[特別レポート]

ルートとユビテックによる地域WiMAX戦略(3):地域WiMAXで提供されるサービス

2008/05/16
(金)
SmartGridニューズレター編集部

広帯域移動無線アクセスシステム(BWA)の周波数2.5GHz帯を利用した地域WiMAXの無線局の免許申請が2008年3月3日より開始され、地域利用のWiMAXに注目が集まっています。2010年度を目標にした「ブロードバンド・ゼロ地域の解消」だけでなく、都市の地下やビル内などのデータ通信や、拠点での広域無線サービスなど多様な利用が考えられており、新しいサービスによる地域活性化の有効手段としても期待されています。
そこで、早い時期からWiMAXによる地域のデジタル・デバイドなどの問題を解決しようと活動してきたアライドテレシスグループのルート株式会社の代表取締役真野浩(まの ひろし)氏と、地域WiMAXのシステムインテグレータである株式会社ユビテックの代表取締役社長荻野司(おぎの つかさ)氏に、地域 WiMAXの課題と展望、ビジネスモデルをうかがいました。
第3回目は、
第1回 地域WiMAX制度と背景
第2回 モバイルIPが活躍するWiMAX
につづき、地域WiMAXの形態や、提供されるサービスについてお聞きしました。(文中敬称略)

 

≪1≫地域の特性にあわせた最適な地域WiMAXのシステム構成

■ユーザーからすると、地域WiMAXがどういうシステムで構成されるのか、どういうサービスが提供されるのか、ということに一番関心があります。まずシステムとして、どういった形態になるのかについて説明してください。

荻野司氏(ユビテック 代表取締役社長)
荻野司氏
(ユビテック 代表取締役社長)

荻野氏 当社では、目的や環境に応じて、

(1)Aタイプ
(2)Bタイプ
(3)Cタイプ

の、3つのソリューションを用意しています。

図1を見てください。この図のAタイプというのが一般的なデジタル・デバイド解消のための構成です。基地局(BS)があって、途中までは回線が来るが、最後の加入者宅まで届かないというパターンです。当社のAタイプというソリューションでは、住宅に近い基地局まで光ファイバを敷設して、そこから加入社宅に飛ばすところにWiMAXを使っています。距離的には、障害物がない状態で半径2kmぐらいです。これがデジタル・デバイド向けのスモールな形です。

 


図1 地域WiMAXソリューション Aタイプのシステム構成(クリックで拡大)

BS:Base Station、基地局
EMS:Equipment Management System、設備管理システム
CSN:Connectivity Service Network、接続サービス・ネットワーク

もうひとつは図2のBタイプです。これは、公共サービスのようなものを想定しています。特定エリアをカバーして、災害時や避難時のアナウンスをするようなサービスです。基地局をいくつか設置しておけば、面でカバーすることができるので、ノマディックという車などで移動した先で通信を使用する形態が考えられます。この形態は村の拠点拠点などで使うというモデルです。

こうしたサービスでは、サービス・ネットワークをいろいろ調整するような仕組みが別途必要です。このような仕組みが、図2のEMS(装置管理システム)やCSN(接続サービス・ネットワーク)です。

図2 地域WiMAXソリューション Bタイプのシステム構成(クリックで拡大)

図3はCタイプです。さらに広いエリアで無線ネットワークのサービスを提供するCタイプでは、地域別、目的別に複数の基地局の組合せで効率よくエリア設計することが重要です。設置できる地域は限られますが、双方に高利得のアンテナを使えば、10km程度でも飛ばすことができます。

図3 地域WiMAXソリューション:Cタイプ(クリックで拡大)

■出力はどのくらいの制限がありますか。

真野氏 技術基準では基地局の電波の出力は最大20Wくらいですが、端末側の電力が200mW程度なので、実際の通信距離は端末側の電力に左右されます。つまり、電力を大きくすれば遠くまで届くということではありません。こうした、システムの距離というのは、基地局と端末それぞれの送信電力、と、受信感度で決まります。いくら基地局が大きな送信電力を出しても、端末からの電波を受信できなければ、意味がありません。携帯電話などでは、移動端末に比べて基地局は受信感度の高い受信装置を持っています。また、端末は消費電力や大きさの制約から小さな送信電力しか出させません。

携帯などは、FDD(※)という方式なので、送信周波数と受信周波数が違います。そこで、基地局側は受信感度を高くする大きなアンテナを設置したり、ノイズ対策を行ったりして、小さな送信電力の端末からの電波でも受信できるようにしています。ケータイの場合、端末と基地局の送信電力、受信感度は非対称(下りが大きく、上りが小さい)なのです。

