≪1≫NECが考えるNGN製品戦略とその市場規模
■ NGNに関しては、2006年12月にNECも参加して始まったNTTのNGNフィールドトライアル、およびそのショールーム「NOTE」(NGN Open Trial Exhibition)が大きな話題になり、2007年7月には「NOTE」のリフレッシュ・オープンが注目されています。このような新しい動きの中で、NECからもNGN関連製品の発表が相次いでいます。そこで、まず、NECが考えるNGNへのアプローチについて聞かせてください。
松本 現在、電話網やインターネットなどのネットワークが普及し、活用されていますが、次世代ネットワーク「NGN」は、電話網の安全性・信頼性と、インターネットのオープン性・柔軟性をあわせもち、しかもオールIP化されたネットワークです。従来は、電話や携帯、インターネットなどで個別のサービスが提供されてきましたが、NGNでは、一つの統合ネットワーク基盤上でいろいろなサービスを提供することが可能となってきました。これによって、NGNが産業全体をより活性化する展望が拓けてきました。
このような背景のもとに、NECは、ITU-Tで標準化が進められている「狭義のNGN」だけなく、企業から家庭までのネットワークまでを包含した幅広い「広義のNGN」関連製品の開発を進めています。さらに、NECは情報通信機器の製造販売だけでなく、インターネット・サービス提供会社としてのNEC BIGLOBEがありますから、インターネットの市場においてもNGNベースのサービスを提供することによって、相乗効果につながることを期待しています。
■ NGNへの移行においては、既存のネットワークからNGNへのリプレースの場合と、まったく新しい導入の場合があると思いますが、この違いについてはどう考えますか。
松本 NGNに移行する際には、まず、既存のサービスを継続するための仕組みが重要です。例えば、一般電話をIP電話化してサービスを提供する場合がそうです。この例のように、サービスは変わらずにネットワークだけが変わるという方向に合わせた技術開発が必要です。同時に、高速・大容量かつ高信頼性のネットワーク(ブロードバンド)を活用して、新しいサービスを提供できるようにする仕組みも重要です。
例えば、NGNでは、従来のネットワークでは経済的に不可能に近かった高品質な画像や映像(ハイビジョン)の配信などが期待されています。また、NGNでは、既存のインターネット・サービスに比べて、より高度な安全性と信頼性が要求されます。既存の電話網や専用線といった現在の通信ネットワークでも安全性・信頼性が実現されていますが、これらをオールIPのネットワーク上でいかに実現するかがポイントとなります。
■ NGNも含めた通信機器の市場規模についてはどう見ていますか?
松本 現在、通信機器の世界市場規模は17~18兆円であり、ここ数年ほぼ横ばいの状況です。しかし、今後、広い意味でのNGN時代を迎えると、サービスを含めた市場の成長はもっと大きなポテンシャルをもっていると期待しています。一方、国内におけるNGNを含むネットワーク関連製品の市場規模(2007年)は、サービス・プラットフォーム系が5000億円以上、またネットワーク・インフラのうちトランスポート制御とコア・トランスポート、エッジ機器を合わせて9000億円~1兆円、アクセス系で5000~6000億円と見ています。
≪2≫ NECのNGN製品体系とその特徴
■ NGNの製品体系といっても、ITU-TのNGN標準に基づいて新しく開発された製品だけでなく、既存の製品体系も含めて構成されていると思います。そこで、最初に、NECの全体的なNGNの製品体系とその特徴についてお話してください。
松本 NECのNGN関連製品を大きく体系的にまとめてみますと(詳しくは後述)、図1に示すように、上からサービス提供基盤NC7000シリーズ、ネットワーク制御基盤NC9000シリーズ、トランスポート制御基盤NC5000シリーズ、そして光IPトランスポート製品となっています。
図1に示すように、NGNに必要な製品のうち、現在活用されている製品については、そのまま利用されつつ、NGNに対応するための機能の向上が図られていくことになります。
これに対して、NGNの標準に基づいて新しく開発される製品については、主に、
(1)QoS(Quality of Service)や認証のような安全性・信頼性に関わる機能追加の部分
(2)多様なサービスを提供するサービス・プラットフォームにおけるIMS(※1)とSDP(※2)
などが対象となります。
※1 IMS:IP Multimedia Subsystem、IPマルチメディア・サブシステム
※2 SDP:Service Delivery Platform、サービス提供基盤
