―日本がなぜNGNを取り組むのか、その背景はよくわかりました。それでは、具体的に日本の政府はどういう取り組みをしようとしてきたのか、あるいは現在しつつあるのかというところをお話しいただきたいのですが。
渡辺 1つは、産・学・官の連携のもとに、次世代IPネットワークの相互接続試験や実証実験に総合的に取り組むとともに、研究開発・標準化などを戦略的に推進することを目的として、「次世代IPネットワーク推進フォーラム」(※1)が設立(2005年12月、218社参加))されました(図1)。
次世代のIPネットワークの早期実現には、技術基準や研究開発などの技術的な環境整備を早期に進めることが一番の課題であると思っています。そのため、国としても、ネットワークのIP化に対応した技術基準を策定するため、2005年10月に政府の情報通信審議会に技術基準の検討を諮問し検討が始動しました。「次世代IPネットワーク推進フォーラム」には、この審議会の検討に積極的に寄与していただいています。
具体的なターゲットは、2007年末までに技術基準を整備することです。ご存知の通り、NGNにおける具体的なサービスは、
- (1)PSTN(公衆電話)/ISDNエミュレーション・サービス(現在の電話サービスをそのまま再現)
(2)PSTN/ISDNエミュレーション・サービス(電話サービス以外にマルチメディア・サービスも提供)
と言われるように、IP電話を基本にしたサービスの提供からスタートします。このため、2007年中に電話系の技術基準を整備しようということで、現在検討が進められているわけです。これをできるだけ早期に行うことで、NGNに対応した電話サービス(IP電話サービス)を提供していこうとしています。
こういった基準づくりをしていくに場合には、以前であれば、NTTとかKDDIなどの大手の通信事業者が中心となって検討が進められました。しかし、現在は様相が一変し、従来の通信事業者に加えて、通信機器ベンダーや、多くのインターネット系の通信事業者(ISP)の方々にも参画していただき、オール日本として一致団結して進めていこうということで、前述した「次世代IPネットワーク推進フォーラム」がスタートしたわけです。
―それは、画期的なことですね。
渡辺 「次世代IPネットワーク推進フォーラム」では、NGN関係の標準のたたき台の作成や研究開発をはじめ、国際的な標準化活動や普及促進の活動をしています。
このフォーラムの事務局は、情報通信研究機構(NICT)が担当しています。NICTは、最大2.4Gbpsの伝送速度をもつJGN(Japan Gigabit Network、日本の研究開発用ギガビット・ネットワーク)をはじめ、現在はそれを発展させた最大20Gbpsの新たな超高速・高機能研究開発テストベッド・ネットワークであるJGNⅡをもっており、これらを活用しながら研究開発活動を展開しています。
当然、フォーラムの中には、無線系を中心に国際標準化活動を展開している社団法人電波産業会(ARIB)や、NGNをはじめ有線系を中心に国際標準化活動を行っている社団法人情報通信技術委員会(TTC)などの、標準化団体も参加して幅広く活動を行っています。
また、次世代IPネットワーク推進フォーラムには、次世代ネットワーク(NGN)をできるだけ早く世に出すために、「技術部会」や「研究開発・標準化部会」などを設置して綿密な検討を行っています。このようにして、標準化や技術基準づくりを行う審議会や国と、多彩な業界団体で構成されるフォーラムとが連携をとりながら、標準化に向けて活動を進めています。
―国がやる技術基準づくりとITU-T勧告のNGNのリリース1との関係はどのように整合性をとっているのでしょうか。
渡辺 現在、ITU-T勧告のNGNのリリース1に関連する技術基準づくりの個別の具体的な課題については、図2に示すように、
- (1)品質・機能の確保の課題
- (2)安全性・信頼性の確保の課題
- (3)相互接続性・運用性の確保の課題
などが検討されており、これらの課題に対しては、図2の右側のような方向性が打ち出されています。
情報通信審議会は、今年(2007年)1月に第1次答申として、「0AB~J番号」(例:03-5275-1087のような通常の電話番号)を使用するIP電話に関する技術的条件をとりまとめました(※2)。
この条件の中では、NGNのリリース1をベースとして、具体的なIPネットワーク(NGN)に関する音声の品質基準が提言されています。
ただ、今後、勧告化される予定のNGNのリリース2やリリース3では、いろいろなアプリケーションやサービスが出てくると予想されます。そうした動きに適切に対応するため、2007年2月から次世代IPネットワーク推進フォーラムの中に、図1の右上に示すように、
- (1)IP電話SWG
- (2)コンテンツ配信SWG
- (3)固定・移動シームレスSWG
- (4)端末・網SWG
という新しい4つのSWG(Sub-Working Group)を設置し、新しい体制を組んで活動を展開しています。
―NGNの今後の展開に備えた組織作りですね
渡辺 そうです。この新体制では、NGNにおけるFMC(固定・移動のシームレスなサービス)とか、NGN対応の端末などをターゲットに開発していこうではないかと思っています。当然、今後、順次標準化されていくITU-TのNGNリリース2やリリース3の動きも見ていく必要があります。このような動きを見ながら、日本としての具体的な基準づくりを行う前に、どのようなコンセプトで基準をつくるかということを6月ぐらいまでに仕上げ、12月ぐらいを目途に、この辺の具体的な基準をまとめていく方針で活動しています。(つづく)
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プロフィール
渡辺 克也
総務省総合通信基盤局電気通信事業部
電気通信技術システム課長
略歴
1984年 慶応義塾大学工学部卒業
1984年 郵政省入省
1997年 郵政省東海電気通信監理局放送部長
1998年 郵政省電気通信局マルチメディア移動通信推進室長
2001年 総務省情報通信政策局研究推進室長
2003年 独立行政法人通信総合研究所 主管
2004年 独立行政法人情報通信研究機構 統括
2005年 現職