[スペシャルインタビュー]

NTTのNGN戦略を聞く(4):NGNとユーザー間の「コラボレーション」の展開

2007/10/09
(火)
SmartGridニューズレター編集部

2007年度中にNGNの商用サービスの開始を目指しているNTTは、すでに2006年12月から2007年12月の1年間を目途に、NGNフィールドトライアルを開始しています。また、NGNで可能となる商用サービスの具体例を示すショールーム「NOTE」(NGN Open Trial Exhibition)を東京・大手町と大阪・梅田に開設し、展示・デモが行われています。このNOTEへの見学者は、見学の予約を開始したその日にいっぱいになってしまうほどの人気振りです。そこで、NTTの技術分野の最高責任者であり、NGN関連の最高責任者でもある、NTT常務取締役 技術企画部門長 次世代ネットワーク推進室長兼務の橋本信氏に、NTTはなぜNGNに取り組んだのかから、NGNフィールドトライアルの内容、オープンとコラボレーション、NGNサービスとサービス品質からFMC実現への道など、具体的な展望をお聞きしました。
今回(第4回)は、
<第1回>:NTTは、なぜNGNに取り組んだのか?
=中期経営戦略でNGN・FMC・光ファイバ化を決定=
<第2回>:NGNでFMCを実現するためにキーとなるIMS!
=反響が高い実証実験=
<第3回>:NGNで何が「オープン」となるのか?
=3つのインタフェースのオープン(公開)=

に続いて、NGNとユーザー間の「コラボレーション」の展開 や、新しいビジネス・モデルにおいて重要となるQoS(サービス品質)を中心にお話いただきました(文中敬称略)。
聞き手:インプレスR&D 標準技術編集部

NTTのNGN戦略を聞く

≪1≫ユーザーとNGNの間のコラボレーション

橋本 そのような環境が進展していくと、次にユーザーとNGNの間で「コラボレーション」(協調)が展開されていくようになることが期待されています。すなわち、選択的にネットワークの中にある機能を使ったり、あるいは自前で新しい機能を用意したりすることによって、いろいろなビジネス・モデルを含めて新しいサービスが作り込まれていくようになると思います。

このように、これからはネットワーク(NGN)側からのみサービスを提供するだけでなく、NGNを利用するいろいろなエンド・ユーザーあるいは企業ユーザーが、そのネットワーク(NGN)の機能を知りながら、一緒にコラボレート(協調)してサービスをつくっていくということになると思います。そういう意味においても、NGNというネットワークはオープンでないとダメなのです。

■仮に、私がアプリケーションサーバを立ち上げて、NTTのNGNのネットワークを通してあるコンテンツを提供するビジネスをしたいと、NTTに相談に行ったとします。このような場合、NTTはどういう対応をされるのですか。

橋本 そのようなNGNの利用に関する基本的な事項はすべて決まっていて、教科書的にまとめられたものが用意されています。例えば、NGNに接続するためのインタフェースの条件書などをまずお見せします。少なくとも、そこは知っていないとつながりません。

また、そのようなコンテンツのサービスを、NTTと組んで、その企業の「すべてのお客様」に配信したいとか、あるいは、「特定のお客様のみ」に配信したい、というように、サービスのやり方に対しても要求があると思います。

そのような場合には、NTTにご相談いただければ、NTTがそれに応じた機能をケース・バイ・ケースで提供いたします、さらに、セキュリティの条件なども設定できるようにして、NTT側(NGN側)も、そのお客様の要望に応じた機能の作り込みをしていきます。したがって、これからは今までと違って、一律にすべて同じサービス、すなわち、これしかサービスが受けられませんというようなサービス・メニューではなくなっていくと思います。

■その場合は、ケース・バイ・ケースになるので、コンサルタントが必要になるのでしょうね。

橋本 その通りです。このようなコンサルティングもサービスとして位置付け、ぜひともある範囲内でビジネス化していきたいと思いますし、当然、人件費などもかかりますので、適切な料金はいただくことになります。NGN時代にはそういうサービスも多くなるのではないかと思っています。また、すでにいろいろなアイデアを生かしてビジネスを展開しているコンテンツ・プロバイダやサービス・プロバイダの方々と、コンテンツの配信先のターゲットとか付加価値を付けたサービスの共同開発などの面で、コラボレーションするケースも多くなってくると思います。

■なるほど。

橋本 多分、今までと違って、そういうお話が多くなるため、NGNをご利用いただく方々と頻繁にご相談しながらやっていかざるを得ないと思います。ある意味では、手作りのサービスの部分がたくさん生まれ、ネットワークを利用するための自由度が格段に増えていくと思います。

≪2≫すでに始まっている情報家電メーカーとのコラボレーション

■具体的なコラボレーションの例として、何か公表できるコラボレーションのケースはありますか。

橋本 実は、すでに、いろいろな会社からご相談がきています。すべてを公表するわけにはいきませんが、一例を挙げると、テレビの製造メーカーなどは、どうやって家庭の中にあるハイビジョンのテレビを外からコントロール(制御)できるようにするかというようなことを真剣に考えられており、そのようなご相談を受けています。

