東芝は2018年6月4日、セパレータを使わない新構造のリチウムイオン蓄電池を開発したと発表した。今回東芝が開発した技術は、電極の間にセパレータをはさむ代わりに、電極材料の表面に樹脂製の極薄ナノファイバー膜を形成するというものだ。この手法を利用することで、リチウムイオン蓄電池の絶縁体に関わるコストをおよそ半分まで削減できる上、電池の性能を高めることができるという。
図 従来のリチウムイオン蓄電池(左)と、今回東芝が開発したリチウムイオン蓄電池の構造の違い
出所 東芝
従来のリチウムイオン蓄電池は、正極材と負極材の間にセパレータと呼ぶ絶縁体をはさむ必要がある。正極材と負極材が直接触れると短絡を起こして発火などの事故につながるからだ。そして、セパレータを通り抜けて正極材から負極材、あるいは負極材から正極材にリチウムイオンや電解液が移動することで、リチウムイオン蓄電池は放電あるいは充電する。
リチウムイオン蓄電池は、セパレータが薄くなると電池の性能が上がるが、薄膜セパレータは高価で、広く普及しているとは言い難い。今回東芝が開発した手法では、電極とその両面を覆う極薄ナノファイバー膜を一体で扱えるため、電極の間隔を既存のセパレータでは困難なほど薄くでき、比較的容易かつ安価に高性能な蓄電池を製造できるという。
今回東芝が開発した技術では、「エレクトロスピニング」という技術を利用して、電極表面に極薄ナノファイバー膜を形成する。この技術はナノファイバー膜の原料となる高分子溶液に高い電圧をかけて糸状に成形する技術だ。エレクトロスピニング技術は常温で利用可能で、多様な材料からナノファイバー膜を形成でき、耐熱性が高く、腐食にも強い膜を作れる。また、糸の直径を数十nm~数μmと、比較的自由に制御が可能だ。これにより、形成したナノファイバー膜は電解液中のイオンを通りやすい構造にすることができ、セパレータと同様の機能を持たせることができる。さらに、電極の両面を極薄ナノファイバー膜で覆うことで東芝独自のリチウムイオン蓄電池「SCiB」(セパレータ使用)と同等の安全性を確保できるという。
東芝の検証では、今回開発した技術でSCiBを試作したところ、出力が1800Wから2200Wに上がり、充放電を8000回繰り返しても95%以上の蓄電容量を維持できることを確認しているという。東芝は今回開発した新技術を組み込んだSCiBを、車載用蓄電池や定置型蓄電池に向けて売り込む構えを見せており、2019年の実用化を目指して開発を続けるという。
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