上智大学 服部 武 教授 VS 総務省 電波部 河内 正孝 部長
今、なぜ電波・周波数が注目されるのか?
—最近、電波・周波数が注目されておりますけれど、その背景にどんなことがあるのでしょうか?
服部 まず、サービスの面から言いますと、最初は電話から始まり、インターネット・アクセスへと発展し、さらに現在、第3世代携帯電話による無線のマルチメディア通信へと発展してきました。しかも、この通信のモードが、1対1の通信から、1対N(1対多)の通信へ、さらに、将来はN対N通信という形でどんどん広がりを示す状況になってきています。
このような背景の中で、移動しながら「いつでも、どこでも、誰とでも」通信したいという、いわゆるユビキタスへのニーズが高まり、期待が非常に広がってきています。移動しながらということで、電波を使っていくことが必須になってきます。つまり、アクセス系にワイヤレスが非常に重要になってきています。
例えば、身近な近距離無線通信(ショートレンジ)のBluetoothやZigBee、あるいはワイヤレスUSBのような無線PAN(Personal Area Network、個人用無線通信ネットワーク)や、802.11a/gのような無線LANなどがあります。さらに、都市(メトロポリタン)規模をカバーするモバイルWiMAXのような無線MAN(Metropolitan Area Network)から、全国規模をカバーする3Gや3.5Gのような無線WAN(Wide Area Network)などがあります。
このように、ワイヤレス技術はショートレンジから全国的な移動性の範囲をカバーしながら、さらにブロードバンド化しマルチメディア通信を実現する、という大きな2つの流れがあります。
—具体的にはどのような流れでしょうか?
服部 ワイヤレス・ブロードバンドでは、電波に乗せる情報量が非常に拡大しているため、有限な電波をどのように有効利用していくかを考えるうえで、ひとつのトリガーになってきています。電波はご存知のとおり、高い周波数になりますと、直進性が高いため障害物があると反射してしまい、広いエリアになかなか届かない性質をもっています。その代わり、使用できる帯域(周波数の幅)は十分あります。
低い周波数の場合はこの逆で、障害物があっても回り込んで飛んでいく性質があるため広いエリアに届きますけれど、帯域が十分ありません。このため、電波を上手く使っていくということが、今後ますます重要になると思います。
電波には、このような周波数上のリミット(限界)のほか、送信電力のリミットを考慮する必要があります。とくに携帯になりますと、送信電力には限界があります。さらに、無限に基地局を設置するわけにはいきませんから、コスト上のリミットがあります。これらに加えて、伝送経路の歪(ひずみ)の問題があります。
そういうことを解決しながら、今後、電波という媒体を上手く利用していき、ワイヤレスによるアクセスによって、利便性を向上させていくことが重要となってきていることが、現在電波が注目されている背景にあると思います。
—お話のように最近、電波/周波数が非常に注目されているため、電波部も、大活躍と思いますが、いかがでしょうか?
河内 電波に対する世の中の期待は、非常に高くなっています。今先生がおっしゃられましたように、まさに私たちの世界は、ユビキタス時代に突入してきていて、ありとあらゆるところに、無線のネットワークに対するインタフェースが存在し、そこを通じて情報を得るというような形になってきています。
実際に、総務省のデータからも、今から55年くらい前の1950年には、無線局は、5000局くらい(正確には5118局)しかなく非常に少なかった。それが、35年後の電気通信の自由化が行われた1985年には、381万局と700倍位になっています。その後も加速度的に増加し、現在(2006年9月時点)は、1億430万局と、1億局を突破しています。
このように、本当に日本のありとあらゆるところに無線局が設置されています。とくに携帯電話が普及したとことによって、国民1人1人が、電波を使って、さまざまな恩恵を得られるようになったため、電波の重要性に目覚めたのだと思います。さらに、無線LANが安く普及し、電波の利便性をさらに身近に実感されるようになってきています。
一方では、電波は有限ですから希少性があるわけです。電波の周波数自身は、法的には3THz(=3000GHz)以下と非常に幅広いものですが、本当に使い勝手のいい、便利な周波数帯というのは限られています。そのため、その限られている周波数帯を、どのようにみんなで効率的に使いあうかというようなところで、さまざまな政策的な課題が出てくるのです。