[1]可逆的な圧縮の例
可逆的な圧縮とは、「圧縮された情報から圧縮前の情報を完全に復元できる処理」で、身近な例には、メールに添付する文書ファイルを圧縮するzipがあります。zipファイルを受信したあと解凍(伸張)することによって、元の文書ファイルは完全に復元することができます。
現在、zipは大きな容量の文書ファイルをインターネットで短時間に送る方法として、広く活用されています。
[2]非可逆的な圧縮の例
このような可逆的な圧縮に対して、非可逆的な圧縮とは、「ほぼ復元できるが、いくらかの誤差を伴う処理」です。
音声や画像を圧縮するには、可逆的な圧縮だけでは情報量をあまり小さくする(圧縮する)ことができませんので、「非可逆的な圧縮」が主役となります。非可逆的な圧縮の場合、再現した音や画像は、冗長な情報が削除されていますので、元の音や画像に比べ、若干の誤差(「歪み」という)が含まれています。
このように、人間の耳には聞こえない、あるいは目には見えない(認識されない)程度の誤差を許すことにより、大幅な圧縮が可能となります。
身近な例では、メールに写真を添付するとき用いるデジカメで撮ったJPEG(ジェーペグ。Joint Photographic Experts Group、カラー静止画圧縮符号化の国際標準)の写真が、非可逆的な圧縮の例です。本書で説明するH.264/AVC圧縮技術では、可逆的圧縮と非可逆圧縮の双方を用いています。
なお、動画像の中に含まれる「冗長な情報」を除去する圧縮技術の基本になるのは、
① 次に、どのような画像がくるかを予想する「予測」という技術
② 圧縮しようとする情報を、より大幅に圧縮しやすくするための「変換」という技術(例:後述するDCTなど)
という2つの技術ですが、これについてはQ.9の「圧縮技術の基本的な要素は?」という質問の中で、詳しく解説します。
※この「Q&Aで学ぶ基礎技術:最新の情報圧縮技術〔H.264/AVC〕編」は、著者の承諾を得て、好評発売中の「改訂版 H.264/AVC教科書」の第1章に最新情報を加えて一部修正し、転載したものです。ご了承ください。