≪1≫マイクロ・セル方式とマクロ・セル方式の本質的な違い
■ もう少し、PHSで重要な役割を果たすマイクロ・セルと、携帯電話のマクロ・セルの違いをわかりやすく説明しいただけますか。
近 義起氏
(ウィルコム 取締役
執行役員 副社長)
近 ここで、図6、図7を見てください。図6の左にマイクロ・セル、右にマクロ・セルを示しています。図6の右に示すマクロ・セル方式ですと、たくさん〔図6のマクロ・セルでは4人〕の人が1つの基地局に来ますから、空いている場合は速度が上がりますが、混んでくると遅くなってしまうのです。このことは、今の携帯電話で皆さんが体感されていることです。しかし、1つの基地局にお客さんの数が減ってくれば〔図6のマイクロ・セルでは1人〕どこ行っても常にいつでもきちんと速度が出るのです。
一方、マイクロ・セル(図6ではユーザーは各1人)も容量は100ですから、1つの基地局(マイクロ・セル)には1人しかいなかったら伝送速度は4倍出るのです。これはきわめて単純な話です。ですから、1つの部屋(セル)に何人ユーザーを入れるかという話でしかないのです。セルが小さければ小さいほど、そのセル内に同時に存在するお客さん(ユーザー)の数は減りますから、当然、伝送速度は安定してきます。弊社のPHSは、図7に示すように、現在800kbpsのデータ通信サービスを提供しています。実際に、最新の基地局とデータ・カードを使って、現場で伝送速度を実測すると、現在のPHSで500〜600kbpsが安定して出ています。
このようにマクロ・セルというのは、マイクロ・セルに比べて1つの基地局のカバー・エリアが大きいですから、お客さんがたくさんいます。マクロ・セルの容量を100とし、図6のようにユーザーが4人いるとすると100を4で割った分の伝送速度しか出ません。
■ なるほど。
近 また、混んでくる(ユーザーが増えてくる)ともちろん速度は落ちてきますが、図7の右側に示すように、非常になだらかにしか落ちていきません。なぜならばマイクロ・セルだからです。マクロ・セルを使用している通信事業者(例:W-CDMA)の方は、現在最大7.2Mbpsを提供しているといっていますが、現実にはそんな速度を見た人はいないはずです。来年(2009年)になったら、理論値の14Mbpsが提供されることになるかもしれません。しかし、多分、実効速度はそんなに上がらないと思います。条件が悪い(混雑してくる)と、図7の右下に示すようにPHSよりも遅くなってしまうケースも考えられます。
■ なるほど、理論値とだいぶ異なるということですね。
近 これは、マクロ・セルの中にたくさんのユーザーがいるので、一斉に使い出すと急激に落ちてしまうからです。ここがマイクロ・セルとマクロ・セルの大きな違いです。図7に示すように、弊社のデータ通信の市場シェアは、コンシューマーで68%、ビジネス(法人)で61%となっています(2007年度調査)。今非常に競争が激化していますから、若干変動あるかもしれませんが、マクロ・セル方式による3.5G(HSDPA)まで出て競争してもPHSが互角以上に戦っていける理由は、データ通信を安定して利用いただけていることが大きいと思います。そこがマイクロ・セルであるウィルコムの一番の強みなのです。
■ マイクロ・セルとマクロ・セルの大きさを教えていただけますか。
近 マクロ・セルというのは大体都心部な場合で、前述したように一番小さいセル半径が500mぐらいと言われています。私どものPHSのマイクロ・セル場合は、セル半径というよりも距離間隔で大体20〜30m程度です。