802.16e-2005におけるARQ/HARQ(ハイブリッドARQ)
【1】ARQ(自動再送要求)の仕組み
無線通信などで、受信側が誤ったパケットを受信した場合、送信側に対してそのパケット(誤ったパケット)を再度、送送するように要求する仕組みのことを「ARQ(Automatic Repeat reQuest、自動再送要求)制御」と呼ぶ。このARQは、通信回線の伝送区間で発生するパケット誤りを、レイヤ2の「MACレイヤ」で再送処理することによって、低遅延で効率よくパケット誤りを補償する技術である。
ARQ方式では、送信データに対して、誤りを検出するために冗長ビット(CRCビット:Cyclic Redundancy Check、巡回冗長検査)を付加して伝送する(冗長ビット:本来送信すべき送信データではなく付加的な処理を情報のため冗長ビットと呼ばれる)。
受信側では付加された冗長ビットによって誤り検出を行い、誤りがない場合は送信側に対してパケットのシーケンス(順序)番号とACK(ACKnowledgments、確認応答)信号を返信する。誤りが検出された場合は、検出されたパケットのシーケンス番号と再送要求信号(NACK: Negative ACKnowledgments、否定応答)を返信し、誤りが検出されたパケットのみを再送し、これによって伝送区間で発生した誤りを補償する仕組みである。
これは、IEEE 802.16-2004で標準化された機能である。さらに、IEEE 802.16e-2005には、このARQに加えてハイブリッドARQ(複合型ARQ)がオプションとして追加され規定された。
【2】HARQ(ハイブリッドARQ)の仕組み
(1) HARQとは?
ハイブリッドARQは、ARQとFEC(Forward Error Correction、前方誤り訂正)を組み合わせて、パケット誤り訂正の効率を更に向上させる技術で、受信側でのパケットの合成方法によってタイプ-Iとタイプ-IIに分類される。
ここでFECとは、送信側が送信すべきデータに予め誤り訂正用の冗長ビットを付加(符号化という)して伝送し、受信側では受信したデータの中に誤りを検出した場合、予め付加された冗長ビットを用いて演算処理を行うことで誤りを修復(復号化という)して、元のデータを復元する誤り訂正方式である。
(2) チェイス合成法
WiMAX フォーラムでは、現在タイプ-Iに分類されるチェイス合成法(Chase Combining)をモバイルWiMAXの必須技術として規定しているが、IEEE 802.16e-2005ではチェイス合成法とともに、タイプ-IIに分類されるIR(Incremental Redundancy)法も標準化されている。
IR法はFEC符号化した全ての信号を初めからは送らず、パンクチャリング処理(最低限送信すれば元のビット列がFEC復号化で再生可能な程度までビットを間引く処理)を用い、ビット誤りが検出された場合に改めてパンクチャド処理をしたビット列を送信することで誤りを効率良く補償するHARQ方式である。ここでは、WiMAXフォーラムでプロファイルに規定されたチェイス合成法の処理手順を示す。
[I] チェイス合成法の処理手順
チェイス合成法では、
(a)送信側では、まず送信データ信号をFEC符号化して送信する。
(b)受信側では、受信データのFEC復号処理を行い、受信データにパケット誤りが残留していることを検出した場合は、送信側に対しパケット・シーケンス(順序)番号に対応してNACK(否定応答)を返信するとともに、誤りを検出したパケットを破棄せずに受信側のバッファ(メモリ)に蓄積する。
(c)送信側では、NACKが返されたパケットと同一のパケットを再送し、受信側では再送されたパケットと前にパケット誤りを検出してバッファに蓄積していたパケットとを最大比合成を行って、改めてFECによる誤り訂正処理を行う。
[II]チェイス合成法の処理手順の仕組み
チェイス合成法は、パケットを最大比合成することで受信パケットのSINR(Signal to Noise Ratio、信号対干渉雑音比)を向上させて、効率的にパケット誤りの低減を図る技術である。802.16e-2005の規定で、チェイス合成法は802.16e標準で規定しているすべてのFEC符号に対応することと規定している。図1にチェイス合成法の処理手順を示す。