ソラコムは2017年5月10日、IoT機器向けデータ通信サービス「SORACOM」のサービス内容を拡張すると発表した。拡張内容は主に3点。1つ目はデータ通信サービス「SORACOM Air for セルラー」の低価格な通信プラン追加。2つ目はパブリッククラウドサービスとの連携機能を提供する「SORACOM Funnel」の接続先追加。3つ目はLoRaWANを利用したデータ通信サービス「SORACOM Air for LoRaWAN」の対応機器追加だ。
SORACOM Air for セルラーに加わる低価格な通信プランは、データ通信量が少ない用途に向けて基本料金を引き下げたもの。「Low Data Volume」と呼ぶ。初期費用となるSIMカードの購入価格は1枚当たり5米ドルと、従来プランと変わらないが、基本料金を引き下げ、従量課金のデータ通信料金を引き上げた。位置情報だけを送信する用途や、月に1度、機器の状態を送信するなどの、データ送信量が少ない用途に向けたプランとなる。ごく少量のデータしか流さないような用途で、SORACOM Air for セルラーをより安価に利用できないかという利用車からの声に応えて開発したという。
現行の通信プランで最も安価に利用できる「Basic」では、データ通信開始後の基本料金が1日6米セント(1月当たりおよそ1ドル80セント)で、データ通信料金が1Mバイト当たり8米セント~(国、地域によって異なる)となっている。一方、新たに提供を始める「Low Data Volume」プランでは、データ通信開始後の基本料金が1月当たり40米セントで、データ通信料金が1Mバイト当たり50セント。データ通信量が多くなると割高になってしまうが、通信料が少ないと決まっている用途なら、基本料金と合わせて低額で利用できる。
図 新料金プラン「Low Data Volume」の想定用途(赤い楕円の部分)。従来のプランはデータ通信量数Mバイト~数Gバイトになる用途まで幅広く対応していたが、新プランはデータ通信量が少ない用途に絞って提供する
出所 ソラコム
「Low Data Volume」プランは、5月16日の午前10:00(太平洋夏時間:日本時間にすると午前1:30ごろ)から提供を始める。SIMカードは日本とアメリカで販売し、通信サービスは日本、アメリカを始め、アジアと欧米の主要国で利用できる。通信料金も世界共通となっている。
2つ目の拡張点はパブリッククラウドサービスとの連携機能を提供する「SORACOM Funnel」の拡張だ。SORACOM FunnelはIoT機器からソラコムの通信システムに届いたデータをプロトコル変換などの処理を施して、パブリッククラウドのサービスに流すというサービスだ。パブリッククラウドとの接続時に必要な認証処理はソラコムの通信システムが受け持ってくれるので、IoT機器に認証情報を持たせる必要がない。また、ソラコムの管理コンソールから簡単な設定をするだけでクラウドサービスに接続できる。
これまでSORACOM Funnelは、Amazon Web Servicesが提供する「Amazon Kinesis Streams」「Amazon Kinesis Firehose」「AWS IoT」と、Microsoftが提供する「Microsoft Azure Event Hubs」への接続に対応していたが、接続に必要な「アダプタ」と呼ぶソフトウェアはソラコム自身が開発していた。
今回、ソラコムは接続先を増やすことを狙って、「SORACOMパートナースペース(SPS)」の認定を受けた企業が、自社サービスと接続するアダプタ「Partner Hosted Adapter」を開発して提供する制度を用意した。この制度は5月10日から開始している。ユーザーは従来ソラコムが提供してきたアダプタと同じように、Partner Hosted Adapterもソラコムの管理コンソールで簡単な操作で利用できる。
図 SORACOM Funnelについてはパートナー企業が自社サービスと接続するアダプタを開発し、提供することを可能にした(図右下の赤枠の部分)
出所 ソラコム
すでに自社サービスと接続するPartner Hosted Adapterを開発し、提供する企業も現れている。ウイングアーク1stはBIクラウド「MotionBoard Cloud」に、Kiiはデータ管理や分析機能を提供するクラウドサービス「Kii」に、セゾン情報システムズはデータ連携機能を提供するクラウドサービス「DataSpider Cloud」にそれぞれ対応するアダプタを開発している。
3つ目の拡張点は、「SORACOM Air for LoRaWAN」の対応機器追加だ。ソラコムは2017年2月からLoRaWANを利用したIoT機器の通信サービスの提供を始めているが、現状ではソラコム公認で使える機器が少なかった(参考記事)。ゲートウェイはエイビットが開発した屋内設置向けの製品、通信端末としてはやはりエイビットが開発したArduino開発シールドしか使えなかった。
そこで、LoRaWAN通信モジュールや通信機器を提供するメーカーに向けて登録申請制度を制定し、10日から受け付けを始めた。ソラコムは申請を受けて認定手続きを取り、完了次第ソラコムの管理コンソールから購入できるようになる。ソラコムは登録申請制度の開始を「オープン化」と表現している。
また、ソラコムは認定端末としてアメリカMulti-Tech Systems社、Braveridge、エイビット、富士通コンポーネントからLoRaWANチップを搭載した通信モジュールが登場する予定を明かしている。さらに、スイスSTMicroelectronics社とGISupplyからは、通信モジュールにセンサーを組み込んだものが登場するともしている。ソラコムは今後も認定端末を増やしていく意向を示している。さらに、ゲートウェイに認定機器制度を導入することも今後検討するとしている。
図 LoRaWAN通信の端末について、登録申請制度を制定した
出所 ソラコム
携帯電話通信網を活用した「SORACOM Air for セルラー」は2015年9月からサービスを提供し、順調に利用者数を伸ばし、協力企業制度「SORACOMパートナースペース」も多くの企業が参入している。現在ではSORACOM Air for セルラーの認定を受けた機器は77種類にもなる。
しかし、「SORACOM Air for LoRaWAN」はまだサービスが始まったばかりだ。今後認定機器は増えていくだろうが、LoRaWANが日本で広く受け入れられるかどうかはまだ不透明なところがある。それに、2017年からは各携帯電話事業者がLTEの電波を利用した「セルラー系LPWA」のサービスを開始することを予定している。920MHz帯を使うLPWAと、携帯電話通信網をを使うセルラー系LPWAのサービスが出揃ったところで、適切な使い分け方が見えてくるだろう。
インプレスでは、920MHz帯LPWAだけでなく、セルラー系LPWAのそれぞれの特徴、提供事業者が考えるビジネスモデル、最新規格の策定状況などを解説した「IoT時代の次世代無線通信規格LPWAの全貌[NB-IoT/Cat-M1からLoRaWAN/SIGFOX/IEEE 802.11ahまで]」を販売している。IoTの導入を決め、通信方法の選択で迷っている方だけでなく、IoTの導入で悩んでいる方にもお薦めしたい。
■リンク
ソラコム(SORACOM Air for セルラー)
ソラコム(SORACOM Funnel)
ソラコム(SORACOM Air for LoRaWAN)