東京大学 教授 江﨑 浩 VS KDDI 執行役員 冲中秀夫
メーカーが交換機を製造中止へ
—最初にNGNは、なぜオールIP化するのかについて、江﨑先生から整理していただけますか。
江﨑 わかりやすく言いますと、もう電話交換機やATM交換機は、メーカーが作らない(製造中止)ため、IPにするしかないというのが、一番簡単な経済原理だとうかがっています。また、IPはオープンであるため、システムの変更の際にも柔軟なアーキテクチャにできるということだと思います。
つまり、システムが異なっても、とりあえずトランスポート(パケット転送部)のところがIPというオープンなインタフェースであれば、相互接続も含めて扱いやすいからだと思います。
冲中 もう一つは、私たち通信事業者の市場の構造が大きく変わってしまったということなのです。今までは、固定電話系で食べていけたのです。
何を隠そう、このKDDIという会社も実は合併(2000年10月)して最初の2年間は、固定系が黒字で、携帯系はトントンだったのです。むしろ固定系のほうが利益をいっぱい出していて、その固定系の利益によって携帯のネットワークを構築したくらいなのです。
ところが、特にこの3年くらい顕著なのは、固定系はもう、年々売り上げが落ちてきていて、その一方で、携帯系のほうは絶好調なのです。そういう中で、投資家の方からは、儲からない固定系は捨てろと言われたりしますが、そうはいかないのです。いずれまた、固定が別の姿で復活することもあると考えるからです。
例えば、固定系と携帯系(移動系)と組み合わせてFMCを実現していくことが重要な課題となってきています。その際、ネットワークのコスト、すなわち、CAPEX(設備投資コスト)とOPEX(運用コスト)の両方を下げないといけません。そのためには、固定系に比べてネットワークの規模が大きい移動系のネットワークに、固定系をくっつけてしまうのがいいのです。
土管(通信回線)としては、固定系のほうが太いのですが、土管の上に位置する接続制御系とか、サービス系というのは、携帯のほうが大きいのです。ですから、それらを全部一緒にしてしまおうという流れなのです。その際、今はIPが基盤技術としてベストという選択をしているので、これもオールIP化が進展するひとつの推進力になっています。
さらに、先ほど江﨑先生もおっしゃられましたけれど、すでにレガシーな電話交換機やATM交換機は作られていないのです。その一方で、既存設備の更改時期が来ているのです。
江﨑 そうなんですよ。深刻な問題です。
冲中 メーカーからは交換機のソフトのメンテナンスは、「あと何年です」と通告されているわけです。このような事情から、その交換機をいつでも捨てられるようにしておかないといけない。その代わりに全部IPベースの装置に代えるわけです。
江﨑 そうですね。このような背景もあり、だいぶ前からバックボーン、特に国際通信回線の電話網はIPで通信しているのです。この頃から、すでにある意味QoSは実現できており、設備コストも下げられることが、国際回線のバックボーンで証明できていたと聞いています。