テレコム事業者はNGNにリソースを集中へ!
—NGN(次世代ネットワーク)というキーワードが注目されています。最近、放送・通信の融合、第4世代(4G)携帯電話、アナログ放送からデジタル放送への完全移行など、2010年という一区切りに向かって、オール・デジタル化、オールIP化を軸にして、ネットワーク技術の世代交代が急速に始まろうとしています。そこで、技術的な側面からこれまでの展開と、これからを展望した予測をしていただきたいのですが
青山 はい。インターネットが急速に普及し、さらにADSLやCATV、FTTHなどによる高速・大容量な通信ができるブロードバンド・サービスへと発展し、日本は、世界で最も安くブロードバンド・サービスが提供されるようになってきています。この結果、電話のサービス自体も、インターネット(ブロードバンド)でIP電話が実現され、急速に普及しはじめています。
このため、基本的に電話の収益でビジネスを展開してきたテレコム事業者(通信事業者)は、従来の固定電話ビジネスが成り立たなくなりつつあるという状況となってきています。したがって、テレコム事業者は、IPという技術をベースに、IP電話サービスを提供するしかないと覚悟を決め、さらにIPで映像配信サービスもやると決断しています。
すなわち、IPをベースにした、
(1) インターネット接続(データ通信サービス)
(2) IP電話(音声通信サービス)
(3) IP放送(映像配信サービス)
という、トリプル・プレイ・サービスを提供し始めていますが、このようなビジネスを展開しない限りは、もう通信事業としてのビジネスが成り立たないという状況にあるのです。
したがって、とにかくこの3つのサービス(トリプル・プレイ・サービス)を、IPネットワークで実現する新しいネットワークを作るしかない局面を迎えているわけです。このため、IPをベースとしたネットワークとして、NGN(Next Generation Network、次世代ネットワーク)の標準化を、国際標準化機関であるITU-T(ITUの電気通信標準化部門)を中心に行っているわけです。
このようなNGNの標準化の進展と、それをベースにしたネットワーク・システムの開発が進み、NTTはNGNのフィールド・トライアル(実証試験)を始めつつあるところです。この結果2010年頃には、NGNによる本格的なトリプル・プレイ・サービスが始まっているだろうと思います。
その中でその一番大きな問題は、IPネットワークで、トリプル・プレイ・サービスを実現する方法には、いろいろなやり方があることです。すなわち、テレコム事業者の考え方と、従来からインターネット接続サービスを主体にやってきたISP(インターネット接続サービス事業者)の考え方は、必ずしも同じ意見ではないことです。
—具体的にはどのような考え方の違いですか?
青山 テレコム・キャリアは、現行の電話サービスをIPネットワークで提供するには、現在のインターネットではセキュリティの脆弱性や安定した品質の提供に問題があるので、ネットワーク・レイヤでのQoS制御やユーザー認証などの制御機能の付加が必要である、と考えています。
このため、ITU-Tの標準化においてもパケットの転送を担当するトランスポート・ストラタム(ストラタム:NGN用語で、レイヤと同じ意味)に加えて、ネットワーク制御を行うサービス・ストラタムから成るプロトコルの標準化を進めております。
これに対して、従来からインターネットを提供してきたコミュニティは、インターネットの基本原理であるネットワーク・レイヤは、単にベストエフォートでパケット転送を行う「ステュピッド・ネットワーク」(Stupid Network)であるべきであり、これによってインターネットのメリットである透明性・オープン性が確保できる、としています。さらに、ITU-Tの標準案では、キャリアのみが(トランスポート+サービス)ストラタム機能を提供する垂直統合モデルであり、企業間競争上に問題があると批判しています。
このため、今後いろいろな議論が行われ、総務省などで制度的な検討がされるのではないかと思います。すなわち、通信産業そのものが、技術的にも、制度的にも、あるいは産業的にも、非常に重要な曲がり角にきているということだと思います。