[特別レポート]

ルートとユビテックによる地域WiMAX戦略(4):WiMAXの普及は2010年ごろか

2008/05/26
(月)
SmartGridニューズレター編集部

広帯域移動無線アクセスシステムの周波数2.5GHz帯を利用した地域WiMAXの無線局の免許申請が2008年3月3日より開始され、地域利用のWiMAXに注目が集まっています。「ブロードバンド・ゼロ地域の解消」だけでなく、都市の地下やビル内などのデータ通信や、拠点での広域無線サービスなど多様な利用が考えられており、新しいサービスによる地域活性化の有効手段としても期待されています。
そこで、早い時期からWiMAXによる地域のデジタル・デバイドなどの問題を解決しようと活動してきたアライドテレシスグループのルート株式会社の代表取締役真野浩氏と、株式会社ユビテックの代表取締役社長荻野司氏に、地域WiMAXの課題と展望、ビジネスモデルをうかがいました。
最終回となる第4回目は、
第1回 地域WiMAX制度と背景
第2回 モバイルIPが活躍するWiMAX
第3回 地域WiMAXで提供されるサービス
に続き、全国バンドと地域バンドの関係や、他の通信規格との競合、WiMAXの普及時期などについてお聞きしました。(文中敬称略)

 

≪1≫全国バンドと地域バンドは共存できる

■全国バンドで行うサービスと地域バンドで行うサービスは、競合しないのですか。

荻野司氏(ユビテック 代表取締役社長)
荻野司氏
(ユビテック 代表取締役社長)

荻野氏 私は、WiMAXにおける全国バンドと地域バンドが提供するサービスはビジネス・モデルとしては、まったくぶつからないと思っています。

全国バンドによるビジネスは、広く全国的なサービスを平均的に提供していくことが基本になります。さらに、ケータイやモバイル機器などを、地下街や地下鉄、あるいはビルの中など、他の空間でも利用できるようにする、すなわち、シームレスな通信を実現するための補完的な技術という側面もあります。

これに対して地域WiMAXは、サービス・エリアが限定されていることによって、その特定のエリアや分野に向けて、全国バンドではできない、かなりきめ細かい新しいサービス、例えば地域コミュニティに特化したサービスができると思います。

こうした使い方は、まさにインターネット的です。インターネットの世界でも、いろいろな種類のISPができましたが、地域WiMAXでも、いろいろな利活用が柔軟にできるようになっていくと思います。

真野氏 私も全国バンドと地域バンドは共存できると思います。両者は周波数の帯域が異なっていますし、干渉を回避できるように設計されているからです。また、ユーザー側の端末では、同じ端末で、全国バンドと地域バンドのどちらに接続するかを選べるようになります。例えば、地域バンドの自営網を使う場合、町内連絡網ということで、地域内IP電話のような使い方になるわけです。全国バンドのほうは、全国の加入者を対象にしたサービスですが、全国バンドの加入者であれば、同じ端末で、両方のサービスを利用できるようになります。

■それは、デュアル端末として出るのですか。

真野氏 いえ、全国バンドも同じWiMAXですから1つの端末で使えます。いろいろなチャンネルがあるWi-Fiのように、周波数が違っても同じ2.5GHz帯、同じ規格ですから大丈夫なのです。

これは夢物語ではなくて、すぐにでも実現可能なことですから、これによって、地域バンドと全国バンドを行き来して利用できるのです。 ただし、固定系の高利得アンテナを用いる場合は、地域バンドに限定されます。

≪2≫地域WiMAXと既存の通信キャリアなどの競合サービス

■NTTドコモやKDDI、ソフトバンク、ウィルコムなどの既存の移動通信キャリアのビジネスと、WiMAXによる新しいビジネスは、どのような関係になるのですか。WiMAXは補完だといわれていた時期もありますが、2007年にIMT-2000の第3世代モバイル規格の6番目のインタフェースになったわけです(※関連記事)。そうなると、競争のようなことになりますね。

※関連記事:
モバイルWiMAXがIMT-2000の新・標準インタフェースに!
http://wbb.forum.impressrd.jp/report/20070911/460

真野浩氏(ルート 代表取締役)
真野浩氏
(ルート 代表取締役)

