[特集]

活発化する電波/周波数の割り当て(6):2.5GHz帯(WiMAXなど)の免許方針案発表

2007/06/25
(月)
SmartGridニューズレター編集部

 この連載では、ワイヤレス・ブロードバンドや放送にとって生命線といわれる「電波/周波数の割り当て」問題についてレポートします。携帯電話サービスへのニーズは今日、ますます高度化・多様化し、第4世代(4G)に向けた新しい携帯電話用周波数の確保が求められています。
 今回は、先ごろ2.5GHz帯への免許方針案への意見募集が開始されたことで活発化する「広帯域移動無線アクセス・システム」(BWA)の動向について解説します。

1 活発化する2.5GHz帯のBWA導入検討への動き

 我が国においては、高速インターネット・アクセスに対する利用者ニーズの高まりから、DSLや光ファイバ等の大容量のデータ伝送が可能な「ブロードバンド・サービス」が順調に普及してきています。これに伴い、無線システムについても、第3世代携帯電話のデータ伝送速度を上回る、高度な移動通信サービスを享受したいとの要望が高まっています。

 一方、国際標準化機関においては、IEEE 802を中心として、ワイヤレス・ブロードバンド・アクセス(WBA)技術の標準化活動が精力的に進められています。

 このように、ワイヤレス・ブロードバンドに対するニーズの高まり等を受け、総務省では、2004年11月から「ワイヤレスブロードバンド推進研究会 」を設置しました。同研究会では、ワイヤレス・ブロードバンドの具体的なシステムや周波数帯等について検討が行われ、2005年12月に、「2.5GHz帯を広帯域移動無線アクセス・システムの有力な割り当て候補とする」等の内容の、最終報告がとりまとめられました。

 以上の状況を踏まえて、総務省では、2006年2月、情報通信審議会に広帯域移動無線アクセス・システムの技術的条件について諮問し、同年12月に移動通信用BWAの技術的条件について、また、2007年4月に固定的利用を目的としたBWAの技術的条件について、それぞれ答申を受けました。今回は、先の最新の動向も含めて、概要について、紹介します。

2 広帯域移動無線アクセス・システムの利用イメージ

 IEEE 802.16(BWA、WiMAX)や802.20(MBWA、モバイルBWA)などの広帯域移動無線アクセス・システム(BWA:Broadband Wireless Access、以下「BWA」と言う)は、現行の第3世代携帯電話システムを上回る上り/下りの伝送速度をもち、かつ一定のモビリティをもつ公衆向けの無線システムです。

 BWAは、次のような特徴をもっています(図1)。

  1. オールIPベースのネットワークに接続することを前提とし、導入コストや運用コストを抑えてサービスを提供することを想定したシステム。
  2. 稠密なエリア展開を前提とするが、地域を限定(都市部を中心にカバー)したサービス導入を行う可能性もある。
  3. 少なくとも中速程度(WiMAXの場合120km/h程度)の移動速度でモビリティが確保される。
  4. IP接続レベルで常時接続し、帯域を時間共有することによって、瞬時に効率的な高速伝送を実現する。

 さらに、情報通信審議会では、BWAシステムの調査対象とする技術方式として、次の4つの方式について調査を行いました。

  • IEEE 802.16e-2005(モバイルWiMAX)
  • IEEE 802.20(MBTDD Wideband:広帯域高速移動TDD)
  • IEEE 802.20(MBTDD 625k-MC:高速移動TDDで625kHz幅の搬送波を複数本束ねて無線伝送する方式)
  • 次世代PHS(高機能・高速PHS)

3 広帯域移動無線アクセス・システムの要求条件

 情報通信審議会では、先に掲げた4方式について、審議会が提示したBWAシステムに対する要求条件を満足するかどうかの調査を行いました。それぞれの要求条件の具体的な内容は、次のとおりです。

  1. 最大伝送速度
    現行の3.5Gの最大伝送速度がHSDPA/HSUPAの場合、下り14.4Mbps/上り5.7Mbpsであることから、BWAシステムの場合、TDD方式で10MHz幅を利用し、かつ空間多重技術を利用しないと仮定した場合に下り20~30Mbps/上り10Mbps程度以上の最大伝送速度となること。
  2. 周波数利用効率
    現行3.5Gを上回る周波数利用効率として、0.8bps/Hz以上であること
  3. モビリティ
    中速程度以上のモビリティをもつこと。

