[スペシャルインタビュー]

ウィルコムの次世代PHS(XGP)戦略を聞く(2):真のワイヤレス・ブロードバンドと次世代PHS

2008/10/03
(金)
SmartGridニューズレター編集部

次世代ワイヤレス・ブロードバンドとして、WiMAXとともに2.5GHz帯の全国バンドを取得したウィルコムは、2009年4月のサービス開始に向けて、次世代PHS「XGP:eXtended Global Platform」を構築中です。次世代ワイヤレス・ブロードバンドについては、3GPPの「LTE」(Long Term Evolution)の標準化もほぼ完了し、その構築も活発化し、この三つどもえの戦いに大きな注目が集っています。そこで、ウィルコムの技術分野の最高責任者であり、取締役 執行役員 副社長である近 義起(ちか よしおき)氏に、次世代PHS「XGP」について、そのシステムの特徴や設計コンセプトをはじめ、システム構築の現状からロードマップまでを思う存分語っていただきました。
今回(第2回)は、
第1回 ウィルコムの次世代PHS(XGP)とは?
に続いて、PHSで重要な役割を果たすマイクロ・セルと、携帯電話のマクロ・セルの違いを中心に語っていただきました。

ウィルコムの次世代PHS(XGP)戦略を聞く(2):真のワイヤレス・ブロードバンドと次世代PHS(XGP)

≪1≫マイクロ・セル方式とマクロ・セル方式の本質的な違い

■ もう少し、PHSで重要な役割を果たすマイクロ・セルと、携帯電話のマクロ・セルの違いをわかりやすく説明しいただけますか。

近 義起氏(ウィルコム 取締役 執行役員 副社長)
近 義起氏
(ウィルコム 取締役
執行役員 副社長)

 ここで、図6図7を見てください。図6の左にマイクロ・セル、右にマクロ・セルを示しています。図6の右に示すマクロ・セル方式ですと、たくさん〔図6のマクロ・セルでは4人〕の人が1つの基地局に来ますから、空いている場合は速度が上がりますが、混んでくると遅くなってしまうのです。このことは、今の携帯電話で皆さんが体感されていることです。しかし、1つの基地局にお客さんの数が減ってくれば〔図6のマイクロ・セルでは1人〕どこ行っても常にいつでもきちんと速度が出るのです。

一方、マイクロ・セル(図6ではユーザーは各1人)も容量は100ですから、1つの基地局(マイクロ・セル)には1人しかいなかったら伝送速度は4倍出るのです。これはきわめて単純な話です。ですから、1つの部屋(セル)に何人ユーザーを入れるかという話でしかないのです。セルが小さければ小さいほど、そのセル内に同時に存在するお客さん(ユーザー)の数は減りますから、当然、伝送速度は安定してきます。弊社のPHSは、図7に示すように、現在800kbpsのデータ通信サービスを提供しています。実際に、最新の基地局とデータ・カードを使って、現場で伝送速度を実測すると、現在のPHSで500〜600kbpsが安定して出ています。


図6 マイクロ・セルは安全で高速(近氏の資料を編集部にて翻訳)(クリックで拡大)



図7 「マイクロ・セル」ベースのBWA(近氏の資料を編集部にて翻訳)(クリックで拡大)


このようにマクロ・セルというのは、マイクロ・セルに比べて1つの基地局のカバー・エリアが大きいですから、お客さんがたくさんいます。マクロ・セルの容量を100とし、図6のようにユーザーが4人いるとすると100を4で割った分の伝送速度しか出ません。

■ なるほど。

 また、混んでくる(ユーザーが増えてくる)ともちろん速度は落ちてきますが、図7の右側に示すように、非常になだらかにしか落ちていきません。なぜならばマイクロ・セルだからです。マクロ・セルを使用している通信事業者(例:W-CDMA)の方は、現在最大7.2Mbpsを提供しているといっていますが、現実にはそんな速度を見た人はいないはずです。来年(2009年)になったら、理論値の14Mbpsが提供されることになるかもしれません。しかし、多分、実効速度はそんなに上がらないと思います。条件が悪い(混雑してくる)と、図7の右下に示すようにPHSよりも遅くなってしまうケースも考えられます。

■ なるほど、理論値とだいぶ異なるということですね。

 これは、マクロ・セルの中にたくさんのユーザーがいるので、一斉に使い出すと急激に落ちてしまうからです。ここがマイクロ・セルとマクロ・セルの大きな違いです。図7に示すように、弊社のデータ通信の市場シェアは、コンシューマーで68%、ビジネス(法人)で61%となっています(2007年度調査)。今非常に競争が激化していますから、若干変動あるかもしれませんが、マクロ・セル方式による3.5G(HSDPA)まで出て競争してもPHSが互角以上に戦っていける理由は、データ通信を安定して利用いただけていることが大きいと思います。そこがマイクロ・セルであるウィルコムの一番の強みなのです。

■ マイクロ・セルとマクロ・セルの大きさを教えていただけますか。

 マクロ・セルというのは大体都心部な場合で、前述したように一番小さいセル半径が500mぐらいと言われています。私どものPHSのマイクロ・セル場合は、セル半径というよりも距離間隔で大体20〜30m程度です。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...