され、ピコネットに参加していれば各々のDEV間での1対1通信は可能という前提で考えられており、いわゆる隠れ端末(通信可能な範囲にある端末であるが相対的な位置関係によっては電波が届かず通信できない端末)はそれほど問題にされない。
一方、自由空間ロスが大きい60GHz帯のミリ波においては、無指向性アンテナではサービス半径が極端に小さくなるため、一般に高利得の指向性アンテナを使用するのが実用的と考えられている。
しかし、指向性アンテナを使用した場合は、PNC(コーディネータ)とDEV(デバイス)の間の通信が可能であっても、アンテナが指向性をもっているため、各DEV同士の通信が可能とは限らない。そこでアンテナの指向性制御技術と、それを駆使したDEV間の通信路の捕捉確認方法などが検討されている。
高実効速度(スループット)伝送
60GHz帯ミリ波WPANでは、ビデオ装置(例:DVDレコーダ)とハイビジョン受像機間での映像データの転送のような、QoSを確保した大容量のストリーミング伝送(リアルタイムに映像情報などをやり取りすること)のニーズが高まっている。
一般に、ユーザー・データのペイロード・サイズ(送信データの格納部の大きさ)を小さくしてフレーム長を小さくすると、ビーコンなどのオーバーヘッド(付加的な処理)部の比率が大きくなり、実効速度が低下する。
しかし、フレーム長を大きくすると実効速度は向上するが、ビット・エラー(テータの誤り)が増えてフレームの再送が多くなり、動画像などのような低遅延が要求されるストリーミング伝送には障害になる。このため、802.15.3c用のMACでは、オーバーヘッド部の短縮化、効率のよいフレーム長やフレーム間隔の設定、再送回数を極力少なくする工夫が必要とされている。
***
以上は、既定の802.15.3 MAC標準をもとに、ネットワークの説明をしたが、この802.15.3は、現実にはまだ商用化の実績がない標準規定であるため、実用上はバックワード・コンパチブル性(上位互換)を考える必要はないとも言える。
このため、802.15.3cミリ波WPAN用のMAC提案として、従来の802.15.3 MACに拘束されない、まったく新しいコンセプトのMACが新提案される可能性も少なくはない。802.15.3c TGにおいては、MACの本格的な議論はまだされておらず、今後の動向が注目される。