これに対して、WiMAXの場合は、TDD(※)という方式で、基地局も端末も、同じ周波数を使います。このため、いたずらに送信電力を大きくすれば届くというものでもありません。

FDD:Frequency Division Duplex、周波数分割複信
TDD:Time Division Duplex、時分割複信

荻野氏 Aタイプの場合は、デジタル・デバイドを解消するためのラスト・ワンマイルという利用方法の他に、市街地において、ビルや集合住宅、あるいは街頭の設置物(例:電柱)など、複数の固定ポイントを結ぶ無線ネットワークとして使えます。すなわちAタイプはこれまで有線が敷設できなかったところや、基本的に対象物(パソコンなど)が移動しない有線の置き換えにちょうどよいシステムなのです。

Bタイプの場合は、ノマディック的な利用形態です。例えば、災害時に車で避難して、避難先でネットワークにつながるというような仕組みです。こうした場合、Aタイプのように移動しない世帯向けではなく、移動先でのサービス利用向けとなるため、面としてのカバーエリアをある程度広くする必要があります。エリア全体に有線を敷設するのは非常に大変なので、この場合もWiMAXによる広域無線が適していると言えます。

■将来的な話ですが、WiMAXを受けるCPE(宅内装置)が半導体チップ化され小さくなって、例えばパソコンの中に入ってしまえば、こうしたタイプ別に分ける必要はないように思いますが、いかがですか。

真野浩氏(ルート 代表取締役)
真野浩氏
(ルート 代表取締役)

真野氏 なかなか電波はそうはいきません。小さいということは、受信感度が小さいということです。例えば、Wi-Fi(無線LAN)は半導体チップ化されパソコンの中に入っていますが、家の外の電波をキャッチして家の中で使えるかというと、なかなか難しい面があります。WiMAXでもこの周波数(2.5GHz帯)では、家の中までは入ってきません。ただ、窓際に行けば使えますので、フェムトセルのような「超小型の基地局」をおいて、家の中でもWiMAXを使えるようにするということは可能です。しかし、そのためにはWiMAXがもっと普及することが必要で、全国バンドのWiMAXにもがんばってもらわないといけません。

当面は、2010年度のブロードバンド・ゼロの解消のために、ラスト・ワンホームといわれているところでは、Aタイプの構成が一番適しています。Aタイプの形は、東北インテリジェント通信が発表(※)していますが、われわれが秋田でやった実証実験と同じ構成です。

参考記事:「デジタル・デバイド解消のためWiMAXの無線局免許を申請」http://www.tohknet.co.jp/p_mod/news/getnewsext.php?n_id=83

■Aタイプの地域WiMAXは、何人ぐらいが利用するのですか。

真野氏 それはサービス・エリアに何世帯いるかで決まります。秋田の実証実験の場合では、対象となるADSLがきていない家庭は380世帯あり、そのうち、100世帯ぐらいの利用を見込んでいます。こうしたネットワークのサービスは、高齢者が利用するケースは少ない面があります。このため、条件不利地域等のデジタル・デバイドを解消するケースではもともとニーズが潜在市場がそれほど大きくはないのです。

荻野氏 現実的なやり方として、自治体が取り組む場合は、光ファイバであるところまで引き、川や山など越えられないところをWiMAXで中継して越えます。例えば、その集落のエリアには光ファイバをはりめぐらせ、集落の入り口にWiMAXの基地局を設置し、無線によって川の向こう側と通信できるような形です。

このように中継で使う場合は、ライセンスバンドとして使えるので、非常に安定しています。

また、特定の集落だけに光ファイバを引く場合には、敷設コストは結構安いのです。ですから、ある集落の拠点に無線のWiMAX基地局を設置し、中継局として使う一方で、田んぼや畑などの屋外や、公共空間でも無線通信ができるようにWiMAXでエリアをカバーするという使い方ができます。

■今、そのような中継をする場合、規格としては802.16j(Relay)という中継の規格がありますが、その中継では802.16jを使うのですか。

真野氏 いまの日本の技術基準では、802.16eによるポイント・ツー・ポイント接続(1対1接続)の形になります。802.16jは、先ほどのフェムトセルのような、電波が入ってこない家の中のための家庭用の小型基地局としての利用のような場合が考えられています。

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