[特集]

対談:NGNリリース1と技術的チャレンジを語る(4):インターネットによる影響とNGN普及の条件

2007/03/19
(月)
SmartGridニューズレター編集部

NGNに関するITU-T勧告であるNGNリリース1が制定され、さらに世界に先駆けて、NTTで2006年12月から本格的なNGNのフィールド・トライアル(実証実験)が開始されるなど、NGNは大きな注目を集めています。そこで、NGNの標準化とその技術的チャレンジについて、東京大学大学院 工学系研究科 電子工学専攻教授 森川博之先生と、NTTサービスインテグレーション基盤研究所 主席研究員 村上 龍郎氏に対談していただきました。
<テーマ1>『標準化されたNGNリリース1の全体像とその特徴』
<テーマ2>『NGNに対する世界の通信業界の動きと日本の役割』
<テーマ3>『NTTによるNGNフィールド・トライアルとNGNのオープン化』
につづいて、今回は、
<テーマ4>『インターネットがNGNに与えた影響とNGN普及の条件』
ついてお話いただきました。
(文中 敬称略、司会:インプレスR&D 標準技術編集部)

森川博之 vs 村上龍郎

 

インターネットがNGNに与えた影響

—広く普及しているインターネットは、NGNにどのような影響を与えたのでしょうか

森川 インターネットがNGNに与えた影響について重要なことは、とくにインターネットというものがあったからこそ、先ほどのNGNのANI(NTTはSNI)というものが出てきたのだと思いますね。インターネットがなかったら、キャリア1社が何でもサービスしてしまう、従来と同じようにキャリアだけの垂直統合サービスとなりますね。したがって、NGNが成功するには、インターネットの成功した背景を引き継ぐ必要があります。

キャリアは、すべてのアプリケーションを考えることはできません。アプリケーションは、やっぱり世の中のいろいろな人が考えるものなのです。この考え方は、やはりインターネットの一番重要な基本的な考え方なので、NGNはそれをそのまま引き継いでいくことが大切です。このように、キャリアだけではなく、いろいろな人が自由自在な発想でもって、新しいアプリケーションをNGNに入れ込めるような仕組みをつくっておかないといけないと思います。

—村上さんはいかがですか

村上龍郎氏

村上 先生のお話と似ているのですけれども、ざっくり言うと、1つは、インターネットのように世界的にある規約(IPプロトコル)でつながるというグローバル・コンセンサスが、非常に重要です。IPを使うというのは、そういうグローバル・コンセンサスがとれている技術であり、多くの方々が集中して技術開発する技術であるということが、インターネットがもたらした非常に大きな力です。

それからもう一つは、今までの電話などはネットワーク側でほとんどの処理をやっていたのですけれども、端末側との機能分担ができるようになります。これもインターネットがNGNにもたらしたものです。

—ネットワークと端末の役割分担ということですね

村上 それから3つ目は、サービス・プロバイダ(ISPやASP)は、インターネットでどんどん育ってきています。自由な発想でいろいろなものをつくっているサービス・プロバイダは、これから新しく連携していくうえで重要なパートナーだと思います。ですから、そういうサービス・プロバイダのような豊かな発想の方々とは、これからNGNを広めていくためにも協力関係を結んでいくことが大切だと思っています。

NGNはIPv4なのか、IPv6なのか?

—ここで、話が少しそれますが、インターネットがもたらした変革という中で、IPv6の位置づけをお話いただきたいのですが。NGNというのはIPがベースですが、それはIPv4なのかIPv6なのかということをお話いただきたいのですが

村上 私はIPv6の専門家でないですし、日本にはIPv6を牽引しておられる方々がおりますので、大変発言しにくいところではありますが、客観的立場でお話します。はっきり言いますと、NGNではデュアル・スタック(IPv4とIPv6の両方)をサポートしています。

NGNというのは、ネットワークだけでサービスを提供するのではなくて、端末側のアプリケーションと連携してサービスを提供しますので、アプリケーションがIPv4とIPv6のどちらを望んでいるかによるわけです。ですから、アプリケーションがIPv6対応というのであれば、ネットワークでIPv6をサポートしなくていけませんし、IPv4対応というならIPv4をサポートしなくてはいけないのです。とくにIPv4のサービスは歴史的にも広く普及していますので、継承性を考えると、IPv4には対応せざるを得ないのです。

—なるほど

村上 アプリケーションとして、例えば、家電系だとか、ユビキタスのようなものになってくると、多分IPv6対応の製品が多く出てくるんでしょうけれども、現在のアプリケーションはやっぱりIPv4が主体です。

森川 ネットワークの内部ではいかがでしょうか?

村上 これも個人的な見解ですが、内部でどう対応するかというのは、これは実装の問題です。要するに、IPv6の実装技術がどのぐらい優秀なものが出てくるかということです。例えば、IPv6ではパケットが長くなったりするので、オーバーヘッド(付加的処理)が大きくなったりします。ですから、IPv6の特徴を生かした効率のよいルータとか、オペレーションしやすいルータなど、ネットワーク上のルータの性能や保守性の問題になります。客観的に言えば実装技術も含めて、現在一番よいものを使っていくということかと思います。

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