[標準化動向]

802.16(BWA)の標準化動向(6):IEEE802.16j(Relay TG)の進捗状況

2007/05/28
(月)
SmartGridニューズレター編集部

IEEE 802.16標準は、2001年に固定系無線アクセス(FWA : Fixed Wireless Access)を目的に標準化が開始され、2005年12月にはモバイル環境での利用を可能とするIEEE 802.16e-2005(モバイルWiMAX)が標準化された(標準化の経緯については第1回記事を参照 )。今回は、複数の中継局を経由して通信を行なうマルチホップリレー(IEEE802.16j)に関するRelayタスクグループの進捗状況について報告する。

 IEEE802.16j Relay TGでは、第45回会合(2006/9/25-28)において、評価手順(Evaluation Methodology)、用語定義(Definitions and Terminology)、利用シナリオ(Usage Models)、技術要求事項(Technical Requirements)、標準ドキュメント目次(Table of Contents)の議論が終結した。

 これを受け、マルチホップリレー(当初MMR: Mobile Multi-hop Relayと呼ばれていたが、対象をモバイルに限定しないことから最近ではMR: Multi-hop Relayと呼ばれている)に関する技術提案が募集(Call for Technical Proposal)され、第46回会合(2006/11/13-16)では156件、第47回会合(2007/1/15-18)では170件にも及ぶ寄書が提出された。現在までに、マルチホップリレーを実現する方式のフレーム構造などの一部仕様がまとめられてベースラインドキュメント(P802.16j Baseline Documents)として更新されている。なお、当該ドキュメントはマルチホップリレーを具現化するために必要な技術事項を既存のIEEE802.16e-2005に追記される形で作成されるものである。

1.MR技術の課題

 現在、Relay TGではMR技術を具現化するため、大きく2つの技術課題についての検討が進められている。

 1つは、マルチホップ機能に対応したRS(中継局)が設置された環境において、MS(移動局)がRSおよびMR-BS(マルチホップリレー対応基地局)を経由してWiMAXネットワークに接続されるための経路選択や、移動管理などの通信制御手順(プロトコル)の検討であり、現在、標準化会合に多くの寄書が提出され、活発な議論が進められている。

 もう1つは、WiMAXシステムがTDDモードで運用される場合に、MR-BSが送信する信号と同一の周波数を用いてRSが配下のMSに向けて、再送信を行う場合、MR-BSの送信信号とRSの送信信号がMS受信において相互に干渉を引き起こさないフレームを構成する検討である。

 フレーム構造に関する検討は、第46/47回の会合での議論を経て概ね構成が固まった状況となっており、今回はこのフレーム構造についての解説を行う。

2.フレーム構成

 TDD複信でMR方式を用いる場合の通信モードとして、透過型(Transparent)中継モードと非透過型(Transparent)中継モードの2つの通信コンセプトが定義された。図1および2に各コンセプトの通信モデルを示す。

図1 透過型中継モードの通信パスモデル
図1 透過型中継モードの通信パスモデル(クリックで拡大)

 

図2 非透過型中継モードの通信パスモデル
図2 非透過型中継モードの通信パスモデル(クリックで拡大)

 

 透過型中継モードは、MR-BSが構成するセル内において、MR-BSが送信するプリアンブル(Preamble:前置信号)や、MAP情報などの制御信号が直接受信可能なエリアで用いられる事を前提としたモードで、セルエッジ等に位置するMSに対するスループット向上を目的としている。このモードは、RSがMSに対して送信する領域ではプリアンブルなどの制御信号の再構築処理は行わず、MR-BSからのプリアンブルをそのまま利用し、ユーザデータに割り当てる領域の効率的な利用を想定するものである。一方で、非透過型中継モードは、カバレッジエリア拡大を目的として、MR-BSの制御信号が受信できないエリアにRSを経由して送信するケースを想定したモードで、RSがMSに対して送信する信号の先頭にプリアンブル、FCH(Frame Control Header:フレーム制御ヘッダ)MAP情報などをRSにて付加して送信するモードである。

