[スペシャルインタビュー]

NECのNGN戦略を聞く(2):サービス・ストラタム(SDP/IMS)のNGN対応製品群と導入事例

2007/07/23
(月)
平野 正喜

国際的に注目されているNGNは、いよいよ実用化のフェーズを迎え、世界の主要各国でもNGNサービスの開始やNGN導入に向けたフィールドテスト(実証試験)が行われています。日本でも2007年度中にNGNの商用サービスが予定されていることもあり、NGN関連の製品発表が相次いでいます。そこで、情報通信分野において国際的に先進的な企業のひとつであり、意欲的にNGN関連の製品発表を行っているNECの、キャリアネットワークビジネスユニット主席技師長 松本 隆氏に、NECのNGN製品戦略について語っていただきました。
前回は、サービス・ストラタム(SDP/IMS)までのNGN対応製品群を中心にお聞きしました。今回は、サービス・ストラタムから送られてくるマルチメディア情報を、高速に転送するトランスポート・ストラタムなどの製品群および、NGN製品の導入事例についてお聞きします。
聞き手:インプレスR&D 標準技術編集部 / ランドッグ・オーグ 平野正喜

NGNの製品戦略を聞く! (2:最終回)

 

≪1≫トランスポート・ストラタムの製品
   〔その1〕トランスポート制御基盤関連の製品群(NC5000シリーズ)

■ トランスポート・ストラタムにおけるトランスポート制御基盤を担う製品として、NC5000シリーズが位置づけられていますが、どのような特徴があるのでしょうか。

松本 NC5000シリーズのイメージを示したのが図4です。トランスポート・ストラタムは、「パケットを転送する」というネットワークの基本機能ですから、すでに従来のネットワークに対応する製品が多数用意されています。すなわち、インターネットの構築のために使われている製品群がベースとなります。しかし、NGNでは現在のインターネットより、安心・安全の機能が重要となります。これに対応するトランスポート制御基盤に位置づけられる製品として、NC5000シリーズを用意しています。

図4:NECのNGN製品「NC5000シリーズ」(トランスポート制御基盤ソフトウェア)

図4:NECのNGN製品「NC5000シリーズ」(トランスポート制御基盤ソフトウェア)(クリックで拡大)

NC5000シリーズの機能であるQoSとユーザーのアクセスに関する認証は、トランスポート・ストラタムの範疇ですが、ソフトウェアで実現しています。ソフトウェアですから、トランスポート・ストラタムよりも、サービス・ストラタムにある方がわかりやすいと思われるかもしれませんが、トランスポートごとに依存する部分が多いので、ITU-Tの標準化でトランスポート・ストラタムに位置づけられています。

■ NC5000シリーズでは、NC5000-PDでQoS制御を、NC5000-NSでアクセス認証を行っていますが、QoS制御とアクセス認証の位置づけはどのようになっているのですか?

松本 QoS制御は、ITU-Tで規定されているレベルがありますので、NC5000-PDはこの規定に基づいて制御しています。また、アクセス認証にはいろいろな水準がありますが、NC5000-NSではNGNにおけるアクセス認証を実現しています。

≪2≫トランスポート・ストラタムの製品
   〔その2〕:コア・トランスポート/エッジ/アクセス関連の製品群

■ 実際にパケット・データをトランスポート(転送)する場合には、従来からある製品を含めて非常にたくさんの製品やシリーズがありますが、整理していただけますか。

松本 トランスポート・ネットワークを構成するNECのNGN対応製品群を示すと図5のようになります。ネットワーク(NGN)で「パケット・データを運ぶ」機能そのものは、通常、ルータやスイッチで実現しています。もちろん、NGNでは、安全性や信頼性の高い製品が開発され、NGN対応製品として提供しています。ユーザー側に近いアクセス網では、国内と海外、有線と無線、高速と低速というように、アクセス方法は非常に多岐にわたっており、さまざまなユーザー・ニーズが存在しています。

図5:NECのトランスポート・ネットワークを構成するNGN対応製品群

図5:NECのトランスポート・ネットワークを構成するNGN対応製品群(クリックで拡大)

日本では、光ファイバとモバイルが進展していますが、世界的に見るといろいろなネットワーク状況があるため、ビジネス上は多様な品揃えが必要になるわけです。NECでは、NGNの良さをいかすアクセス技術を提供して行きたいと考えています。

そして、アクセス網と、コア網の接続点に設置されるエッジ網(エッジ:コア網の「端」と言う意味)では、エッジ・ルータなどの製品が多様なサービスごとの制御を行うことによって、ネットワークを有効に活用し、セキュリティ機能を効率化することができます。このようにエッジ機能を担う製品がさまざまな処理機能を実現することによって、トランスポートのコアになる機能は、それらの処理から開放され、通信のスピードアップに集中できるわけです。

■ エッジ機能には、どのような役割があるのですか?

