国立研究開発法人国立がん研究センター(がんセンター)、NEC、国立研究開発法人科学技術振興機構、国立研究開発法人日本医療研究開発機構は2017年7月10日、大腸内視鏡検査時に検査画像をリアルタイムで解析して、摘出すべき病変部位を検知するシステムのプロトタイプを完成させたと発表した。深層学習で画像を解析するシステムをGPU(Graphics Processing Unit)搭載PC1台にまとめ、検査現場に設置できる形にまとめた。今後は検出精度向上などの改良を加えていき、2019年度に臨床試験を開始することを予定している。
図 大腸内視鏡検査時に、検査画像をリアルタイムで解析して摘出すべき部分を検知して検査担当医に知らせる
出所 国立研究開発法人日本医療研究開発機構
がんセンターがまとめた「最新がん統計」によると、2012年にがんと判明した例のうち臓器別に見ると大腸がんは最も多く、2014年のがんによる死亡者数を見ると、大腸がんば肺がんに次いで2位となっている。
大腸がんは通常、ポリープから発生することが明らかになっている。大腸内視鏡検査で見付かるポリープには放置しておいて問題ないものもあるが、放置しておくといずれがんに変化する「前がん病変(大腸腫瘍性ポリープ)」は発見次第、摘出する必要がある。そしてポリープの段階ならば開腹手術をすることなく、内視鏡を使って摘出できる。アメリカの研究結果によると、前がん病変である大腸腫瘍性ポリープをポリープの段階で内視鏡で摘出することで、大腸がんに罹患する確率を76%~90%抑制し、大腸がんで死亡する確率を53%抑制できることが明らかになっている。ポリープの段階で検出し、早期に摘出することが最も効果的な大腸がん対策になるというわけだ。
しかし、大腸内視鏡検査は担当医の技量によって結果が大きく変わってしまうという問題がある。肉眼での認識が難しい、認識が難しい部位に発生した、医師の技量不足といった問題から、大腸腫瘍性ポリープのうち24%は見逃されているという。また、大腸内視鏡検査を受けていたにも関わらず、大腸がんを発症する例が6%ほどあるともいう。そのうち58%が検査時の見逃しが原因だ。また20%が検査後に再来院しないことが原因となっており、検査後に新たに発生したという例が13%、内視鏡で摘出治療を受けたが、その治療が不十分で遺残(取り残し)があったという例が9%という結果が明らかになっている。つまり、内視鏡検査時の見逃しをなくせば、大腸がんの治療成績は大きく改善するということになる。そこで、人間の肉眼では見付けにくいものを深層学習で見付けること、担当医の技量の差で見逃しが発生することを防ぐことを目的として今回のシステムを開発したわけだ。
深層学習の学習データには、がんセンター中央病院の内視鏡科が保有するおよそ5000例の内視鏡画像を利用した。学習の際には、およそ5000例の学習データすべてに内視鏡科の専門医による内視鏡所見を付けた。
学習を済ませた後に新たにおよそ5000例の内視鏡画像を用意し、そのデータをシステムに評価させたところ、摘出が必要なポリープを98%の確率で検出したという。その上、問題ない例を問題ありと判定する「偽陽性」の発生率は1%に抑えることができている。
図 今回開発したシステムが検出したポリープの例
出所 国立研究開発法人日本医療研究開発機構
そして、内視鏡検査時にリアルタイムで検出結果を担当医に通知できるだけの処理速度も確保した。動画1フレームごとの検知と結果表示に必要な時間は約33ミリ秒以内(約30フレーム/秒)まで短縮させた。
今後は人間の肉眼では認識が難しい平坦な病変の画像や、陥凹している病変の画像1600例以上をさらに学習させて、検出精度をさらに上げる。また、特殊な波長の光を当てることで、毛細血管やポリープ表面を強調表示する「画像強調内視鏡」などの新種の内視鏡も活用する。新種の内視鏡が強調表示する大腸ポリープの表面構造や模様などををさらに微細に認識させて学習させることでも検出精度を上げる。また、CT画像や分子生物学的情報なども合わせて分析することも予定している。
また、検査現場に設置したPCを基にしたシステムだけでなく、GPUサーバーの活用も予定している。がんセンター研究所の新研究棟4階にクラスタ構成のGPUサーバーをすでに設置しており、検査現場との間を閉鎖網のVLANで接続し、より高度な研究に取り組む予定だ。