NGNの次に、GENIのようなイメージも登場
—NGNの今後の方向性や課題についてお話いただきたいのですが
森川 今後3つの課題があると思います。1つ目は、多くの方々にNGNの本質というものをわかっていただくことがとても重要だと思います。とくに、NGNが世の中を変える基本的な力となるのは、サード・パーティの力だということをしっかり理解して欲しいと思います。
ですから、キャリアはトラフィックを運ぶビジネスではなくて、プラットフォームを提供するビジネスだということを基本にして、サード・パーティがどんどん参入し、新しいビジネスができるような環境づくりをして欲しいということです。これが、NGNが発展していく方向と思います。
2点目は、せっかく日本でNGNのフィールド・トライアルを世界に先駆けて先行してやっていますので、ぜひともグローバルに展開していく方策が必要であるということです。
3点目としては、まだ研究レベルですが、NGNの次の研究テーマについて取り組まなくてはならないという課題です。例えば米国でも、FIND(Future Internet Design)というプロジェクトが進みつつあり、現在のインターネットと互換性がなくてもよいから、抜本的に現在のインターネットをつくり直そうという突拍子のない取り組みが、米国でさえ開始されています。
—互換性がないということは、TCP/IPを使わないということでしょうか
森川 ええ、TCP/IPはもういいですよということです。このFINDは、インターネットの設計指針を作った一人であるMIT(マサチューセッツ工科大学)のデビット・クラーク博士などが中心となって推進しています。現在のインターネットを根本から考え直さないと破綻を来すかもしれないという理由からです。これは、TCP/IPにとらわれない新世代のネットワークを2015年とか2020年ぐらいのスパンで実現しようという構想です。これは、NGNの次のテーマですが、そういうこともあわせて、パラレルに考えていく必要があると思っています。
—村上さん、NGNの現実的な課題はいかがですか
村上 NGNは、現在、日本が世界の先頭をきってフィールド・トライアルを進めていますが、ベンダさんも含めて、NGNをやっている人たちに元気が出るようにしていかなくてはいけないと思っています。それから、もう一つは、日本の社会全体として、NGNになってよかったといわれるようにしていきたいと思っています。さらに、日本の学生をはじめ若いエンジニアの方々が、NGNを契機にして、どんどん日本発のいい技術を研究開発してみたくなるようなNGNしていきたいと思っています。
NGNの標準化については、絵を描く(アーキテクチャを構想する)のが得意な、欧州の人たちが最初に引っ張っているところがあります。一方、IPの世界は米国が引っ張っていますが、現在、NGNを一生懸命実装しフィールド・トライアルにチャレンジしているのは、日本なのです。ですから、フィールド・トライアルでチャレンジをしたものを、ぜひとも標準化の場でフィードバックしていきたいと思っています。
—なぜ、欧州が最初にNGNを引っ張っていくことになったのでしょうか
村上 これは、欧州、とくに英国のBT(ブリティッシュ・テレコム)の深刻な事情があったのです。BTの人に、うち(NTT)もNGNのフィールド・トライアルをやることになったのでBTのどこかを見せてもらえないかなと聞いたのです。そうしたら、それは見てもおもしろくない。BTというのは、朝あけてみたら、知らないうちにNGNになっていた。要するに、顧客(ユーザー)が勘づかないうちにNGNに収容換えされているというのが、BTのNGNなのだ。だから、見ても何もおもしろくない。もし見て、ユーザーがNGNだとわかるようだったら、それは失敗なのだというのです。
—それは結局、新しいサービスをやっていないということですか
村上 いやいや、あまり言い過ぎるとBTの友人に怒られてしまいますね。対照的な側面を強調して言っているのであって、BTも新サービスを積極的に検討しています。ただ、BTのNGNは、電話交換機のルータへの置きかえを最優先しているということです。ですから、BTでは「エミュレーション」というのが一番の課題なのです。「エミュレーション」とは何かというと、顧客にまったく気づかれずに、電話の交換機をルータに置きかえ、気づかれないようにIP電話にするということなのです。一方、米国は放送サービスなども取り込んだトリプル・プレイ・サービスなども構想に入れていますので、英国とはだいぶ違います。
—BTはそんなに深刻なのですか
村上 深刻ですね。それはBTが、ずっと電話の交換機を新しい交換機に置きかえてこなかったことに原因があります。NTTは、今振り返って考えてみると無謀ともいわれてしまうかもしれませんが、10年ぐらい前に新しい交換機(「新ノード」と呼ばれている)をつくっているのです。
その当時は、もう少しISDNがワーッと普及すると予測していたため、新しい交換機につくりかえたのです。しかし、あまりワーッとは来ませんでしたが、それが今になって役立っていまして、その交換機がまだもつ状況なのです。ですから、私たちは、2010年に、6,000万加入のうち、半分の3,000万をNGNにするというような余裕のあることを言えるわけですよ。BTは、現在、ほとんど交換機がだめになってしまっているので、全部置きかえないと電話サービスが提供できないほど深刻なのです。
—NGNで、英国が進んでいるということはそういうことなのですか
村上 そういう事情があるのです。例えば、ドイツ・テレコムは、旧東ドイツを中心にISDNがかなり入っています。すなわち、ISDN(交換機)へ投資したという経緯を踏んでいるわけです。結果として、NTTと同じように交換機の寿命に関して、もう少し余裕があるわけです。このため、単なる交換機の置き換えというのではなく、新しいビジネスを考えながらNGNを取り組んでいけますが、BTにはなかなかそういう余裕がないのです。
だから、NGNといっても、国によって事情はまったく違っているのですね。日本の事情というのは、ブロードバンド・サービスを、非常に意識していますが、私たちは、そこが一番成功していると思います。