中立な新議長の下で議事を再開
次世代のワイヤレス・ブロードバンド「MBWA」(Mobile Broadband Wireless Access、広帯域高速移動通信アクセス)の標準化を審議しているIEEE 802.20WG(ワーキング・グループ)は、2006年6月16日、IEEE-SA(IEEE Standard Association、IEEE標準化協会)の判断によって、ワーキング・グループの活動が一時休止となった後、同年9月19日に、IEEE-SAにより802.20WGにおける議長団の更新、有権者(メンバー)の所属企業・スポンサー企業の明確化、運営の透明性・公平性の監視機関設置を行う条件で、11月ダラス会合より活動が再開されるとの通知があった。以降、802.20や802.16(BWA:Broadband Wireless Access、広帯域高速通信アクセス。WiMAX)の主要企業に属さない、中立な新議長の下で議事が再開された。
11月の会合では、はじめに、出席者のひとりひとりに氏名、所属企業、参加の目的の表明が求められた。続いて、休止直前の状態〔802.20仕様は2回のレターバロット(投票)が完了〕までのWG活動における審議内容と出力ドキュメントのレビューおよび引き続く標準化審議手順が議論されている。なお、802.20における審議の再開に際し、IEEE-SAにより、2008年12月まで2年間の標準化作業期間延長がなされた。
また、新たな提案募集を受け入れる機会を設けることが決められ、2007年3月と5月の会合で方式の審議が行われる。2007年1月のロンドン会合では、議長から2007年7月スポンサーバロット開始のワークプランが示された。WG休止前の評価基準、要求条件その他の出力はほぼそのまま今後の審議に反映させられる。2007年末の標準化完了を予定に作業が進められている。
モトローラ、サムスン/LG電子が新提案を!
2007年3月、802.20のフロリダ会合での新提案のプレゼンテーションでは、モトローラ(Motorola)社が3GPP2 UMB-FDD (Ultra-Mobile-Broadband – FDD)ベースのシステムの提案を行い、また韓国のサムスン(Samsung社)とLG電子(LGE)社がその要素技術の提案を行った。802.20仕様は、今後現在のベースライン(基本)仕様にこれらの新提案をマージ(統合)させて、新たなベースライン仕様を作成することになった。
その際には、次の3つの観点が考慮されることになった。
(1)802.20の現行ベースライン仕様と、UMB-FDD提案仕様のハーモナイゼーション(仕様統合)
(2)要素技術提案の採用
(3)802.20 TDD方式Widebandモード仕様への(1)の反映
この新たな統合仕様の概念を図1に示す。
モトローラ社の提案とLG電子社提案の大部分は、3GPP2 UMB-FDD仕様に準拠していること、および802.20現行ベースライン仕様は3GPP2 UMB仕様のベースライン仕様であったため、これらの仕様は整合性がよく、その統合は比較的に容易に進むものと推定されている。また、802.20のFDDとTDD-Widebandの仕様をデュプレックス(複信方式)以外では同じにするため、FDDへの仕様変更はTDD-Wideband仕様にも反映される予定である。新たなベースライン仕様は、4月11日までに整備され、5月のモントリオール会合で仕様審議が行われ、その後レターバロット(投票)へと進む予定である。
現行の802.20ベースライン仕様による「UMB」が標準化へ
2007年3月に、モトローラ社が802.20に提案したUMB-FDDベースのシステム提案は、2006年1月の802.20ベースライン仕様をもとに3GPP2で改良が加えられたものである。802.20標準化が紛糾していた2006年後半には、802.20技術を核として、3GPP2 Evolution Phase-2の方式審議が着々と進んでいた。
その前の2006年8月に発表されたCDG (CDMA Development Group)のプレス・リリースでは、チャイナ・ユニコム(China Unicom)、ファウェイ・テクノロジーズ(Huawei Technologies)、KDDI、LG電子、ルーセント・テクノロジーズ、 モトローラ、ノーテル、クアルコム、 RITT、サムスン、ZTE(ゼティ)の間で基本方式の合意がなされたことが発表されている〔リリースはこちら(PDF) 〕。この方式は、その後UMBと呼称されることになり、802.20の標準完成よりも早く、2007年4月に標準化完了の予定となっている(UMBの最大伝送速度:10MHz幅の場合下り140Mbps、上り34Mbps。20MHzの場合下り280Mbps、上り68Mbps)。
2007年3月会合以降のIEEE 802.20における標準化の流れを見ると、IEEE生まれの802.20技術が、CDMA2000を中心とするIMT-2000方式の標準化を手がけてきた3GPP2において、より多くの提案が受け入れられて新たな標準方式(UMB)となった結果、それ(UMB)が、再びIEEE 802.20へ戻り、本家(802.20)の仕様とも統合された提案が行われる結果になってきている、と言える。
言い換えると、異なる標準化組織(IEEE 802.20と3GPP2)の間で、共通性の高い標準仕様の開発が進んでいるとも言える。これは、オペレータ(移動通信事業者)とベンダの双方にとって、エコシステムを形成し、安価で高機能な広帯域無線アクセス・システムを普及させる上では望ましいことである。
一方、日本国内においては、2006年12月に一部答申が出された総務省の「広帯域移動無線アクセスシステム委員会」の2.5GHz帯の技術的条件に関する議論において、802.20のMBTDD-WidebandとMBTDD-625kMCはその方式として承認された。IEEE802.20標準仕様の日本への導入準備が始まりつつある(略語は図1を参照)。
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