(1)WiMAXのフレーム構造

 TDD複信方式で運用されるWiMAXの通常のBS(基地局)の送受信信号フレーム構造を図3に示す。フレーム内には、BSからMS方向に送信されるDLサブフレームとMSからBS方向に送信されるULサブフレームのほかに、送信/受信領域の切替えのためのTTG(Tx/Rx Transition Gap)と、RTG(Rx/Tx Transition Gap)が含まれる。

 DLサブフレームの先頭部分にはプリアンブルが設けられ、通信の初期段階でMSがネットワークに同期を確立するためや、BSからの受信信号の品質を計測する目的で使用される。

 続いてFCH, DL-MAP(Down Link Mapping message:下りリンクMAP情報), UL-MAP(Up Link Mapping message:上りリンクMAP情報)が送信される。ユーザデータの通信に用いられる信号は、MAP情報に引き続くDL-Burst領域に割り当てられて、BS⇒MS通信が行われる。FCHは予め定められた形式で送信され、後続するDL-MAPなどの制御情報が正しく読み取れるように、MAP領域の変調方式や符号方式などを端末に伝えるために送信される報知情報である。DL-MAPおよびUL-MAPはDL-Burst、UL-Burstそれぞれに含まれるユーザデータの位置(周波数および時間スロット)を示す情報として送信される制御信号である。

 また、ULサブフレームには、上りリンクのユーザデータを格納するUL-Burstが含まれ、一部の領域は端末が基地局に対して時間同期の補正や送信電力補正を行うレンジング処理のために用いるレンジングサブチャネルに割り当てられる。

図3 通常BSの送受信フレーム構造
図3 通常BSの送受信フレーム構造(クリックで拡大)

(2)透過型中継モードのフレーム構造

 図4に透過型中継モードに対応するMR-BS送受信信号のフレーム構造を示す。図4に示すフレーム構造は、図1下りリンク(1)、上りリンク(2)の通信経路で使用されるものである。

 MR-BSが扱うフレームは、通常BSのフレームと共通の基本構造を持ち、フレーム内にはDLサブフレーム、ULサブフレーム、TTGおよびRTGによって構成される。DLサブフレームおよびULサブフレーム内にはRSおよびRSの配下に存在するMSとの間の通信に用いられる領域として、下りではオプショナル透過ゾーン(Optional transparent zone)を、上りではUL中継ゾーン(UL Relay zone)をオプションとして設けることを可能としている。

 また、制御信号についてはRS配下のMSもMR-BSが送信する制御情報を直接受信することが可能なため、オプション追加した領域(Optional transparent zone)のマッピング情報をUL-MAPに引き続いて送信する構成をとっている。また、上りリンクにはMR-BSに直接接続するMSとRS配下に存在するMSおよびRSが同一領域を共用するように一部をレンジングチャネルに割り当てる。

図4 透過中継モードのMR-BSとRS間フレーム構造
図4 透過中継モードのMR-BSとRS間フレーム構造(クリックで拡大)

 

 透過型中継モードのRS送受信フレーム構造を図5に示す。これは、図1下りリンク(3)、上りリンク(4)の通信経路で使用され、基本的なフレーム構成としてのDLサブフレーム、ULサブフレーム、TTGおよびRTGの割当は通常BSと共通である。

 透過型中継モードにおけるRS配下のMSはMR-BSが送信する制御信号を受信可能であるため、RSからはプリアンブルおよびMAP情報は送信せず、RSはMR-BSからの制御信号を受信する。

 DLサブフレームにはRS配下のMSにユーザデータを送信するためのオプショナル透過ゾーンを設けることができ、RSがMR-BSからの信号を受信する領域とオプショナル透過ゾーンを送信する領域の切替え期間中のデータを保護するためにR-RTG(Relay-RTG)を設けなければならない。

