富士通研究所は2016年12月5日、グラフェンを利用した新構造のガスセンサーを開発し、従来品の100倍以上の感度を発揮したことを確認したと発表した。富士通研究所によると世界初のことだという。
従来、空気中の特定ガス成分を分析するには「ガスクロマトグラフィー」などの専用装置を使う必要があった。専用装置を使えばppb(parts per billion:10億分の1)単位で各種ガスを検出できる。しかし、装置が大きい上、測定に時間がかかる。携帯可能な「半導体ガスセンサー」も存在するが、検出精度はppm(parts per million、100万分の1)単位となり、精密な分析はできない。さらに、特定のガスについては検出ができない。
これまでも、グラフェンをガスセンサーに応用する動きはあった。グラフェンがガスを吸着したときに抵抗値が変化するという特性を利用したものだ。しかし、1ppmの濃度のガスに対して抵抗変化率はわずか数%。実用品として使えるレベルではない。
今回、富士通研究所はシリコントランジスタ―のゲート部分をグラフェンに置き換えたものを利用した。ゲート部分に設置したグラフェンの厚さは原子1個分。ガスの分子がこのグラフェンに吸着するとグラフェンの「仕事関数」が変化する。仕事関数の変化によって、トランジスタのソースとドレインの間を流れる電流の量が変わる。今回は、この特性を利用してガスを検出した。
図 今回試作したセンサーの構造図(左)と顕微鏡写真(右)
出所 富士通研究所
ちなみに仕事関数とは金属中の電子を取り出すために最低限必要なエネルギーを指す。グラフェンは金属と異なり、ガス分子が吸着して、その分子と電子をやり取りすると仕事関数が大きく変化するという特性がある。
窒素を充満した環境で実験したところ、アンモニア(NH3)は数十ppb程度、二酸化窒素(N02)は1ppb以下の感度でガスを検出した。今回試作したセンサーは、専用装置並みの精度で、瞬時にガス濃度を検知するセンサーとなる可能性を持っている。さらに、大気成分や呼気が含むガスの中では、NH3とN02のみに反応することを確認したという。特定のガスだけを検出できるということだ。富士通研究所は、このセンサーをN02のリアルタイム測定に役立てることができるとしている。N02には、40~60ppbという環境基準がある。今回試作したセンサーを使えば、その精度でリアルタイム計測できる小型機器を実現できるという。
図 N02の場合、濃度に応じて電流量が下がる(a)、一方でNH3の場合は濃度に応じて電流量が上がる(b)N02、NH3以外のガスには反応していない(c)
出所 富士通研究所
今回試作したセンサーは、検知部分が数百マイクロメートルほどだが、富士通研究所はさらに1マイクロメートル以下に小型化することが可能としている。また、検知に化学反応を利用していないので、熱を加えるなどして、グラフェンからガス分子が離れれば元の状態に戻ることも特徴だとしている。
富士通研究所は今後、大気中などの実環境での特性や耐久性を検証し、環境センサーとしての実用化を目指すとしている。さらに、グラフェンにほかの分子を組み合わせるなどの工夫で、NH3、N02以外のガスを検知することも目標としている。
また富士通研究所は2016年4月に、人間の呼気からNH3を高い感度で検知できるセンサーを発表している。このセンサーと今回開発したセンサー技術を組み合わせることで、生活習慣病の早期発見を可能にする分析システムや、携帯可能なにおいセンサーを開発することも予定している。
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