トヨタ自動車は2018年2月20日、ネオジム(Nd)の使用量を大きく削減できる新型磁石「省ネオジム耐熱磁石」を開発したと発表した。今後、急速に普及すると考えられる電動自動車の駆動用モーターや、パワーステアリング用モーターなど、自動車は多量のネオジム磁石を使用しているが、ネオジム磁石はネオジムのほかにも希少金属を使用している。しかし希少金属は高価なものだ。当然ネオジム磁石の価格も高くなる。今後の電動車の需要拡大を考えると、希少金属をなるべく使用しない磁石を開発する必要があった。
省ネオジム耐熱磁石は、従来の磁石が使用していた希少金属であるテルビウム(Tb)やディスプロシウム(Dy)を使う必要がなく、ネオジムの使用量も削減した。地政学的なリスクが高い金属であるTbやDyを一掃することで、世界情勢の動きによっては突然入手できなくなる可能性がある金属を使うリスクを避けられる。
トヨタ自動車が省ネオジム耐熱電池を開発するする上で、ポイントとなったのが、磁石を形成している微細な粒の形状と構造の工夫と、大きく使用量を減らしたネオジムに代わって投入した金属の使用比率だ。
まず今回の開発では、磁石を形成する微細な粒をさらに微細化した。この粒の表面積が大きくなるほど、保持力が高まるという。今回は従来の1/10以下に微細化したという。加えて、個々の粒の構造を変えた。従来は粒の中にNdがほぼ均等に分布していたが、今回は粒の表面のNd濃度を高め、粒の内部はNd濃度を低く抑えた。粒の表面にNdを集めることで、減ってしまったNdを効率良く活用できる。
図 磁石を形成する粒を微細化し(上)、個々の粒の表面にNd濃度が高い層を作った(下)
出所 トヨタ自動車
加えて、ネオジムの使用量を大きく減らした代わりに、安価な金属を使用した。使用したのは希少金属の中でも産出量が大きく、安価な金属であるランタン(La)とセリウム(Ce)を採用した。しかし、単純に磁石にLaやCeを混入させるだけでは、耐熱性や磁力が大きく低下する。そこでトヨタ自動車はLaやCeの配合比率を研究し、Laが1、Ceが3の比率で混ぜれば、磁石の良い特性を損なわないことを解明した。LaやCeは表面にNd濃度が濃い層を作った、2重構造の粒の内側に混ぜる。
図 大きく使用量を減らしたネオジムの代わりにLaやCeを混ぜる。比率は1:3だ
出所 トヨタ自動車
既存のネオジム磁石は、高温環境でも磁力を維持させる目的で、NdやTb、Dyなどの希少金属を使用している。自動車の内部はかなり高温に達する部分があるため、その環境でも高い磁力を発揮するネオジム磁石は自動車に欠かせない。今回トヨタ自動車が開発した新しい磁石は、希少金属の使用量を減らしながら、既存のネオジム磁石と比べても遜色ない性能を発揮する。
図 既存のネオジム磁石と親開発の磁石の性能を比較したグラフ。高温環境でも既存のネオジム磁石に遜色ない性能を発揮している
出所 トヨタ自動車
トヨタ自動車は今後、実用化に向けて評価を進める。さらに、低コストで生産できる体制を作るために技術開発に取り組むとしている。そして、今回開発した磁石を2020年代前半には、パワーステアリング用モーターなどで実用化し、電動車の駆動モーターでは今後10年以内の実用化を目指すとしている。
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