 ULサブフレームにはRS配下のMSからのユーザデータを受信するためのUL中継ゾーンと、更にMSからの信号をMR-BSに送信するためのULアクセスゾーンを設けることができ、またRSの上りリンクでも送信、受信を切り替える期間中のデータを保護するために、R-TTG(Relay-TTG)を間に設けなければならない。

図5 透過中継モードのRSとMS間フレーム構造
図5 透過中継モードのRSとMS間フレーム構造(クリックで拡大)

 

(3)非透過中継モードのフレーム構造

 図6に、非透過中継モードに対応するMR-BSの送信信号のフレーム構造を示す。このフレームは、図2下りリンク(1)、上りリンク(2)の通信経路で使用されるものである。非透過中継モードのMR-BSが扱うフレームもDLサブフレーム、ULサブフレーム、TTGおよびRTGの割当ては基本的なサブフレーム構造と共通である。また、DLサブフレームには複数のオプショナル透過ゾーン(Optional transparent zone)を設けることができる。非透過型中継モードにおけるRS配下のMSは、MR-BSが送信する制御信号を直接受信することが出来ないことから、MR-BSはRSおよびRSの配下に存在するMSの制御のため、DL中継ゾーンの中にR-プリアンブル(Relay-プリアンブル)、R-FCH(Relay-FCH)、R-DL MAP(Relay-DL MAP)、およびR-UL MAP(R-UL MAP)を含めてユーザデータを格納したR-DL burst(Relay-DL burst)を送信する。また、ULサブフレームの中には、RS配下のMSのユーザデータを送信するためにR-UL burst(Relay-UL burst)をUL Relay Zoneに設けるとともに、一部の領域にレンジングのための中継レンジングチャネルとして持つことが可能である。

 また、非透過中継モードが2ホップ以上の中継を取り扱う場合、2種類のフレームの取り扱いが可能であると定義している。1つは複数のRS又はMR-BSフレームをマルチフレームとして中継ゾーンを送信、受信、アイドルにそれぞれ割当て、そのパターンを繰り返してグループ化する方法である。

 もう1つは複数の中継ゾーンで構成されるフレーム構造を単一フレームとして扱い、ホップ単位で1中継ゾーン毎に送信、受信、アイドルを割り当てる方法である。

図6 非透過中継モードのMR-BSとRS間フレーム構造
図6 非透過中継モードのMR-BSとRS間フレーム構造(クリックで拡大)

 

 非透過型中継モードのRS送受信フレーム構造を図7に示す。このフレームは、図7下りリンク(3)、上りリンク(4)の通信経路で使用される。RSは、サービングMR-BSのプリアンブル送信のタイミングで配下のRSおよびMSに対するプリアンブルの送信を開始する。フレーム内には少なくとも1つのDL/ULアクセス領域と複数のDL/UL中継ゾーンを持つことができる。また、DLアクセス領域とDL中継領域、ULアクセス領域とUL中継領域の間には、それぞれR-TTG、およびR-RTGを設ける必要がある。

 ここでRSが配下のRSおよびMSに対して送信するDL-MAP、およびUL-MAPは、RS内部で処理および再編され、サービングMR-BSから受信した内容と異なったものとなる。

 RSのDLサブフレームはプリアンブルで始まり、FCH,DL-MAP,UL-MAP, DL-burstと引き続く。非透過中継モードのDL中継ゾーンは、サービングMR-BSからの信号を受信する時間領域として用いられる。また、ULサブフレームでは、ULアクセスゾーンがRS配下のRSおよびMSからの上り信号を受信する領域として用いられ、そのうちの一部をレンジングチャネルとして割り当てる。更にR-RTGを経て割り当てられるリレーゾーンはRSからサービングBSへの上り送信時間に割当て、サービングBSのUL-MAPに準じて構成した上り信号を送信する。

図7 非透過中継モードのRSとMS間フレーム構造
図7 非透過中継モードのRSとMS間フレーム構造(クリックで拡大)

 

 通信制御手順については、第48回会合(2007年3月12日~15日予定)の状況を含め、次回に続く。

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