IMSは、NGNが登場する以前からある仕組みで、移動通信システムをオールIP化し、電話サービスをはじめ映像配信サービスなどのマルチメディア・サービス(リアルタイム・アプリケーション)を提供する通信制御の仕組みとして、3GPPで標準化されました。それが最近では、固定ネットワークと移動ネットワークの統合(FMC:Fixed Mobile Convergence)を実現する技術として注目されています。このような流れを背景に、NECのNGN関連製品のラインアップは、従来から活用されている製品の延長線上の製品と、NGN標準に対応して新規に開発された製品が共存する形で構成されています。
図1の左側に示しますように、NGNの標準化は、大きく分けて、
(1)サービス・ストラタム(通信を制御し、かつアプリケーションと連携するレイヤ)
(2)トランスポート・ストラタム(ユーザー情報が流れるレイヤ)
の2つの層に分けられています。サービス・ストラタムには、アプリケーションを構成するコンピュータ系の情報処理関連技術と連携して動く部分がありますが、NECは従来からC&C(Computer & Communication)戦略を推進して参りましたので、サービス・ストラタムに対して製品的にも、ビジネス的にも強さを備えています。
NGNでは、このサービス・ストラタム(レイヤ)の上位にアプリケーションとネットワーク間のインタフェース(ANI:Application Network Interface)を設け、これをオープンにして、いろいろなサービスを付加できるようになっています。ですから、SDPの上のサービスも含めた製品体系の提供とともに、ユーザーは幅広い多様なNGNのサービスを活用できるようになります。さらに、NGN関連の製品についてNECは、通信事業者に提供する製品群と、企業や家庭などに提供する製品群について、フルラインアップで対応する方針で展開しています。
≪3≫アプリケーション・サーバ(AS)とその役割
■ では、具体的に、サービス・ストラタムの上に位置づけられるあるアプリケーション・サーバ(AS)の役割を説明していただけますか。
松本 NGNでは、アプリケーションごとに設けられるAS(Application Server、アプリケーション・サーバ)が重要になります。このASは、アプリケーション・ソフトウェアを実行してサービスを提供するサーバで、サービス・ストラタムとアプリケーションの間のANIとして規定されているインタフェース上にあります。ASにとって大事なのは、サービスの実現形態よりも、インタフェースを具備していることです。例えば、NTTが2006年12月から開始したNGNのフィールドトライアルでは、NTTが規定するSNI(サービス・ネットワーク・インタフェース)と接続することによって具体的に製品の接続性が検証されています。
ASの上で動作するサービス(アプリケーションはサービスを実現するための仕組み)については、いろいろなパートナーと協力して新たなサービスを創造し、実現する必要があります。この場合に重要なことは、NGNの備えている大容量、高速、安全、信頼性などの優位性を十分活かすことです。このNGNの優位性が、従来のサービスと大きく異なることを認識してもらえるよう、分かりやすく説明していきたいと思っています。
■ インタフェースをオープンにすることで、今までとどう変わるのですか?
松本 例えば、従来の電話網ではそれぞれの通信事業者が網に多くの機能を具備して電話サービスを提供してきました。一方、インターネットでは「情報を運ぶ」機能を提供して外部にオープンにすることにより、サービス・プロダイダなどによって開発される、豊富なサービスが提供されるようになっています。
NGNは、ネットワークの中に安全・信頼性を確保する機能が入ってきますが、ネットワークで実現するべき機能と、ネットワークで実現したほうが効率的で効果的な機能があります。そして、いろいろなサービスの構築を容易にする仕組みをネットワークが提供します。今後、ユーザーの利便性を高めるためにサービスをどこでどのように実現するかについてもいろいろなケースがでてくると思います。
≪4≫サービス・ストラタムの製品群(NC7000シリーズ/ NC9000シリーズ)
〔その1〕SDP(サービス提供基盤)/ NC7000シリーズ
■ サービス・ストラタムにおいてSDP(Service Delivery Platform、サービス提供基盤)を担うNC7000シリーズの機能と特徴を説明してください。
松本 NC7000シリーズのイメージを示したのが図2です。NC7000シリーズは、NGNでサービスをANIの上で構築するために、サービス共通の機能やネットワークがもっている要素をどう見せるかを共通化するSDPに関するソフトウェア製品群です。具体的には次回(第2回)の表1に示すように、
(1)呼制御サーバ(NC7000-CC)
(2)プレゼンス・サーバ(NC7000-PR)
(3)メッセージングサーバ(NC7000-MS)
