2015年3月26日、独立行政法人情報通信研究機構(以下:NICT、東京都小金井市、理事長:坂内 正夫)は、住友電気工業株式会社(以下:住友電工、大阪府大阪市、社長:松本 正義)、国立大学法人横浜国立大学(以下:横浜国大、神奈川県横浜市、学長:鈴木 邦雄)、株式会社オプトクエスト(以下:オプトクエスト、埼玉県上尾市、代表取締役:東 伸)と共同で、36コアで、かつ、すべてのコアがマルチモード伝搬の新型光ファイバを開発し、光信号の送受信実験に初めて成功したことを発表した。
光ファイバ1本当たりの伝送容量を拡大する次世代技術として、マルチコアファイバやマルチモードファイバ伝送が世界的に研究されている。今回、すべてのコアを3モードにし、1本の光ファイバで36×3=108の空間チャネル※1を実現した。実験の成功によって、1本の光ファイバで毎秒10ペタビット※2伝送の可能性が拓ける。
実験の背景と詳しい結果については下記のとおり。
【背景】
増大し続ける通信トラフィックに対応するために、光ファイバの限界を超える新型光ファイバの研究が世界中で盛んに行われている。主に研究されている新型光ファイバは、光ファイバに複数の通り道(コア)を配置したマルチコアファイバと、コア径を広げて1つのコアで複数の伝搬モードに対応したマルチモードファイバである。また、これらの新型光ファイバを実用化するためには、現在、光通信で使われているシングルコアでシングルモードの光ファイバ(以下、「既存の光ファイバ」)との接続デバイスが重要で、その研究も並行して行われている。
2種類の新型光ファイバの製造技術及び疎通評価を合わせて、マルチコアファイバの各コアをマルチモード伝搬にすると、光信号の空間チャネルが大幅に増え、通信容量が飛躍的に増大しするが、マルチモード伝搬にするためにコア径を広くするとコアから漏れた光信号の干渉が大きくなる問題や、既存の光ファイバとの接続方式が複雑で、難しい技術が必要であるなどの問題があり、12コアで3モードの光ファイバしか実現していなかった。
【今回の成果】
今回NICTは、36コアすべてがマルチ伝搬モードの新型光ファイバと、既存の光ファイバとを空間結合装置※3を介して接続し、「36コア×3モード=108」の空間チャネルで通信波長帯の光信号の送受信実験に成功した。
実験では、横浜国大と住友電工が共同で「36コアマルチモードファイバ」を設計し、住友電工が製造した。また、「既存の光ファイバと接続する空間結合装置」は、NICTとオプトクエストが設計し、オプトクエストが製造した。
これまで、NICT発表のマルチコアファイバのコア数は、シングルモードで19が最大で、限界と考えられていた。今回、19コアを大幅に超える36コアを実現することができ、さらに、マルチモード伝搬も成功した。
空間結合装置については、これまでマルチコアシングルモードファイバ用に開発していたものに伝搬モードの異なる光信号を合波する機能を追加し、1台でマルチコアとマルチモードに対応することができた。
実験結果の108空間チャネルすべてに最先端光変復調技術やデジタル信号処理技術を利用すると、1本の光ファイバで毎秒10ペタビット級の超大容量伝送の可能性が拓き、今後、より安価で大容量のネットワークサービスの実現が期待される。
実験の結果は、米国ロサンゼルスで開催されている光ファイバ通信関係最大の国際会議の1つである光ファイバ通信国際会議(OFC2015)で高い評価を得て、ポストデッドライン論文(最優秀ホットトピック論文)として採択され、現地時間3月26日(木)18:00に発表される。
※1:空間チャネル
一本の光ファイバによる伝送容量を拡大するため、複数の光信号を束ねて伝送し分離することを多重化伝送といい、多重化された光信号は、それぞれ独立な通信チャネルと考えられる。例えば、レーザの波長(色)を用いて多重化する波長多重技術は、それぞれのチャネルを波長チャネルと呼ぶ。
空間チャネルとは、独立に光信号を伝送できる個別空間(コアやモード)である。マルチコアファイバのそれぞれのコア、マルチモードファイバではそれぞれのモードが別々の空間チャネルとなり、マルチモードマルチコアファイバの場合、空間チャネル数はコア数×モード数になる。
※2:ペタビット
1ペタ(P)ビットは 1000兆ビット、1テラ(T)ビットは1兆ビット、1ギガ(G)ビットは10億ビット、1メガ(M)ビットは 100万ビット。
通常の家庭用光ファイバサービス(FTTH)は、最大でも毎秒 2ギガビット程の速度であり、1ペタビットはその 50 万倍に当たる。
※3:空間結合装置
マルチコアファイバやマルチモードファイバを光通信に利用するためには、実用化されたシングルモードシングルコアファイバとの接続性が重要である。さまざまな手法が提案されているが、レンズやプリズムなどを用いて、自由空間を伝搬するレーザビームによって、異なる種類の光ファイバ同士を光学的に接続する装置を空間結合装置と呼ぶ。これに対して、空間結合以外の手法としては、ファイババンドル型、3D 導波路型、フォトニックランタンなど、光導波路を用いるものがある。