[特別レポート]

ルートとユビテックによる地域WiMAX戦略(1):地域WiMAX制度と背景

2008/04/24
(木)
SmartGridニューズレター編集部

≪3≫ルートの地域WiMAX製品が日本初となる技適認定製品

■地域バンドの免許を申請した後の流れを教えてください。

真野浩氏(ルート 代表取締役)
真野浩氏
(ルート 代表取締役)

真野氏 免許を申請すると、競合している事業者がいなければ、設備の内容などが免許要件に合致していれば免許が与えられます。また、同一地域で競合している事業者がいる場合には、、比較審査した結果免許がおりることになります。

この制度は、無線局の開局申請なので、まず予備免許がおります。予備免許は、書類審査した結果、基地局を申請したポイント(地点)に設置してよいという許可です。その予備免許の交付されると工事を開始できます。通信設備を設置し、アンテナを立て、電気を通し、測定をし、電波の仮試験をして、準備を進め、局の設備ができると最後に落成検査が行われます。落成検査に合格してはじめて電波を出しサービスを開始してよいということになります。図2に流れをまとめました。

これが一般的なやり方ですが、今回の制度では、技術基準適合証明(技適)の方法が可能です。

免許を交付された事業者は、免許がおりてから6カ月程度の間に事業を開始する必要があります。また落成検査の実施期間も予備免許の日から3カ月程度と指定されるので、このときまでに落成検査を終わらせる必要があります。したがって、基地局の場所だけ確保しておくということはできないのです。

図2 無線局の申請から免許交付までの流れ(クリックで拡大)

■技術基準適合証明(技適)とはどういうことですか。

真野氏 技適に適合している製品を使っていれば、個別の落成検査を省略できるということです。

技適は、TELEC(財団法人テレコムエンジニアリングセンター)等の審査機関が審査します。通信機器を作ったメーカーがTELEC等に技適を申請します。技適と認められた機器は、公表されます。

予備免許が交付された際に、技適の機器を使うことにしていれば、技適の番号を一緒に申請することで、落成検査過程が簡易化され、スムーズに無線局の開設、運用できるようになりますし、最初の免許申請時に技適をうけた製品で申請した場合には、予備免許ではなく、本免許が付与されます。

ただし、現時点では、地域WiMAXに対応した技適に適合した仕様の製品はまだほとんどありません。

■地域WiMAXの技適の製品がほとんどないのは、なぜですか。

真野氏 基本的には電波の利用方針が決まってからの期間が短く、技術基準ができたのもぎりぎりになったため、メーカーの開発が間に合わなかったということなのです。また、全国バンドや他のサービスで利用されている電波との干渉条件をクリアしなければならなこともあり、諸外国で利用されている機器を単純に輸入すれば良いというものではないからです。WiMAXは、世界標準だという言葉は、広義にはそうですが、細部では各国によって肝心の周波数、電力、干渉条件などが異なっているということも、無線LANと比較する上では重要な点です。

UQコミュニケーションズについては、同じWiMAXの規格なので、干渉条件のクリアについては技術的に難しい点はほとんどありません。

これに対して、ウィルコムや、NTTの通信衛星であるN-STARから干渉を避けるのは、これらのバンドに対する干渉量を低減させるための技術的課題があります。

地域バンドでは通信距離を確保し、安定したサービスを行うため高利得アンテナを使いたいのですが、その場合には、こうした他の周波数への影響を抑えるための技術開発が必要です。

また、UQコミュニケーションズのモバイルWiMAXの干渉条件として、上りと下りの比率がありそれを合わせなければならないのですが、それが明らかになったのは、2008年2月です。メーカーとして、今の技術基準に合致し、技適も通った製品を、4月7日の併願期間終了の前に提供するのは、かなり難しかったわけです。

実際、TELECでも、技適の測定環境が整うのも遅れました。

当社はこのような状況のなか、一日も早く実際に利用したい事業者の皆様に、日本で使用できる最終的な技術基準に合致した製品での実証の場をご提供するために、2008年4月2日にWiMAX用基地局用装置の技術基準適合証明を取得いたしました。

