アメリカ・マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology:MIT)の高齢化研究所(AgeLab)は2017年5月25日(現地時間)、自動運転車や安全運転支援技術に関する意識調査を実施し、その結果を公表した。結果を見ると、大多数の回答者が現状の技術に満足しており、自動運転車については否定的に見ていることが分かる。
今回の調査では、Webサイトで回答者を募集した。募集の告知はMIT AgeLabのWebサイト、自動車の販売情報サイト「BestRide.com」、New England University Transportation CenterのWebサイトに出した。総回答数は3308で、有効回答数は2976。53%が男性で、46%が女性となった。
有効回答数の年齢構成を見ると、24歳以下が3%で最も少なく、25歳~34歳が10%、35歳~44歳が9%、45歳~54歳が12%、55歳~64歳が22%、65歳~74歳が32%、74歳以上が12%となった。55歳以上が66%を占める、高年齢層に少し偏った構成となっている。
調査ではまず、回答者が現在使用している乗用車が備える技術についてどう考えているかを聞いている。「大いに不満(very unhappy)」「気に入っているものもある(like some of the features)」「特に意見はない(no opinion)」「ほとんどの機能について良いと思う(like most of the features)」「大いに満足している(very happy)」の5つの選択肢から選ぶ質問で、結果を見ると「大いに満足している」が35%、「ほとんどの機能について良いと思う」が40%となり、大多数の回答者が現在の自動車が備える技術、機能に満足していることが分かる。
自動運転の技術について、どの程度まで自動化したものが良いと思うかという質問でも、5種類の選択肢から選ぶ形式としている。用意した選択肢は「No Automation(自動運転技術は必要ない)」「Features that are usually inactive, but activate only in certain events such as a collision(普段は働かないが、衝突事故などが発生したときに働くもの)」「Features that actively help driver while the driver remains in control(運転者を積極的に助けるが、自動車を制御するのはあくまで運転者)」「Features that relieve the driver of all control for periods of time(ある程度の時間に限って、運転者に代わって自動車を制御するもの)」「Features that completely relieve the driver of all control for the entire drive(完全に運転者に代わって自動車を制御するもの)」。このうち、最も多くの回答を集めたのは「運転者を積極的に助けるが、自動車を制御するのはあくまで運転者」で、59%がこの選択肢を選んだ。完全な自動化を望む回答は13%にとどまったという。
そして、完全な自動運転車が市場に出たとして、どの程度の価格なら買うかという質問に対しては、48%が「完全な自動運転車など買わない」と回答している。次に多い回答は2万5000ドル~4万9999ドルなら買うというものだが、27%にとどまっている。
図 自動運転車の価格がどの程度なら購入するかという質問に対する回答を集計した結果。ほぼ半数が完全な自動運転車など買わないと回答している
出所 Massachusetts Institute of Technology AgeLab
完全な自動運転車など買わないという回答に対し、その理由を聞くと37%が「運転者が制御できないという点が不安」と答え、29%が「そんな技術を信用できない」、25%が「そんなもの完全に動作するわけがない」、21%が「そんなもの安全であるはずがない」と答えている。多くの回答者が自動運転技術に対して強い不信感を抱いていることを示す結果となった。
このような結果が出た原因として報告書では、日々の経験から消費者が技術というものについて、自分の命を預けられるほど信用できるものではないという思いを抱いていることが原因ではないかと推測している。現在では日常生活の中でさまざまな技術に触れる機会がある。しかし、期待通り動かずイライラさせられることも少なくない。例えば、スマートフォンでWebページを見ようとしたら電波が届かず表示できないといったことや、パソコンにプリンタをつないで使おうとしたら、どうやってもうまく行かなかったといったこと、パソコンが突然停止したといったことを経験されている方は多いだろう、こういうことを繰り返し経験していると、「技術に完全に任せても失敗するだけだ。いざという時は人間が手を下さなければならない」という思いを抱いても不思議ではないということだろう。
そして、自動運転車に対する不信感を払拭するには自動運転の研究者やメーカーの技術者が自動運転技術についてどういう考えを持っているのか、どういう問題があると考えているのかといったことを社会に広く伝わる形で議論を続ける必要があるとしている。消費者はその議論に耳を傾けることで、自動運転車に対する正しい情報を得ることができ、自分なりの考えを語ることができるようになる。自動運転車が社会にもたらす恩恵についても情報を得ることができる。そして、自動運転車を単純に信用できないと拒否するのではなく、自身の尺度で評価できるようになるはずだと説いている。
自動運転車が実用のものになったとき、利用するのは技術に詳しい一部の層だけではない。自動運転技術について決して詳しいとは言えない消費者の多くが利用することになるはずだ。そのときに、「運転手がいないのに動くなんて怖い」と感じさせてしまったら、自動運転車の将来は暗いものになりかねない。自動運転車はまだ研究段階にあり、実用のものではないが、メーカーや研究者は今からでも一般消費者にも分かる情報をなるべく多く提示していくことが必要だろう。