≪1≫WiMAXを推進するM(モバイル)-台湾計画とは?
■ 今、台湾の意欲的なWiMAXの取り組みが国際的に大きく注目されていますが、台湾におけるWiMAXは、どのような状況なのでしょうか。
村井 最初に、台湾のWiMAXがなぜここまで注目されているのか、その背景として、台湾政府がどのようなICT(情報通信)分野の政策を推進しているか、というところから説明していきましょう。
現在、WiMAXを取り組み主導しているのは、台湾政府の経済部(MOEA:Taiwan Ministry of Economic Affairs、日本の経済産業省に相当)の工業局(IDB:Industry Developmennt Bureau)というところです。この工業局がM-Taiwan(エム台湾。Mobile-Taiwan:モバイル台湾。)という計画(プロジェクト)を主導しています(以降、M-台湾計画という)。
■ M-台湾計画というのは、どのようなものでしょうか。
村井 歴史的に見ますと、図1に示すように、台湾政府は、2008年に向けて国をどのように発展させていくか、その一つとして、まず、台湾のブロードバンドの普及を推進するため、2002年5月に『挑戦(チャレンジ)2008-国家発展6ヵ年計画』(Challenge 2008:the 6-Year National Development Plan)をスタートさせました。
この『挑戦2008計画』の柱の一つとして日本のe-Japan(電子政府)計画に相当する「e-台湾計画」を発表しましたが、このe-台湾計画は、台湾がアジアにおけるe-リーダーになることを目指して、2007年までに600万以上のブロードバンド加入者を獲得し、e-ソサイエティ(電子化社会)、e-インダストリ(電子産業)、e-ガバメント(電子政府)、e-トランスポーテーション(ITS)の5つを実現することを目標としていました。具体的には、IPv6の導入とその普及、無線LANのインフラ(当時、WiMAXはまだ標準化されていない時期)を普及させ、中小企業向けのブロードバンド・サービスを広く提供する計画でした。
この『挑戦2008-国家発展6ヵ年計画』をサポートするために政府は、図1の右に示すように、国の大型インフラ整備事業として「新十大建設」計画を発表(2003年11月)しますが、この新十大建設計画の中で、先ほどのe-台湾計画を実現するために必要なインフラ整備事業としてM台湾計画が策定され、そのプロジェクトを2005年6月からスタートしました。
■ M-台湾計画は、どのような内容の計画ですか?
村井則之氏
〔野村総合研究所 台北支店
資深顧問師(シニアコンサル
タント)〕
村井 M-台湾計画の中身も策定当時と現在では、若干異なるのですが、当時の計画(図2)を申し上げますと、
① ブロードバンド網の整備
② 携帯電話ネットワークと無線LANネットワークの統合によるシームレスな無線ブロードバンド環境の構築
③ アプリケーション・サービスの推進
という3つの目標が設定されていました。
①に関しては、5年以内に、全台湾に6000kmのブロードバンド・ネットワークを敷設し、完成時に600万世帯(台湾の全世帯数の約750万世帯の80%)が低価格で100Mbpsのブロードバンドを利用できるようにすることを目標としました。②に関しては、携帯電話網と公衆無線LAN網が融合することで、台湾全土に安価なモバイル・ブロードバンド環境を構築しようという計画となりました。また、③は、2つ目の目的と重複する部分はあるのですが、モバイル・ブロードバンド・ネットワークの需要を加速させるためのコンテンツ開発が目標とされました。
■ M-台湾計画も時代とともに、進化・発展してきているのでしょうね。
村井 その後、計画の具体的な中身については検討がくりかえされましたが、現時点のM-台湾計画中では2つの戦略が明確になってきました。それは、有線のブロードバンドは光ファイバによるFTTHで実現し、無線によるワイヤレス・ブロードバンドはWiMAXで実現するという2つの戦略です。このM-台湾計画の投資額は、5年以内に370億台湾ドル(日本円で約1,200億円)を投資する計画となっています。