パナソニック エコソリューションズ社は2017年5月24日、同社の「HIT(Heterojunction with Intrinsic Thin-layer:ヘテロ接合型)」太陽光発電モジュールの「出力温度係数」が業界最小レベルの値を記録したと発表した。出力温度係数とは、温度上昇に従って変換効率が低下する度合いを示す数値。パナソニックによると、シリコンを材料とした一般的な太陽光発電モジュールでは、この値が1度上昇ごとに0.5%(-0.5%/℃)程度だという。
パナソニックのHITの出力温度係数は従来も-0.29%/℃という良好な値を記録していたが、今回は量産品で-0.258%/℃を記録した。これはシリコンを材料とした太陽光発電モジュールの中でも集光型でないものの中では世界最高の値だとしている。つまり、一般的なシリコン太陽光発電モジュールと比較すると、HITは高温環境下でも発電効率が落ちにくいということになる。
図 パナソニックの「HIT」太陽光発電モジュール
出所 パナソニック エコソリューションズ社
例えば変換効率が15.6%で、出力温度係数が-0.5%/℃のシリコン太陽光発電モジュールと、変換効率が19.6%で出力温度係数が今回記録した-0.258%/℃となるHIT太陽光発電モジュールを比較すると、モジュール温度が75℃になる場面では、HITの方が変換効率が46%ほど高くなるという。
各メーカーが公表している太陽光発電モジュールの変換効率がモジュール温度が25℃であることを想定した値だ。モジュール温度が75℃ということは、各メーカーが基準とする温度から50℃上昇した環境だ。先述のシリコン太陽光発電モジュールは、変換効率が15.6%で、出力温度係数が-0.5%/℃となるので、75℃の環境では変換効率が11.7%まで下落する。一方、HITは変換効率が19.6%で出力温度係数が-0.258%/℃となり、75℃の環境でも17.0716%の変換効率を維持する。シリコン太陽光発電モジュールと比較すると45.9%高い値だ。
HITはn型半導体となる単結晶シリコン層の上下に、薄いアモルファスシリコンの層を重ねた構造になっており、両者の長所を持ち合わせている。例えば単結晶シリコンの太陽電池は比較的長い波長の光に反応して発電するが、アモルファスシリコンの太陽電池は比較的短い波長の光に反応して発電する。その結果、一般的なシリコン太陽電池よりも使用できる光の波長の幅が広くなるので、高い効率で発電する。
また、アモルファスシリコン太陽電池はシリコン太陽電池に比べると変換効率では大きく劣るが、高温環境下ではシリコン太陽電池に比べて最大電圧(開放電圧)が下がりにくく、発電効率も落ちにくい。HITが高温環境に強い理由の1つがこの点にある。
HIT太陽光発電モジュールは発電効率が高く、高温環境下でも確実に発電し続けることから、狭い設置面積で発電量の最大化を狙う住宅設置用途で高い人気を誇る。しかし、モジュール価格が高いという欠点が付きまとう。パナソニックは今後も、出力、効率、信頼性の向上を目指して技術開発に取り組み、量産化につなげていくとしているが、低価格化も実現してほしいところだ。