 調査対象の4方式は、調査の結果、いずれも上記の要求条件を満足することが確認されました。

4 ガードバンドに関する調査と主な技術的条件

 BWAシステムの割り当て周波数は、ワイヤレスブロードバンド推進研究会において、2535MHz~2605MHzまでの70MHzの帯域が利用可能であるとされていましたが、その後、S帯(2~4GHz)を利用する準天頂衛星システムの導入計画が見直されたことにより、同システム用に分配されている2605MHz~2630MHzまでの25MHzの帯域についても、民間または関係省庁における衛星システム利用の具体的な計画や意向が特段認められない状況となりました。このため、情報通信審議会では、当該周波数帯を加えた合計95MHz帯域をBWA用周波数としたうえで、周波数共用条件の調査対象としました。

 BWAシステムの調査対象周波数帯である、2535MHz~2630MHzの隣接周波数帯には、N-STAR(NTTとNTTドコモによって打ち上げられた通信衛星)ダウンリンク、および衛星放送システム(モバイル放送の衛星および地上ギャップ・フィラー)が運用されていることから、これら隣接システムとの干渉を回避するため、ガードバンド(適切な周波数チャネルの間隔)を設ける必要があります。

 さらに、BWAシステム同士間のガードバンドについても調査を行いました。なお、BWAシステムはTDD方式であることから、隣接帯域を使用するBWAシステムが、相互に同期を確保する場合と確保しない場合のそれぞれについて、所要のガードバンド幅を算出する必要があります。ガードバンド幅の算出結果の概要は、図2のとおりです。

 また、BWAシステムの4方式の主な技術的条件について、表1に示します。

5 今後の検討課題

 今後の検討課題として、次のような内容について、引き続き情報通信審議会において検討を行うこととしています。

  1. 0MHzシステムの導入
    不要輻射を十分に抑制可能とするリニアライザ等の等化技術、フィルタ技術等の開発動向や、国際標準化機関での標準化動向を踏まえながら検討を行う。
  2. 同一周波数を異なる事業者が利用する場合の技術的条件
    異なる事業者が同一周波数を用いて地域ごとにサービス提供を可能とするための周波数共用条件等の検討を行う。
  3. 高出力FWAシステムの導入
    条件不利地域や離島などの遠隔地域への長距離通信が可能な高出力FWAシステム、FWA端末局への高利得アンテナの実現に向けた技術的条件の検討を行う。

6 BWAの免許方針案について

 総務省は、2007年5月15日、BWAの免許方針案〔「2.5GHz帯の周波数を使用する特定基地局の開設に関する指針案」及び「2.5GHz帯の周波数(固定系地域バンド)を使用する無線局の免許方針案」〕を公表し、同年6月15日までの間、パブリックコメントの募集を行いました。免許方針案の概要は、次のとおりです。

(1)移動通信利用

  1. 全国単位で30MHzずつ最大2社に割り当て。
  2. 無線設備規則に規定する4つの技術方式が対象。
  3. 技術間競争および新規参入の促進により、新たな無線サービスの展開と市場の活性化を図るため、第3世代移動通信事業者およびそのグループ会社以外の者に割り当て(ただし、3分の1以下の出資による事業参加は許容)。
  4. MNVO(仮想移動体通信事業者)による無線設備の利用促進のための計画の策定を義務付け。

(2)固定的利用

  1. 各地域において10MHzを割り当て。
  2. WiMAXまたは次世代PHSのうち、別途無線設備規則で定めるシステムが対象。
  3. 光ファイバやADSLが利用できない「ブロードバンド・ゼロ地域」の解消に向け、地方公共団体、ケーブルテレビ事業者等による無線ブロードバンドの導入を促進。

7 今後のスケジュール

 総務省としては、上記の免許方針案に対するパブリックコメントの結果を踏まえ、移動通信利用BWAについては、電波監理審議会に諮問し答申を受けたうえで特定基地局の開設指針を決定し、2007年秋頃に周波数を割り当てる事業者を決定するとしています。また、固定的利用BWAについては、パブリックコメントの結果を踏まえて免許方針を決定した後、2007年秋頃から各地域において免許申請を受け付ける予定としています。

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