NGNは電話網とインターネットのよいとこ取りを目指せ!
—やむをえないことなのでしょうか。具体的に何が問題なのか、詳しくお願いできますか
青山 図2は、そのインターネットと、今、ITU-Tが標準化しようとしているNGNの具体的な比較を示しています。インターネットは、IPパケットをルーティングするためのプロトコルだけを合わせたルータ網の自由な接続によって実現しています。
ベストエフォートが前提で、それぞれのネットワークについて誰が責任をもつとか、サービス品質とセキュリティに関する明確なルールも一切ありません。ベストエフォートのパケット転送だけを利用して、これまで多様なサービスが創出されてきました。こういう、いいところがあります。
一方、今、テレコム・キャリアが考えているNGNというのは、IP技術をベースとするけれども、従来の電話網のように一定の網管理機能を備え、各網の責任分担を明確にします。ですから、例えば、大手のキャリアが提供するNGNネットワークと、他のネットワークとを接続するためのNNI(Network to Network Interface、網間インタフェース)や、ユーザーと接続するためのUNI(User to Network Interface、ユーザー・網インタフェース)が規定されているわけです。
—たしかに、インターネットにNNIやUNIのようなインタフェースがあるということは聞いたことがありませんね
青山 そうです。インターネットには、NNIやUNIのようなものはないわけですね。しかしNGNでは、このようなNNI/UNIを規定して、それぞれの責任分界点をきちんと規定しましょうということです。それから、信頼性が高く、高品質(QoS)で高セキュリティのベアラ(パケット転送機能)も提供しましょう。一方、インターネット(The Internet)のベストエフォート・サービスも従来通り提供していきましょうということです。
ですから、ユーザーの要求として、従来のインターネットでもよい人は、定額制のベストエフォート・サービスを利用し、IP電話やIPTVのように、現行の電話やテレビ放送並みのQoSを保障してほしい人は別の料金体系のNGNサービスを利用するということが想定されます。その場合の料金をどう設定するのかが、これからの大きな問題となるでしょうね。どうみても、同じ料金でサービスするというのは、コスト上難しいですからね。
以上のことを整理してみますと、表2のようになります。前述の表1に示したA案の場合は、インターネットの基本的な性質を保存していくわけですから、非常に透明性(トランスペアレンシー)がありますが、いろいろなアタック(攻撃)とか、スパム・メールとか、そういうセキュリティがきちんと守れるのだろうか。それから、認証とか、QoSの保証とか、あるいは公平性などが確保できるかどうかという問題があります。
B案の方は、セキュリティなり、認証なり、QoSのコントロールなり、そういうのはきちんとできる機能をもっているが、インターネットのようなオープンなネットワークになるのかどうか。それからネットワーク事業者間の競争がきちんと行われるのだろうか、という問題があります。
—具体的に、ISPといわれるインターネット・プロバイダとの関係はどうなるのでしょうか
青山 通信事業の公平な競争環境に関する問題としては、例えば大手のキャリアなどがトランスポート・ストラタムとサービス・ストラタムを一括して(垂直統合して)提供するようになると、ISPはどう対応するのかということがあります。ISPはインターネット・サービスの提供は可能だが、NGNサービスを提供できるかどうか、ということなわけです。
大手キャリアがトランスポートとサービスの両ストラタムを垂直統合で提供したとき、従来の電話網のように、ネットワークのオープン性がなくなるのではないか。キャリアがすべてのサービスを垂直統合的に提供してしまうのではないかという恐れがあります。その辺をどう解決するかが問題ですね。
—先生としては、どのような形態が望ましいとお考えでしょうか
青山 私は、A案とB案の中間を取ったような、両方の良いところを併せもったようなNGN案を作るべきではないかと思っています。例えば、トランスポート・ストラタム、およびサービス・ストラタムの各レベルをオープンにできるように規定して、あるレベル以下は、キャリアのファシリティ(設備)をリース(賃貸し)しながら、それ以上のNGNサービスを提供する。あるいは上位のレベルを他のプロバイダにアウトソーシングするなど、いろいろな形で参入し、競争ができるような構成と制度の構築が重要だと思います。(つづく)
■■■
プロフィール
青山 友紀
慶應義塾大学
デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構 教授
略歴
1969年 東京大学大学院電気工学科 修士課程修了。同年、日本電信電話公社入社。以降、電気通信研究所において情報通信システム、広帯域ネットワークなどの研究に従事。1973年より1年間、米国MITに客員研究員として滞在。1994年 NTT理事 光エレクトロニクス研究所所長、1995年 NTT理事 光ネットワークシステム研究所所長を歴任。1997年より東京大学工学系研究科教授。2000年より2006年3月まで、東京大学大学院情報理工学系研究科教授。2006年4月、慶應義塾大学に転じ、現在、同デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構教授。工学博士。デジタル信号処理、光通信、超高精細映像、などに関する著書(共著、監修を含む)多数。
主な役職
日本学術会議会員、電子情報通信学会フェロー、現在 同学会副会長、IEEE Fellow、超高速フォトニックネットワーク開発推進協議会会長、デジタルシネマ実験推進協議会会長、NPOディジタルシネマコンソーシアム理事長、NPO映像産業振興機構理事、ユビキタスネットワークフォーラム副会長、JGN2(ジャパンギガビットネットワーク2)運営委員会委員長
主な受賞歴
第9回電気通信普及財団テレコムシステム技術賞(平成6年)
平成12年度情報通信月間志田林三郎賞
第47回前島賞(平成13年度)
電子情報通信学会論文賞(平成14年度および平成16年度)
電子情報通信学会業績賞(平成16年度)
情報通信技術委員会 情報通信技術賞総務大臣表彰(平成16年度)