巨大なアウトドア照明のショールームを構築
OECD(経済協力開発機構)※1の調査※2によると、2050年までに世界人口の70%は都市部に住むと予測されており、都市化は世界的な現象として今後十数年は続くものと見られている。人類にとって都市化は、経済成長をもたらしてくれる反面、エネルギー問題や環境問題を引き起こす要因にもなる。例えば、都市部ではカーボンニュートラル (Carbon Neutral)を維持できずにCO2排出量が増加しているのが現状であり、都市部だけで世界の温室効果ガスの60~70%を排出するようになると言われている。
そこで、こうした現状を打開するために早い時期からエネルギーおよび環境問題に取り組んでいる進歩的な都市がある。その1つがデンマークの首都コペンハーゲンだ。コペンハーゲン市では、2025年までにカーボンニュートラルを達成しようと、いろいろな支援や取り組みを行っており、同市の活動を高く評価したシスコシステムズでは、コペンハーゲンとパートナーシップ契約を締結するとともに、IoT/IoEを活用したエコシステムの導入を促進するために世界のスタートアップ企業に対し、1億5,000万ドルを提供することを表明している。これにより、すでに発表されている新興IoE市場に重点を置くスタートアップ企業向けの1億ドルのコミットメントと併せて2億5,000万ドルとなるという。
例えば、インテリジェントな街灯の制御、自転車やバスを活用した交通のグリーン化、企業や家庭での省エネ技術、新しいソリューションの実験・開発を進めていく。具体的な活動としては、街灯システムをすべて再生可能エネルギーで賄うというコペンハーゲン西部のアルバッツロンで行われているプロジェクトDenmark Outdoor Light Lab (以下:DOLL)がある。これは革新的なインテリジェント照明ソリューションを試験するための新しいプラットフォームだ。
DOLLは市の一部を開放し、グリーン化を促進する技術を支援している。 DOLLでは、デンマークのすべての照明関連企業に声をかけて、インダストリアルパークで、それぞれの最新で最も優れている照明ソリューションをテストしてもらえるように依頼したのである。その結果、インダストリアルパーク内の道路9.2kmに渡ってLED照明に関する複数のソリューション(このケースでは37ソリューション)が設置され(写真1参照)、ここに来れば市場にどんなソリューションが出回っているのかすぐにわかるようになった。これらのソリューションはコントロールセンターからそのライティング状態を制御できるようになっていて、1対1の実際のスケールで詳細に体験してみることができる。つまり、これは巨大なアウトドア照明のショールームといったところで、各社が競い合うのではなくコラボレーションする場となっている。(写真2参照)照明はインテリジェント都市で情報を運ぶインフラストラクチャであり、都市空間を効率よく管理するのに役立てることができる。
写真1 インダストリアルパーク内の道路
出所 http://albertslund.dk/borger/by-trafik-og-natur/byen-i-udvikling/hersted-industripark/new-lighting-doll-living-lab-in-hersted-industrial-park/
写真2 インダストリアルパーク内に設置されている照明ソリューション(企業名)
出所:http://albertslund.dk/borger/by-trafik-og-natur/byen-i-udvikling/hersted-industripark/new-lighting-doll-living-lab-in-hersted-industrial-park/
さらに、このエリアにはシスコシステムズのWi-Fiネットワークが張り巡らされており、照明ソリューションはインターネットに接続されている。このようにDOLLでは、数多くの異なるアウトドア照明ベンダが自分たちのソリューションを1つのネットワーク上に統合し、巨大ネットワークを作り上げている。(図3参照)
写真3 自動車が走っている付近の街路灯だけが走行に合わせて点灯し、自動車が走っていない場所の街路灯は自動的に消灯している様子
出所:www.albertslund.dk/newlighting デモビデオ
官民共同の壮大なビッグデータプロジェクトにも着手
このほか、コペンハーゲンではビッグデータを活用した官民共同の壮大なプロジェクトが始まっている。コペンハーゲンはWorld Smart Cities Awards 2014にも選出されているが、今回のビッグデータプロジェクトでは、スマート電力や交通管理といった個々のスマートシティイニシアチブのデータを1つのプラットフォームに統合し、データ収集、統合、共有を一元化する。同プラットフォームでは、企業間による都市ビッグデータ取引市場の創設や、公共・民間データの統合を行う予定で、エネルギー消費量や交通量などセンサーから収集したデータを統合することで、エネルギー管理、交通管理、グリーンインフラ整備といった都市機能の向上に向けた先進的な分析が可能になる。
このプロジェクトでは日立コンサルティングがコペンハーゲン市の事業パートナーに選定され、スマートウォンやWebアプリの開発を行っている企業にビッグデータを提供することで、市民や企業が大きな恩恵を受けることが想定されている。同プロジェクトは2015年4月から開始され、市民が利用できるアプリケーションも提要される予定だ。すでに日立はビッグデータを活用し、持続的な社会やより快適な社会の実現に向けた新たな情報サービスを創出するため、2014年11月5日にデンマークに「デンマークビッグデータラボ」を設立している※3。
※1 OECD:Organisation for Economic Co-operation and Developmentの略。本部はフランスのパリ。
※2 データ出所:OECD 環境アウトルック2050(OECD,2012)、OECD 環境アウトルック 2050:行動を起こさないことの代償 概要版(日本語)
※3 http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2014/11/1105a.html
◎Profile
中山洋一(なかやま よういち)
テクニカルライター
アイワ(現ソニー)、技術雑誌「インターフェイス」編集部などを経て独立。「インターネットユーザーズガイド」(オライリージャパン)を皮切りに技術翻訳や「キーマンズネット」(リクルート、アイティメディア)などのICT情報サイト向け取材記事を多数手がけてきた。現在は、技術・マーケティング解説だけでなく、優れた技術系リーダーの自叙伝制作サポートを手掛けるなど幅広く活動中。