松本隆氏

松本 エッジ機能の一例として、セッション・ボーダ・コントローラ(SBC※1。製品例:IX4120)があります。この中に、VoIP(IP電話)の不正セッションを監視する機能がありますが、この機能は従来のルータには入っていなかった機能です。また、通信事業者が必須とするセキュリティの機能のうち、エッジで実現できるものはエッジで実現しようと考えています。

まず、コア・トランスポート部分を効率化し、信頼性と安全性を高めるためにMPLSやGMPLS(※2)という仕組みを使いますが、その場合もこのエッジで終端し、コアのほうが楽に処理できるようにする、NGNならではの機能を実現していくことが大事なのです。

※1 SBC:Session Border Controller、他網と相互接続する場合に境界に設置されるエッジ装置のひとつ。具体的には、セキュリティ管理やアドレス変換などを行いながら、サービス(例:IP電話サービス)の相互接続に必要な制御を行う装置。

※2 MPLS:Multi-Protocol Label Switching、マルチプロトコル・ラベル・スイッチ技術。例えば、IPやAppleTalkなどのいろいろ(マルチプロトコル)なレイヤ3のパケットにレイヤ2のラベル(短い情報)を埋め込み、レイヤ3のパケットのヘッダ情報を見なくても、レイヤ2で高速にパケットを転送できるようにした技術。
GMPLS:Generalized MPLS、MPLSの技術をより一般化(Generalized)した技術。パケットの転送をレイヤ3やレイヤ2、レイヤ1でも使用できるように拡張し、例えば光波長や光ファイバでも利用できるようにしたネットワーク制御技術。

■ NGNに対応させるために、従来の製品に信頼性、安全性を高めた製品としては何がありますか?

松本 具体的には、コア・トランスポート機能にあるハイブリッド多重化装置「UN5000シリーズ」ですね。このシリーズは、従来の製品が備えていた信頼性、安全性を、IPベースのNGNに対応するレベルまで高めたアドバンスな製品シリーズになっています。

■ コア・トランスポート機能におけるDW4200シリーズとUN5000シリーズはどのように違うのでしょうか?

松本 光IPバックボーンの次世代製品であるROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer:遠隔波長制御可能な波長多重化装置)が、DW4200シリーズです。この製品は、コアの伝送スピードを向上する役目を担います。

これに対してUN5000シリーズは光だけではなく既存のインタフェース(SDH/SONET※3)にも対応しており、既存のネットワークからNGNへのマイグレーションも可能にする次世代大容量マルチサービス・プラットフォーム装置です。UN5000シリーズは、日本だけではなく海外ユーザーにも対応するため、多様なラインアップを用意しています。

※3 SDH/SONET: Synchronous Digital Hierarchy/Synchronous Optical Network、通信網における階層的な伝送速度の標準。SDHはITU-Tの国際標準で、SONETは米国ANSI(米国規格協会)標準。両者はほぼ共通の内容の規格のため「SDH/SONET」と、ペアで表現されることが多い。

■ エッジにIPsecゲートウェイの機能をもつ製品〔ISG2000:IPsecGW(ゲートウェイ)〕

が含まれていますが、どういう位置づけなのですか?

松本 もちろんIPsecGWは、IPsec(※4)を必須としているIPv6を意識しています。通信事業者によってIPsecが使用されることを想定していますが、すべてがIPv6の環境でなくても、例えば、IPv4ネットワークからIPv6ネットワークに出るときには、IPsecに対応したゲートウェイが必要とされるため、このようなケースに備えています。

エッジ機能は、「ユーザーとのエッジ」だけではなく「他の網とのエッジ」という機能も備えています。このエッジのことを、ゲートウェイと呼ぶ場合もあります。ちなみに、NGNが電話網と接続するエッジの場合は、ゲートウェイと呼ばれています。

※4 IPsec:IP Security Protocol、レイヤ3のネットワーク層(IP層)で認証・暗号化を行うセキュリティ・プロトコル。IPv4(IP versio 4)とIPv6(IP versio 6)の両方に適用可能な仕様となっている。IPv6では実装が必須となっている。

■ 統合メディア・コミュニケーション・システムであるCX8000シリーズの位置づけが、エッジ機能か、網間接続か、微妙な感じがしますが。

松本 CX8000シリーズは、ゲートウェイ製品であり、「ユーザーとのエッジ」ではなく「他の網とのエッジ」になります。網間接続におけるメディア制御プラットフォームです。

≪3≫トランスポート・ストラタムの製品
   〔その3〕アクセス・ネットワーク関連の製品群

■ NGNのアクセス・ネットワーク機能に含まれる製品の位置づけについて説明してください。

松本隆氏

松本 アクセス・ネットワークに関する製品群には、ADSLや集合住宅用のVDSLといったxDSLに対応するものやFTTHに対応するものがあります。日本ではFTTH、世界ではxDSLが普及しておりますが、近い将来、世界でもFTTHが広まることを期待しています。なお、FTTHを実現する技術としては、イーサネットを基本とするGE-PON(Gigabit Ethernet - Passive Optical Network:FTTHにギガビット・イーサネット技術を利用する技術)があり、NECはこれに対応する製品として「ME1620シリーズ」があります。

