[標準化動向]

802.20(MBWA)の標準化動向(1):3つの標準ベースライン仕様を決定

2006/07/12
(水)
SmartGridニューズレター編集部

ここでは、802.20WGの標準化活動を中心にレポートする。802.20WGは、高速な移動環境においても高い実効速度と周波数利用効率を実現できる、MBWA(Mobile Broadband Wireless Access、広帯域高速移動通信アクセス)の標準仕様策定の最終段階にある。しかし、2006年6月16日に、2006年10月1日まで802.20WGの一切の活動を一時休止する通達が出された。ここでは現在までの標準化の経緯をまとめて解説する。

時速250kmの高速無線移動通信を目指す
802.20WGの標準化内容

IEEE802委員会で、高速な移動体通信を要求条件としてプロジェクトが議論されたのは2002年3月以降のことである。当時、固定無線サービスに対応するものとして802.16WG (Working Group)が存在していた。

当時、フラリオン(Flarion)社やアレイコム(ArrayComm)社をはじめとする企業は、802.16のPAR (Project Authorization Request、プロジェクト要求条件)に、移動体性能サポートの要求条件を記載しようと働きかけたが、認められなかったため、新たなワーキング・グループ(WG)を設立し検討することになった。この新たなWGは2002年12月に承認され、2003年3月802.20WGとして発足した。

一方、802.16WGでも、移動体サービスをサポートすることを記した802.16eのPARが2002年11月に承認された。802.16eは固定(静止)端末での仕様環境を前提に設計された802.16-2004標準の移動環境への拡張版であるのに対し、802.20はじめから高速移動環境への適用を前提としたIPデータ伝送システムとして設計される点が大きな特徴となっている。

2002年12月に策定された802.20のPARには、次のような項目が示されている。

  1. 3.5GHz以下でのライセンス・バンド(免許必要周波数帯)で運用
     
  2. IPデータ伝送に最適化された設計
     
  3. ユーザーあたりの最大伝送速度1Mbps以上
     
  4. 移動速度は最大時速250kmでのサービスが可能で、かつ、高い周波数利用効率、ユーザー伝送速度やユーザー数を維持し、今日の移動通信システム(=3G移動通信)の性能を陵駕すること

802.20WGにおけるベースライン(基本)仕様

その後、802.20WGはシステム要求文書(SRD:System Requirement Document) で最終的な目標仕様(表1)を決定し、標準化プロセスと評価方法を議論してきた。しかし、PARに記された要求条件やたいへん難しいSRD目標仕様を実現するための方法や技術の評価方法をめぐり、審議に多くの時間を費やすことになった。

表1
表1 802.20の要求条件 (クリックで拡大)

この間に、多くの802.20WG参加者は同じく移動体サービスの標準化を目指す802.16eに移動し、802.20WGでは802.20のPARの実現を目指す参加者を中心に議論が進行してきた。

【1】システム提案と要素技術提案
こうした背景の下に、2005年9月にベースライン(基本)仕様が開始された。締め切りは、同年10月28日に設定され、次の提案が提出された。

  1. システム提案(Complete Proposal)

    [FDD方式」
    ■QFDD(Qualcomm)

    [TDD方式]
    ■QTDD(Qualcomm)
    ■BEST-WINE (iBurst) (Kyocera)
     

  2. 要素技術提案(Partial Proposal)

    (1) OFDM技術 (KDDI)
    (2) FDDでのOFDMA技術 (ETRI)
    (3) Multi Antenna技術 (ArrayComm)

同年(2005年)11月会合において、これらの発表が行われたが、その後、システム提案(Complete Proposal)を軸に提案の統合が模索され、TDD方式ではQTDDとBEST-WINE の間で提案の統合が行われた。この結果、2006年1月会合において最終的に次の統合提案が示された。