例えば、あの番組を録画しておきたいと思っていたが、録画機のスイッチを押してくるのを忘れてしまったとします。このとき、外出先から自宅に遠隔から携帯電話のようなもので指示(遠隔操作)すると、自動的に録画ができるようにしたいというわけです。そのようなことは「ホーム・コントロール」と言われていますが、例えばの話ですが、そういうものをいろいろと商品化したいと思っておられるところがあります(図8)。


図8:情報家電とネットワークの連携=ホーム・コントロール系の例=(クリックで拡大)

そうすると、それはNGNとどのようにコラボレートするかということにかかってくるわけです。その家電メーカーから販売される製品としては、家庭のテレビがあり、DVDレコーダーがあり、ゲーム機があり、それはおそらく家庭の中でLANで接続されホーム・ネットワークでネットワーク化されていると思います。しかし、通信事業者は家庭の中の機器構成まで介入できないのです。

したがって、そういうところは、情報家電メーカーとコラボレートしていく必要があるわけですが、これは新しいサービスを商品化できる一つのチャンスだろうと思います。現在、家庭内のLANをNGNと連携しながら新しいサービスを提供できないかというご相談を受け、コラボレートしているところなのです。

≪3≫NGNにおいて重要なサービス品質(QoS)

■それから、NGNの場合は、安全性、信頼性とともに、QoS(サービス品質)ということが強調されていますが、NGNにおけるQoSの考え方をわかり易く教えて欲しいのですが。

橋本 はい。もともとインターネットの世界は、自由度を最大限に保証するという、明確なコンセプトがあります。これをサービス品質についてわかり易い言葉で言うと「ベストエフォート」(品質の保証がないことを前提にしたサービス・レベル)ということになります。ベストエフォートは、非常に自由であり、例えば、1本の道路を、車線を決めないでみんなで使おうよ、ということです。しかし、現実を見てもおわかりの通り、自由な社会とはいえ何をしてもよいというわけではありません。ふと気が付いたら、自由なはずの公共の道路が一部の人たちに専有されてしまって、「何とかして欲しい」と言っても簡単には解決してもらえないようなケースも出てきます。

そこで現実に戻って考えてみますと、例えば、少しお金がかかってもいいから、私だけが専有して音声も画像も乱れない安定した通信回線を提供して欲しい(混雑のない専用の車線が欲しい)、というお客様もいるわけです。一方、多少混雑があってもベストエフォートのサービスで、安く通信できるだけで十分だと言う人もいます。このように、いろいろなユーザーの要望や要求の度合いに応じて、サービスを提供していく必要が出てきています。このサービス内容に応じて、通信品質を柔軟に提供していくことを、「QoS」(Quality of Service、サービス品質)と言うのです。このQoSはユーザーの要求に応じていろいろなレベルがあります

例えば、あるレベルのQoSを保証した通信というのは、IPネットワーク上で提供されるIP電話の音声が、途切れたりして乱れないよう、サービスのクオリティを一定レベルに保証された通信ということです。IP電話は、IPネットワーク(高速道路)の中に、基本情報単位であるパケット(自動車)を流して実現されていますが、この仕組みは、高速道路と自動車の関係に似ていてわかり易いので、先ほどたとえ話として挙げたわけです。

■たしかにわかり易いと思います。

橋本 したがって、もし広い道路に車線がなかったら、カオスの状態が発生し、スピードを出す人はすっ飛んでいくし、遅い人はそれを避けてゆっくり行くなどという状況となり、混乱がありながらも走行していくことになります。しかし、道路が狭く1本しかなくて、追い越しもできないとなったら、大渋滞が起きてしまうでしょう。したがって、それがベストエフォートの問題となる可能性があるのです。

そこで、例えばハイビジョン映像を流すことを考えて見ましょう。ハイビジョン映像というのは、本来1Gbps以上という膨大な情報量をもっており、最近では、映像圧縮技術(H.264/AVC)によって10Mbps~20Mbps程度でも通信できるようになりましたが、高速回線を専有して通信しないと、きれいな映像を送れないのです。まさに高速道路に何トンもの大型トラックが走る光景に似ています。

10Mbpsというスピードは、音声通信の64kbpsの150倍もの情報量をもっています。この大型トラックのような大きさのハイビジョン映像が回線に突っ込んでくるわけです。このため、大型トラックが快適に(ハイビジョンの映像をきれいに)走行できるように、車線をきちんと設定し空けてあげる必要があるのです。