真野氏 その場合のWiMAXは全国バンドのWiMAXですね。WiMAXという用語にはいろいろな定義があり、技術的にはIEEE 802.16eという標準規格になります。WiMAXが従来の無線などの規格と違うところは、玉虫色の規格(すべてが明確に定義されている規格ではないということ)だということです。つまり、無線通信では周波数や送受信のための電波の電力などがもっとも大切な部分ですが、仕様書には規定がなく、アペンディクス(付録 または、プロファイル)のほうに入っているのです。

また、6番目のインタフェースになったということは、次世代携帯電話の通信規格となったということでもあるのです。例えば将来、日本の場合には、700MHzのUHF(現在アナログ・テレビで使用)の跡地を、次世代携帯電話に割り当て、その方式として、WiMAXが採用された場合、現在は、2.5GHzのWiMAXですが、700MHzのWiMAXが出てくる。すなわち、周波数の違う複数のWiMAXが出てくる可能性があります。既存の移動通信キャリアとの競争か、補完かというのは、使用する周波数とビジネスによって変わってくるのです。

荻野氏 Wi-Fiという技術は、気づかないうちに広まって、いつの間にか無線LANという形でみんなが使えるようになりました。いわゆる「組込み」という形で、WiMAXは普及していくと思います。PCやデジタルカメラ、家電や自動車、監視カメラなどに、買ったときから内蔵されていくわけです。特にWiMAXは家電機器にも組み込んで、月額の基本料金なしでも使った分だけ支払えば利用できるよう、手軽でライトな使い方も想定して設計されています。またWiMAXの通信方式は、Wi-Fiや地デジで使われているOFDMと同じ、高速通信方式ですので、WiMAX機能を既存の無線半導体チップに統合しやすいのです。ですから、WiMAXもWi-Fiと同じように、知らないうちに「WiMAXにも対応した機器を使っている」という環境に移行していくのではないでしょうか。

■それは、いつごろ実現しそうですか。

荻野氏 それは、全国バンドWiMAXの普及にかかっています。2009年ごろには、モバイルWiMAXを提供するUQコミュニケーションズの基地局が設置され、WiMAX用半導体チップも登場してきます。そうすると、2010年か11年ごろには、Wi-Fiが広く進展したのと同じように普及していくのではないでしょうか。Wi-Fiのときも、気づくとパソコンをひらくと自然につながるようになっていました。それと同じような環境になるでしょう。またWi-FiよりもWiMAXのほうが、車輌や列車などを含む屋外での通信に適していますので、交通分野には注目しています。

真野氏 Wi-Fiの場合、規格が落ち着いてから7~8年ぐらい、802.11と言い始めてからだと15年ぐらいになります。そういう意味では、Wi-FiとWiMAXの普及の度合いを比較すると、最大11Mbpsの802.11bが標準化されてWi-Fiができた(1999年)というタイミングが、ちょうど今のWiMAXの状況と同じだと感じます。

■立ち上がりの時期ということですね。ところで地域WiMAXはいつからサービスが始まるのですか。

真野氏 免許申請をすると予備免許が出るまでに、3カ月ぐらいかかります。それから落成検査がやはり3カ月ぐらいかかり、それから事業開始となります。2008年の3月3日から4月7日までの併願期間に出した事業者は、予備免許が出るのが5月~6月ぐらいです。落成検査が終わるのが3カ月後の8月~9月ぐらいという感じなので、サービスの開始は2008年末から2009年初頃ではないかと思います。

荻野氏 そうですね。事業として考えた場合は、正式な本サービスの登場は来年2009年の春ぐらいになりそうだと考えています。なぜかというとWiMAXシステムを作るだけでなく、サービス用のシステムも構築して提供することになりますので、2008年は主に試験サービスやトライアルサービスが開始されるのではないでしょうか。

真野氏 秋田の東北インテリジェント通信の場合は、2008年の第3四半期にはサービス開始をしたいと発表しています。ここの場合は、すでに昨年(2007年)2月から実証実験もやってきており、その後地域WiMAXの制度ができましたので、事業としての本格的なサービスに置き換えるということです。実証実験のときは、380世帯から協力者を募り、抽選で21世帯に絞ったという経緯があります。このような背景から住民としては、早くサービスを開始してほしいというところです。

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