一方、アクセス・ネットワークでは、速度の異なるサービス(例:音声サービス、映像サービス)に対して公平性を実現し、確実な制御を行う必要があります。これを担っているのが、アグリゲーション(集約)・スイッチ「CX2600シリーズ」で、これはレイヤ2スイッチです。また、高機能化したサービス・アグリゲーション・スイッチとして「CX2600/220」があります。

また、有線でのネットワーク接続が難しい場合に対処するため、無線を活用する簡易型マイクロ波通信システム「パソリンク」を提供しています。さらに、次世代ワイヤレス・ブロードバンド規格であるWiMAXへの対応も進めています。

≪4≫トランスポート・ストラタムの製品
   〔その4〕網間接続関連の製品群

■ NECのNGN製品群の説明の中に、網間接続機能として分類されている製品群がありますが、これはどういう位置づけなのですか?

松本 電話網やインターネットあるいはモバイル網などの既存網と相互接続するゲートウェイにあたる製品を、網間接続(図5の右側)として説明しています。例えば、CX3200はメディアゲートウェイ(MGW)であり、既存電話網との接続を担います。網間接続には、インターネットとの接続や事業者間の相互接続など多くのケースがありますが、先ほどお話したCX8000シリーズも、網間接続機能の製品として位置づけられます。

これまで、お話してきたNECのNGN製品全体を階層構成から見てまとめますと、表1のようになります。

表1:階層構成から見たNECの主なNGN製品一覧

表1:階層構成から見たNECの主なNGN製品一覧(クリックで拡大)

≪5≫NECの目指す市場と世界のパートナーシップ体制

■ NECのNGN関連パートナーとして、ジュニパーネットワークスやユニシスの名前が挙がっていますが、NECと世界の各企業とのパートナーシップ体制、あるいは競合状況について教えてください。

松本 一般論で言えば、NGNのすべての製品をNECだけの製品でカバーしようという方針ではなく、必要に応じて、いろいろなパートナーとアライアンスを組んでいく方針ですが、そのレベルは個々のケースで違います。例えば、ジュニパーネットワークスとはコア・ルータの低消費電力化などにおいて協力していますし、アラクサラネットワークスとは、NGN向けルータ分野で広く協力しております。また、ユニシスとはミドルウェアにおいてパートナーシップを組んでいます。

世界的な競合状況については、受注するシステムの大規模化が進む一方、ベンダの合従連衡が進んでいる中で、NECは国内外のパートナーとも連携し、NGNや先端ブロードバンド技術を提供し、大きくマーケットを獲得していきたいと思っています。

■ NECのNGN関連製品の海外での納入事例を教えてください。

松本 NGNという意味では日本が最先端を走っていますが、NECが今日までに100カ国以上に納入し、NGNを構成する重要なシステムともなる光伝送装置などは、先駆けた納入事例と言えるでしょう。また、NECは海外で3G関連の基地局システムやiモード・サービス・プラットフォームを納入していますが、これらも先駆けとなる実績です。

将来のNGNに向けた動きとしては、2006年12月に発表しましたように、NGN対応製品として、TDM(時分割多重)とRPR(Resilient Packet Ring、リング型パケット転送方式)を同時に処理可能なハイブリッド多重化装置「SpectralWave UN5000シリーズ」を開発し、販売を開始しています。

この製品は、
 (1)TDMとパケット転送を混在させながら最大で40Gbpsの高速ネットワークを構築できること
 (2)RPR機能(IEEE802.17標準準拠)、GMPLS機能などによって、高信頼ネットワークを構築できること
 (3)多様な通信サービスや通信ニーズに対応し、特にメトロ領域でのマルチアクセス回線収容、エッジやバックボーン領域の大容量SDH/SONET装置など、幅広い応用が可能であること
などの特徴を備えています。

この「SpectralWave UN5000シリーズ」は、すでにロシア最大の長距離・国際通信事業者である「ロステレコム(Rostelecom)」、およびタイ最大手の移動体通信事業者であるAIS(Advanced Info Service Public Company Limited)に納入しています。

■ 日本国内市場におけるNGN関連受注の状況はいかがでしょうか。

松本 NGN関連受注については、サービス提供基盤であるSDPやIMS/MMDをはじめ、ネットワーク・インフラにおけるコア、エッジ、アクセスにおいて、NECのNGN関連製品をベースとした中から、通信事業者に最適な仕様・システムを提案しており、受注についても好調に進展しています。

■ お忙しいところありがとうございました。

(終わり)

プロフィール

松本隆氏

松本 隆

1976年 東京大学工学部電気工学科卒業
1976年 NEC入社 電子交換開発本部でディジタル交換機の開発に従事。以後、ISDN交換機、ATM交換機、高信頼性ルータ等のキャリア向け通信機器の方式開発及びハードウェア開発に従事。2001年 IPネットワーク事業部長代理となる。
2003年 ビジネス開発本部長としてブロードバンドネットワークを活用した新しいビジネスの開発に従事、
2006年からキャリアネットワークビジネスユニット主席技師長(現職)としてキャリアネットワーク全般に関する技術戦略を担当している。

 

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