早稲田大学と東芝は2017年3月17日、共同で実施した電動バス運用の実証実験の結果を公表した。早稲田大学理工学術院紙屋雄史教授研究室と東芝が2016年2月から2017年1月の期間で実施した実験で、ワイヤレス急速充電機能を持たせた電動バスを公道で運用し、CO2排出量削減効果を確認するというもの。環境省が公募した「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」の採択を受けた事業だ。
実験では中型と小型の2種類の電動バスを運用した。中型バスは蓄電容量52.9kWhのリチウムイオン蓄電池を搭載し、航続距離は約89km(高速走行で空調を使用しない条件で)。小型バスは40kWhのリチウムイオン蓄電池を搭載し、航続距離は約50km(公道走行で空調を使用しない条件で)。どちらも電池は、東芝が開発した「SCiB」を使用している。
図 実験で使用した中型バス(左)と小型バス(右)
出所 東芝、早稲田大学
実験走行ルートは中型バスが川崎市殿町(とのまち)から羽田空港内の全日本空輸の施設までの約11km。途中で首都高速道路を走行した。小型バスが川崎市殿町から大田区東糀谷の全日本空輸の訓練センターまでの約6kmで、すべて一般道を走行した。どちらのバスも全日本空輸およびそのグルーブ会社社員の社用施設間移動車として運行した。運行頻度は中型バスが1日3便で、小型バスが1日4便。
図 実験車両の走行ルート
出所 東芝
どちらのバスも、充電には東芝が開発したワイヤレス急速充電システムを利用した。川崎市殿町のバス発着地点のそばにワイヤレス充電システムの送電パッドを埋め込み、それぞれのバスの底部に対応する受電パッドを取り付けた。送電パッドを埋め込んだ場所に停車していれば充電できるという仕掛けだ。充電時間は中型バスが約20分で、小型バスが約15分。
図 地面に埋め込んだ送電パッド。バスの充電には2つの送電パッドを使用する
出所 東芝
ワイヤレス充電システムの送電方式は磁界共鳴方式。85kHz帯で44kWの電力を送電できる。自動車向けワイヤレス充電システムの送電方式としては、85kHz帯を使う電磁誘導方式の国際標準化が進んでいる。電磁誘導方式は、送電側、受電側のパッドにコイルを仕込んで、送電側のコイルに電流を流す方式。送電側と受電側のパッドを近づけて、送電側のコイルに電流を流すと受電側のコイルに磁流発生する。この状態で受電側のコイルに電流を流すと送電側から受電側に電力を伝送できる。
早稲田大学と東芝が今回の実験で選択した磁界共鳴方式は、電磁誘導方式を基本として、送電側、受電側のパッドを共通の周波数で振動させることで、共鳴現象を発生させる方式。電磁誘導方式に比べると、送電側、受電側のパッドの距離が長くても送電でき、双方のパッドの位置ずれにも強いという。
1年間走行した走行距離や消費電力などのデータから早稲田大学がCO2排出量削減効果を計算したところ、中型バスでは同程度のサイズのディーゼルエンジンのバスと比べておよそ60%の排出量削減効果があると判明した。同じ方法で小型バスの排出量削減効果を計算したところ、同程度のサイズのディーゼルエンジンのバスと比較しておよそ42%の削減効果があったという。
ワイヤレス充電システムが実用のものになれば、電気自動車の普及にはずみが付くだろう。しかし、「充電のために」自動車で移動するのでは少し不便と言えないだろうか。ワイヤレス充電システムが安価で手に入るようになれば、自宅の駐車場に設置して利用するというドライバーが増えるはずだ。自宅の駐車場で充電するなら、一晩かけて充電できるので、急速充電機能も必要ない。東芝は今後も充電効率の向上などの研究開発を進める意向を示しているが、「誰でも買える」という方向の開発も進むことを願いたい。