などの各サービスを提供するために、それぞれに対応したサービス・イネーブラと呼ばれるサービス処理機能が用意されています。
また、SDPの各サービス・イネーブラは、それぞれがアプリケーションに対してインタフェースを見せる「インタフェーサ」の機能ももち、アプリケーションとIMS(ネットワーク制御基盤)の橋渡しを行います。
これらの各イネーブラについては、2007年5月31日にNC7000シリーズの強化を発表しています。具体的には、通信事業者がさまざまなネットワーク・サービスをWebサービスとして公開することのできる、
(1)Webサービス・ゲートウェイ「NC7000-WS」
(2)FMCハンドオーバを実現する「NC7000-VC」
の2製品を追加しています。「NC7000-WS」は、通信事業者が提供する呼制御やプレゼンスなどの各種ネットワーク・サービスを、SOAP/XML(※3)言語を用いたWebサービスAPIとして公開することのできるゲートウェイ製品です。
※3 SOAP/XML:Simple Object Access Protocol/Extensible Markup Language、XML(拡張可能な記述言語)ベースの、アプリケーション間で情報交換を行うことを目的としたプロトコル。
また、「NC7000-VC」は、FMCハンドオーバ、つまり、ユーザーが公衆無線LANから携帯など、異なるネットワーク間を移動した際に最適な通信経路を自動選択して、音声が途切れることなくシームレスな通話サービスを実現できるソフトウェア製品です。このようにNGNで実現可能な新たなサービスを追求し、今後もラインアップを充実していく予定です。
≪5≫サービス・ストラタムの製品群(NC7000シリーズ/ NC9000シリーズ)
〔その2〕IMS(ネットワーク制御基盤)/ NC9000シリーズ
■ サービス・ストラタムの中核とも言われるネットワーク制御基盤であるIMSを提供するNC9000シリーズの機能と特徴を説明してください。
松本 NC9000シリーズのイメージを示したのが図3です。NC9000シリーズは、簡単に言えば「電話におけるつなぐ役目をする」ソフトウェア製品群です。基本的にIPによるパケット交換で電話を実現するため、従来の電話網の回線交換とは異なりますので、「つなぐ」というよりも「セッションを張る」(接続関係を確立する)という表現になります。このセッションを確立するためには、加入者がどういう状態かをあらかじめ知る必要があります。
そこで、セッション接続の制御を行う機能として、
(1)SIPサーバ(NC9000-SS)、Call Agent(NC9000-CA)
(2)呼状態制御〔NC9000-PC/SC/IC(P-CSCF/S-CSCF/I-CSCF)〕
(3)メディアゲートウェイ制御〔NC9000-MC(MGCF)〕
(4)加入者管理機能〔NC9000-HS/SF(HSS/SLF)〕
などのラインアップを用意しています。この部分は、非常にベーシックなところであり、従来の電話交換機における交換制御機能にあたる大事な位置付けにあたります。
■ FMCについては、どういう役割を担うのですか?
松本 FMC(Fixed Mobile Convergence)における固定電話と移動通信の連携をサービスとして提供する場合、その接続制御はNC9000シリーズで行います。例えば、固定電話が話し中や不在の時に携帯電話へ自動転送したい場合はセッションを切り替える必要がありますが、そのような制御はNC9000シリーズで実現できるわけです。
■ SDPやアプリケーション・サーバとの役割分担は?
松本 NGNで提供されるサービスには、いろいろな階層がありますが、単純に階層分けできないところもあります。通信の接続のサービスを担当するのがIMSにあるNC9000シリーズですが、その上で「どんなサービスをどう提供するか」が、SDPとアプリケーション・サーバの役割です。しかし、単純な分担ではありません。
インターネットでは、ベストエフォートのネットワークに外部のサーバから情報を入れます。しかし、NGNでは、流す情報によって要求するQoSを保障させるために「画像を流すために最適なセッションを確立する」ことができるようにします。そのために、アプリケーション、SDP、IMSの3者の連携が必要になるわけです。
(つづく)
プロフィール
松本 隆
1976年 東京大学工学部電気工学科卒業
1976年 NEC入社 電子交換開発本部でディジタル交換機の開発に従事。以後、ISDN交換機、ATM交換機、高信頼性ルータ等のキャリア向け通信機器の方式開発及びハードウェア開発に従事。2001年 IPネットワーク事業部長代理となる。
2003年 ビジネス開発本部長としてブロードバンドネットワークを活用した新しいビジネスの開発に従事、
2006年からキャリアネットワークビジネスユニット主席技師長(現職)としてキャリアネットワーク全般に関する技術戦略を担当している。