そこで、いろいろなコンテンツ(音声・映像・データなど)を送る場合に、ある品質レベルを決めて通信するようにするのです。例えばNGNにおけるユーザー端末からユーザー端末(エンド・ツー・エンド)のQoSでは、「最優先」、「高優先」、「優先」「ベストエフォート」という4つの品質クラスが設定されています(図9)。このように何らかの順番を決めて、優先的に大型トラックを通してあげる仕組みをつくるのです。あるいは、この大型トラックが通る車線にはバイクとか小型車は絶対入れないようにしてあげるというようなことを、サービス(QoSサービス)として提供しようとしているのです。


図9:NGNにおけるエンド・ツー・エンドのQoSの考え方(クリックで拡大)

≪4≫3,000万の光ユーザーとQoSの課題

■NTTは2010年に、3,000万の光ファイバのユーザー(すなわちNGNの対象ユーザー)の獲得を目指していますね。3,000万にも加入者が増えていき、しかもQoSを保証していくとなると、NGNの帯域をどんどん増やしていかなくてはならなくなりますが、その辺はどのように考えておられますか。

橋本 仮に目標とする3,000万のユーザー数となると、これはものすごく多い数であり、膨大なトラフィック量になるのは間違いありません。このような状況に対応するにあたってはいくつかの問題点があります。例えば、無限に近い幅の広い道路をつくることができれば、QoS管理の必要がないベストエフォートでも良いのです。今の東名高速は片側3車線ですが、これを簡単に10車線や20車線へと拡張できる、あるいは第二東名、第三東名が簡単に作れるのでしたら、それはベストエフォートを維持できるわけです。しかし、おそらく、それはコストの面からできないでしょうね。

最近、議論になっているのですが、映像配信のYouTubeであるとか、新しいSNS(Social Networking Service)というように、さまざまなエンド・ユーザーの方が自分でコンテンツを作ったり、情報を発信するような使い方が新しく登場しています。これは場合によっては、大型トラックがなだれ込んでくるような現象に似ているところがあります。ハイビジョンのようなNHKが作った映像品質の優良な番組のコンテンツではなく、誰が作ったかわからないような品質の良くない、しかし、NHKのハイビジョンの番組と同じような情報量があったときに、これをどうするのかということです。

■何か具体的な対処方法はあるのでしょうか?

橋本 それにはいくつか考え方があり、例えば、ネットワーク・ユーザーはもう自由にやってくださいというふうに徹してはどうか、という意見もあります。一方、わけのわからない大型トラックのようなトラックは入口で止めてはどうか、という声もあります。それは「ネットワークの中立性議論」(※1)といわれ、最近、ネットワーク側が規制してもよい範囲を少し議論しようではないか、ということが、アメリカなどで起きています。これは、社会的コンセンサスを得るのに、相当長い時間がかかると思います(※1:ネットワークの中立性に関する懇談会)。

※1:参考URL
総務省の「ネットワークの中立性に関する懇談会」報告書案。NGN時代を迎えた通信政策の見直しや、ネットワーク利用の公平性の面から、NGN(次世代ネットワーク)と、他の通信事業者との公正な接続ルールの検討なども提言されている。
<URL>
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/network_churitsu/index.html

しかし、一部のユーザーにより何もかもがネットワークの中に投げ込まれて、ネットワークが渋滞してしまい、使い勝手が悪くなったとしたら、多くの一般のユーザーにとっては迷惑だということになります。したがって、行政側で最低限のルールを設け、通信事業者が一般のユーザーのために少し入場制限できるようにすることは、多分、許されることだと思います。ただし、これは一つの社会的コンセンサスが必要になる課題であると思います。

そこで、そのようなことに対処できるようにするために、エンド・ユーザーがサービスを選択できるようなシステムにすると良いのではないかと思います。わかり易く言いますと、昔、鉄道のサービスとしてあった、一等車、二等車、三等車というような概念に近いのですが、料金が少し高くなるけれども、大型トラックとは別の部屋(車両)にしてください、というような仕組みが考えられるのです。このように、少し高い料金を払うから自分の個室を保証して欲しいというようなことが、QoSではないかと思います。

(つづく)

プロフィール

橋本 信氏

橋本 信(はしもと しん)

現職:日本電信電話株式会社
   常務取締役 技術企画部門長 次世代ネットワーク推進室長兼務

1972年3月  早稲田大学 理工学部 電気工学科 卒業
1972年4月  日本電信電話公社 入社
1985年4月  日本電信電話株式会社 技術企画部 調査役
1988年6月  同 東京総支社 設備企画部長
1994年8月  同 技術調査部 担当部長
1995年7月  同 人事部次長 人材開発室長 兼務
1999年7月  東日本電信電話株式会社 設備部長
2001年6月  同 取締役 設備部長
2002年6月  日本電信電話株式会社 取締役 第二部門長
2005年6月  同 取締役 第二部門長
        次世代ネットワーク推進室長兼務
2006年6月  同 常務取締役 第二部門長
       次世代ネットワーク推進室長兼務
2007年6月  同 常務取締役 技術企画部門長
        次世代ネットワーク推進室長兼務

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