≪1≫NGNにおける「オープンとコラボレーション」とは?
■前回お話のあった「オープンとコラボレーション(協調)」のことですが、「オープン」という言葉は人によってかなり受け止め方が違うのではないでしょうか。NGNのインタフェースをオープンにするということは、実際はどういうことなのでしょうか。少し噛み砕いてお話しいただけますか。インタフェースは3つありましたが。
橋本 NGNを「オープン」にするということは、3つのインタフェースをオープンにするという意味です。通常、例えばネットワークと端末などの接続点のことを「インタフェース」と言っていますが、NGNというネットワークには、3つの重要となる接続点、すなわち、インタフェースがあります。
具体的には、図7、表1に示すように、
(1)UNI(ユーザー・網インタフェース)
(2)NNI(網間インタフェース)
(3)SNI(アプリケーションサーバ・網インタフェース)
という3つのインタフェースがあります。
インタフェース名 | フルスペル | 内容 |
---|---|---|
(1)UNI | User-Network Interface |
ユーザー・網インタフェース。ユーザー端末とネットワークの接続点。 |
(2)NNI | Network-Network Interface |
網間インタフェース。ネットワーク(NGN)とネットワーク(例:ISP)の接続点。 |
(3)SNI | Application Server -Network Interface | アプリケーションサーバ・網インタフェース。アプリケーションサーバとネットワーク(NGN)の接続点。 |
表1 NTTのNGNの3つのインタフェース
図7に示すUNI(ユーザー・網インタフェース)は、家庭のユーザー端末からネットワーク(NGN)に接続するためのインタフェースです。これは、個人のお客様のためというよりは、NGNに接続する各種の端末を作るメーカーなどが、インタフェース条件(仕様)を知らないと、ネットワークに接続するための端末などが作れないので、このUNIをオープン(公開)にしています。
図7に示すNNI(網間インタフェース)は、NGNと他の通信事業者など(<例>ISP:Internet Service Provider)のネットワークを相互接続することを目的としたインタフェースです。これをオープンにしませんとネットワーク間の相互接続ができないため、NGNは孤立したネットワークになってしまいます。
図7に示すSNI(アプリケーションサーバ・網インタフェース)は、私たちが日常的に経験しているように、インターネット・アクセスでアプリケーションサーバに接続してアプリケーションを活用するとか、いろいろなコンテンツ配信サービスの提供を受けて楽しむことなどを実現するための、アプリケーションサーバとネットワークを接続するインタフェースです。このSNIをオープンにすることによって、アプリケーションサービスプロバイダなどがNGNの各種機能を利用していろいろなサービスを提供できるようになるものと考えられています。
≪2≫NTTはなぜSNIなのですか?
■ITU-TではANIと言うところ、NTTの場合は、図7、表1に示すように、ANIではなくSNIという用語が使用されていますね。
橋本 おっしゃる通りです。私たちは、より具体的なアプリケーションサーバとネットワークの接続点を定義するという意味合いで、SNI(Application Server-Network Interface、アプリケーションサーバ・網インタフェース)というインタフェースを設定しています。一例を挙げれば、各種サービス・プロバイダ(xSP)のサーバとNGNをつなぐところのインタフェースというイメージになります。
NGNの商用サービスを開始するとなると、さまざまなサービスを利用できるように準備しておかなければなりません。例えば、コンテンツ配信サービスのためには、NGNとコンテンツ・プロバイダをつながなければなりません。このようなことに対応し、各種サービス・プロバイダとの接続のための機能(仕様)を作り策定したインタフェースがSNIなのです。
■SNIのところが、一番多彩なビジネス・チャンスがありそうに見えますが?
橋本 そうですね。NGNにとってこのSNIは非常に重要なインタフェースとなります。このSNIは、これからもいろいろと発展する可能性をもったインタフェースです。例えば、NGNの外部に存在する各種サービス・プロバイダ(xSP)が、自分のサーバをNGNに接続してサービスを提供するためには、SNIに対応したサーバを用意すればよいわけです。一方、これによって、サーバと端末間の連携によるサービスの発展にも柔軟性が生まれます。このように、SNIはサービスに応じていろいろと対応できるようになっているのです。
具体的な例を挙げますと、コンテンツ配信プロバイダの場合、コンテンツの課金についても、NGN側の課金機能を利用するのか、それともプロバイダ側が独自の課金システムを作って行うのかというようなこともあります。これらは、すべてSNIによって実現することになります。また、コンテンツの安全な流通のため、コンテンツの著作権管理(DRM:Digital Rights Management、デジタル著作権管理)をNGN側に分担させる、といった可能性も考えられます。
■たしかに、SNIは可能性を秘めたところですね。
橋本 このようにNGNでは、従来のネットワークと異なって、いろいろなケースで、それぞれのビジネス・モデルが誕生する可能性があります。そういうビジネス・モデルを実現するための話し合いが、NGNを提供する側(キャリア側)とこれを利用してサービスを提供する側の間で行われるという意味では、SNIは、多様性と可能性のあるインタフェースだと思います。
≪3≫ANIは現在、ITU-Tで標準化を審議中
■ところで、ANIというインタフェースはどこまで標準化されているのでしょうか?
