NECは2018年2月27日、人間の耳孔形状による音質特性の違いで個人を認証する技術を開発した。長岡工業高等専門学校(長岡高専:新潟県長岡市)との共同研究で開発したもの。マイク内蔵のイヤホンを耳に装着するだけで、装着車の耳孔形状をいつでも、何回でも読み取れるので、NECはこの技術を機密施設に入る作業員の常時認証に活用できると期待している。
これまでも同様の技術は登場していたが、耳孔の音響特性を検知する際に人間の耳にはっきり聴こえる音を出す必要があり、利用者の集中力を途切れさせてしまうなどの問題があった。そこでNECは耳孔の音響特性の検知に、人間の可聴領域から高く外れた音を採用し、利用者にいつ認証しているのか感じさせない技術を開発した。
図 NECが今回開発した技術は、人間の可聴領域から高く外れた音を利用して、利用者の耳孔の形状を読み取る
出所 NEC
耳孔の形状から、その音響特性を読み取るには、イヤホンから人間の可聴領域から外れている音を発し、その音が耳孔内のさまざまな部分で反射して、帰ってきたものを内蔵マイクで拾う。イヤホンが発した音は、外耳道から鼓膜に達し、さらに中耳、内耳に進む。音響特性の算出には、鼓膜で反射して返ってくる音と、鼓膜を通過して中耳や内耳で反射して返ってくる音の2種類がとりわけ重要だということがこれまでの研究で分かっているという。今回NECが発表した技術では、この2種類の反射音から、周波数帯など少数の特徴量を抽出。この特徴量を比較することで、個人を識別できる。NECの実験では、この技術を使うと、安定して99%以上の精度で個人を識別できるとしている。
図 イヤホンから発した音の反射を拾った結果をグラフにしたもの。耳孔の形状によって、反射音が異なることが分かる。特に赤い丸で囲んだ部分が、個人の耳孔の形状の違いによる、音響特性の違いを表す部分だ
出所 NEC
加えて、認識精度を高めるために計測法や信号処理を工夫した。工夫は主に2点。1点目は、人間に聞こえない音を利用した耳孔内の音響特性分析の際に、音を発して、反射音を検知する過程を複数回繰り返す。それぞれの結果を平均し、ノイズを除去し、外耳道の音響特性をより正確に検知する。
2点目は音響特性を示す結果を、隣接する周波数をまとめて平滑化する。これでノイズの影響を大きく排除できる。
NECはこの技術を、2つのまったく異なる場面で活用できると考えている。1つ目は医療現場やコールセンターなどにおけるハンズフリー認証。イヤホンを耳にかけるだけで、個人を認証でき、認証にユーザー名やパスワードを入力する必要がないため、関連する業種における業務効率向上に貢献できると考えている。
もう1つは、発電所などの重要インフラ施設におけるユーザー認証。イヤホンを耳にかけておくだけで、いつでも、何度でも個人を認証できるので、例えば重要インフラ施設など、普通は立ち入ることができない場所で作業することになった作業員をイヤホンで何度も認証することで、作業員のすり替わりを検知できる。
NECは今回発表した技術を2018年度中に実用化することを目指している。
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