【2】ベースライン(基本)仕様

  1. TDD方式(MBTDD)

    ■625kMCモード
    ■Widebandモード
     

  2. FDD方式(MBFDD)

    ■Widebandモード

これら両提案は802.20WGで承認投票にかけられ、参加者の約80%の支持を得て標準ベースライン(基本)仕様として決定された(図1)。

図1
図1 802.20標準のベースライン(基本)仕様 (クリックで拡大)

このベースライン仕様はWGメンバー〔有権者(注1)〕によるレターバ・ロット(Letter Ballot、投票)により仕様の修正を行い、参加者の75%以上の承認を得た時点で、IEEE802参加者(有権者)全員によるスポンサー・バロット(Sponsor Ballot)を行い、同じく75%以上の承認を得ると、標準仕様として承認を得られることになる。

2006年3月、1回目のレター・バロットが終了し、仕様は79%の支持を得て承認された。802.20WGは、さらに2回目のレター・バロットを行い、同年6月承認率84%を獲得し、終了させた。この後、2006年7月会合からスポンサー・バロットのプロセスに入る予定となっていた。

IEEE-SAによる802.20WGの活動一時休止の通達

しかし、順調に仕様策定が進む一方で、802.20WGは2005年秋のシステム公募が始まって以来、802.20WGの標準化プロセスなどに関するインテル社やモトローラ社からの異議申し立てと、それに対する802.20WG議長からの反論が行われるなど、WG(ワーキング・グループ)内外で大きな論争を起こしていた。また、2005年11月以降の急激なWG参加者数の膨張に伴い、従来の有権者数をはるかに上回る新たな有権者が生じ、WGのメンバー構成が大きく変化していた。

2006年6月16日、802.20WGの上部組織にあたるIEEE-SA (Standards Association、標準化協会)は、802.20WGの一切の活動を同年10月1日まで一時休止するとの通達を出した。その通知レターの要旨は次のとおりである。

  1. IEEE-SAは2006/6/8決定として、同年10/1まで802.20WGの全ての活動を一時的に休止する。
     
  2. 休止の理由:

    (i) WGに関して3つの要請・異議申し立て(appeals)が保留状態であり、通常のIEEE-SA状態よりも論争がたいへん高まっている状態であること。

    (ii) 予備的調査において、WG運営の透明性の欠如(lack of transparency)、WG支配の可能性(possible dominance)、WG運営の不正(Irregularities)が示されたこと。
     

  3. IEEE SA標準役員会(Standard Board)はこの休止期間に保留状態にある要請・異議申し立てを熟考する。
     
  4. 802.20WG参加者の考えをIEEE SA標準役員会(Standard Board)とIEEE-SAとで共有し実行できる解決法をさぐる。

以上のように、IEEE-SAは802.20WGで起こっている事実を正確に把握し、正しい解決法を見つけようと一時的に802.20WGの一切の活動を休止にした。

802.20WGの活動は10月1日まで休止するが、その後再開され、11月13日に次回の会合が開かれる予定となっている。次回会合以降の標準化プロセスは、9月に開催される予定のIEEE-SAの裁定に委ねられている。


 

(注1) IEEEでの議決はすべて投票によって決定される。IEEE会合参加者は規定されている回数の会合への直接の参加により有権者となることができ、1人1票の投票権を得ることができる。他の標準化機関の多くは1社1票であることが多く、大きく異なる点である。

[参考文献]
(1) http://grouper.ieee.org/groups/802/20/Documents.htm

(2) IEEE802.20-PD-03 Mobile Broadband Wireless Access Systems: Five Criteria (FINAL) (02/11/13)
(3) IEEE802.20-PD-02 Mobile Broadband Wireless Access Systems:Approved PAR (02/12/11)
(4) SRD: IEEE802-20-PD-06 “System Requirements for IEEE 802.20 Mobile Broadband Wireless Access Systems Version 14”
(5) http://ieee802.org/SASB%20802.20%20Suspension%20Announcement.pdf

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