これが日本で最初ということになります。

■ルートは、秋田でWiMAXの実証実験を行いましたね。

真野氏 実証実験は、東北インテリジェント通信とともに、アライドテレシスグループが東北総合通信局の研究会に参加し、2007年2月から秋田県秋田市雄和地区で行ったものです。(※関連記事)デジタル・デバイド解消のために、WiMAXを使った高速インターネットサービスを提供するというのが目的です。モニターとして21世帯に協力してもらいました。雄和町の7地区の383世帯を1つの無線局(3セクタ)でカバーしました。

※関連記事
2.5GHz帯のWiMAX(FWA)で地方のブロードバンドを実現!
http://wbb.forum.impressrd.jp/news/20070123/375

■御社の地域バンド用WiMAX製品について教えてください。

真野氏 WiMAX基地局「AT-TQ9702(仮称)」(写真1、表1)を、グループ会社のアライドテレシスを通じて発売する予定です。これは、2008年第3四半期をめどに提供する予定です。地域バンドの利用なので、地域に導入しやすいような価格帯とする予定です。

当製品を含め今後発売する地域WiMAX機器も、すべて技適に適合した製品を提供していく予定です。

写真1 アライドテレシスのWiMAX基地局「AT-TQ9702(仮称)」

表1 アライドテレシスのWiMAX基地局「AT-TQ9702(仮称)」仕様

製品名 AT-TQ9702(仮称)(Pico BS) MIMO Matrix A / B
準拠規格 IEEE802.16e-2005 最大送信出力 30dBm
無線アクセス方式 OFDMA 電源電圧 DC-48V または AC100V
複信方式 TDD 外形寸法 W250×H250×D85(mm)
チャネルバンド幅 5MHz / 10MHz 重量 4kg
FFT サイズ 512 / 1024 ASN Profile C対応
送受信周波数 2.5GHz帯 出荷開始予定時期 2008年第3四半期

>>「第2回」へつづく

プロフィール

真野 浩(まの ひろし)

現職:ルート株式会社 代表取締役

1960年東京都生まれ。1993年にルート(株)を設立。デジタル無線通信機器の開発を行いアナログとデジタルの融合技術によるネットワークのトータルソリューションを提唱。無線IPルータを開発し、全国150以上の市町村や学校等の地域情報化を促進。無線利用、地域情報化の為の各種審議会、研究開発事業にも多数参画。
2005年ルート(株)はアライドテレシスホールディングス(株)との経営統合によりアライドテレシスグループの子会社となる。その他、山梨県上野原市に第3セクタ方式により設立された(株)上野原ブロードバンドコミュニケーションズの取締役として、FTTHによるCTAV、ブロードバンドサービス事業も推進している。

公職:電気通信技術審議会、5GHz帯無線アクセスシステム委員会分科会委員、ワイヤレスブロードバンド推進研究会委員、モバイルブロードバンド協会理事 他

 

荻野 司(おぎの つかさ)

現職:株式会社ユビテック 代表取締役社長

1961年大阪府生まれ。1986年キヤノン(株)入社。中央研究所を経て、ISP事業開始のため1996年ファストネット(株)へ出向。1999年同社取締役に就任。
2000年(株)インターネット総合研究所 技術戦略担当執行役員に就任、2002年には同社の研究開発担当 取締役に就任し、ユビキタス時代におけるネットワーク、コンピュータとの融合技術を中心とした研究・開発組織、ユビキタス研究所を設立。
2003年には(株)ユビテック代表取締役に就任し、2005年6月には同社の上場を果たす(大証ヘラクレス 証券コード6662)。
同時に、2000年より3年間、日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)のIP担当理事を務め、日本におけるインターネットの普及基盤整備に尽力。また、IPv6普及・高度化推進協議会には設立時より参画。2007年2月まで常務理事を務めIPv6普及の啓蒙活動に注力した。
現在では、ワイヤレスブロードバンド推進協議会の発起人も務め、WiMAXを中心とする次世代インターネット技術の普及や啓蒙活動に力を入れている。静岡大学 客員教授も務める。

 

 

 

 

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