橋本 ANIは現在、国際標準化機関であるITU-Tで標準化審議中のインタフェースです。いろいろな方からもご質問を受けますので、ここで、簡単にお話しておきましょう。
ご存知の通り、現在、NGNの国際標準化の審議が活発に行われています。すでにITU-Tで、2006年に標準化が終了したNGNリリース1に続いて、来年(2008年)にも、現在標準化が進められているNGNリリース2が発表される予定となっています。すでに発表されているNGNリリース1という標準では、NGNの概念(アーキテクチャ)はできましたが、NGNを活用した具体的なビジネス・モデルについては、まだクリアになっていない面があります。このような事情から、NGNのANIの仕様はまだ明確に決まっておらず、標準化されていない状況なのです。現在、NGNのANIに関しては、コンピュータ・ベンダなどを含めて、世界各国のITU-T参加メンバによってさまざまな提案が行われ、審議されているところです。
このANIについては、いわゆる「SDP(Service Delivery Platform、サービス提供基盤)」と関連付けて議論されることがありますが、SDPはアプリケーション・サーバのためのプラットフォームとして一部のベンダにより個別に製品化されているものであり、今のところその範囲に止まっています。このような議論を含めて、標準化の動向を見て行きたいと考えています。
≪4≫NGNのインタフェースが「オープンである」という意味
■NGNのインタフェースについて、先ほど「オープン」と言われましたが、インタフェースがオープンであるというのは、具体的にはどういう意味なのでしょうか。
橋本 誤解を避けるために、従来のオープンとは何であったかを説明しておきましょう。通信業界における「オープン」と言う用語は、米国で1984年にAT&Tという大きな電話会社を分割したときに初めて出てきた言葉なのです。このときは、まず、すでに構築されているAT&Tの電話網があり、これを7社のベル系地域電話会社に分割し、それぞれ規模を小さくして事業展開させ、お客様に新しいサービスを提供させていったわけです。この場合は、先に電話網がつくられてしまっていたため、電話網の仕組みがどうなっているのか他者にはわかりませんでした。このため、「それを公開して教えろ」というのが「オープン」の意味でした。
しかし、NGNはこれから構築するネットワークです。したがって、そのNGNにつながる電話機なり端末が、どういう信号をやり取りするのかというような仕組みがわからなかったら、通信機器や端末をつくれません。こういう背景から、事前にインタフェースを公開するというのがNGNでいう「オープン」という意味なのです。つまり、先述したように、インタフェースを早くオープンにしないと、通信機器メーカーは、通信機器や端末を作れないのです。あるいはコンピュータ・メーカーは、アプリケーション・サーバなどをNGNにつなぎ込めないのです。このようなことから、できるだけ早くインタフェースをオープンにしないといけないのです。
■なるほど。
橋本 もう一つ、NGNのオープンという意味で大事だと思うのは、キャリアのネットワークがオールIPになったことであり、これは通信の歴史の上では画期的なことなのです。もともとIPネットワークは、電話ではなく、コンピュータを相互接続して通信できるようにすることを基本にしたネットワークです。したがって、実は、オールIPになるということは、ネットワークにつながるのもコンピュータであり、ネットワークの側もコンピュータ(ネットワーク内にいろいろな処理をするコンピュータが設置されている)なのです。
オールIPということは、キャリアが提供する通信網(NGN)において、初めてコンピュータとコンピュータがいろいろな会話をするということなのです。もちろん、そのコンピュータは、遠くにある自分の会社のコンピュータとも会話をする、しかし、ネットワークとも会話をしないと、これからはつながらないのです。
したがって、オールIP化されたNGNでは、昔の言葉でいう電話をつなげるために通信の制御信号がどうなっているかということだけではなく、コンピュータだから、いろいろな機能をもっていて欲しいということになるのです。極端な例を言いますと、ユーザーがネットワーク(NGN)に英語で話しかけたら、ネットワークは日本語に翻訳してくれると仮定しましょう。しかし、ネットワークがそのように翻訳をしてくれる機能をもっているかどうかを、ユーザーが知っていないと、NGNをうまく利用できないのです。
■NGNのもっているいろいろな機能を、ぜひ知っておきたいですね。
橋本 また、そのネットワーク(NGN)にある翻訳機能はどういう仕組みになっているのか、どのようにつなげたら翻訳してくれるのか、というようなことをユーザーにわかり易くすることも重要なことです。この部分は、アプリケーションに相当しますので、通常、「上位レイヤ(層)」と言っています。ネットワークがそういう上位レイヤの機能をもっていること、すなわちネットワークで何ができるか、どういう機能をもっているかということもできるだけオープンにしていく必要があるのです。
そうすると、NGNを使おうとするエンド・ユーザー側あるいは企業側のコンピュータからは、NGNのある機能は、すでに自分のあるいは企業のコンピュータに入っているから要らない。あるいは、自分のコンピュータにはない便利な機能がNGN(ネットワーク)側にあるので、それを使いたい。というように、ユーザーは、ネットワーク(NGN)側にある機能を選択できるようになるわけです。
■つまり、NGN側の機能とユーザー側端末の機能がバランスよく分担できるようになるのですね。
(つづく)
プロフィール
橋本 信(はしもと しん)
現職:日本電信電話株式会社
常務取締役 技術企画部門長 次世代ネットワーク推進室長兼務
1972年3月 早稲田大学 理工学部 電気工学科 卒業
1972年4月 日本電信電話公社 入社
1985年4月 日本電信電話株式会社 技術企画部 調査役
1988年6月 同 東京総支社 設備企画部長
1994年8月 同 技術調査部 担当部長
1995年7月 同 人事部次長 人材開発室長 兼務
1999年7月 東日本電信電話株式会社 設備部長
2001年6月 同 取締役 設備部長
2002年6月 日本電信電話株式会社 取締役 第二部門長
2005年6月 同 取締役 第二部門長
次世代ネットワーク推進室長兼務
2006年6月 同 常務取締役 第二部門長
次世代ネットワーク推進室長兼務
2007年6月 同 常務取締役 技術企画部門長
次世代ネットワーク推進室長兼務