[2]MPEGが実現した情報圧縮
そこで、前述したMPEGと呼ばれる標準化団体〔国際標準化機構(ISO)と国際電気標準機関(IEC)の合同による標準化組織に属する1つのグループで、1988年から活動を開始した〕は、この問題に対して積極的に取り組み、最終的に非常に少ない情報量で動画像と音声を伝送できる圧縮符号化方式を開発しました。
現在、日本をはじめとする各国のデジタル放送で使用されている方式はMPEG-2と呼ばれる方式です(詳細は『デジタル放送教科書』第5章、第6章参照)。
この方式を利用すると、SDTVで約6Mbps、HDTVでも約20Mbpsで、原情報と遜色のない動画像情報を伝送することができます。また、ステレオ音声も同様に、約128kbpsの情報量となります(図1-5)。
最近では、MPEG-2よりも2倍以上も動画像を圧縮できる「H.264/AVC」(AVC:Advanced Video Coding、高度動画像圧縮符号化標準)という圧縮技術が、MPEGとITU-Tの両者によって共同で標準化され、多くの分野で採用されはじめています〔H.264/AVCについては、『デジタル放送教科書』の第6章および姉妹書『H.264/AVC教科書』を参照ください〕。
以上のことを圧縮率で考えますと、動画像で1/20から1/80、音声でも約1/12の情報量の圧縮を実現していることになります。これらの圧縮方式は、ロッシー〔Lossy、不可逆圧縮。情報の圧縮時に損失(ロス)が発生すること〕と呼ばれる方式で、人間の視聴覚特性を利用して、人間が鈍感に感じる情報を削減して圧縮します。
これに対して、zip(圧縮ファイル・フォーマット)などで使われている圧縮方式はロスレス〔Lossless、可逆圧縮。情報の圧縮時にロス(損失)がないため、完全にもとの情報に復元できること〕と呼ばれ、元の情報を忠実に損失なく圧縮する方式で、典型的な圧縮率は数分の1程度です。
MPEGやH.264/AVCでは、このように人間の視聴覚特性を巧みに利用して情報を削減するという技術を採用しているために、先に述べたzipなどの圧縮方式と比較すると、大幅な圧縮効率が実現できるわけです。