[特別レポート]

ルートとユビテックによる地域WiMAX戦略(1):地域WiMAX制度と背景

2008/04/24
(木)
SmartGridニューズレター編集部

広帯域移動無線アクセスシステム(BWA)の周波数2.5GHz帯を利用した地域WiMAXの無線局の免許申請が2008年3月3日より開始され、地域利用のWiMAXに注目が集まっています。2010年度を目標にした「ブロードバンド・ゼロ地域の解消」だけでなく、都市の地下やビル内などのデータ通信や、拠点での広域無線サービスなど多様な利用が考えられており、新しいサービスによる地域活性化の有効手段としても期待されています。
そこで、早い時期からWiMAXによる地域のデジタル・デバイドなどの問題を解決しようと活動してきたアライドテレシスグループのルート株式会社の代表取締役真野浩(まの ひろし)氏と、地域WiMAXのシステムインテグレータである株式会社ユビテックの代表取締役社長荻野司(おぎの つかさ)氏に、地域WiMAXの課題と展望、ビジネスモデルをうかがいました。
第1回目は、地域WiMAX制度とその背景についてお聞きしました。(文中敬称略)

≪1≫地域WiMAX制度ができるまでの経緯

■WiMAXの周波数割り当てについては、全国バンドと地域バンドがありますが、このうち地域WiMAX制度ができるまでの経緯を教えてください。

真野浩氏(ルート 代表取締役)
真野浩氏
(ルート 代表取締役)

真野氏 4年ほど前に、総務省のワイヤレスブロードバンド推進研究会(2004年11月~2005年12月)で、今後貴重な電波資源をどのように利用するかという議論が行われました。

その議論の1つとして、広帯域移動無線アクセス(BWA )の利用として、次世代ケータイや無線LANの高速版のような、次世代のシステムの利用とともに、WiMAX(※)という新しい技術の利用推進の可能性が示されました。

BWA:Broadband Wireless Access、広帯域移動無線アクセスシステム。802.16WGには「BWA」という名称がつけられており、具体的には802.16-2004(固定WiMAX)、802.16e-2005(モバイルWiMAX)などの標準が策定されている
WiMAX:Worldwide Interoperability for Microwave Access、ワイマックス。高速データ通信を行う無線システム。広帯域移動無線アクセスシステム(BWA)の1つの方式であり、我が国は2.5GHz帯の周波数を使用。移動通信向けの全国バンドと固定通信向けの固定系地域バンドがある

■光ファイバやADSLなどのサービスを利用しにくい条件の不利な地域などのラストマイルとして、WiMAXなどのBWAを活用し、いわゆるデジタル・デバイドを解消するということですね。

真野氏 そうです。この議論の結果を受けて、BWAの技術検討がはじまり、2.5GHz帯に割り当てることが決まりました。このときに、最初に決まったのは、こうした新しい無線技術で全国向けの移動通信をやるということです。それが全国バンド(2545MHz~2575MHz、2595 MHz~2625MHz)といわれる周波数です。比較審査を行い、結果として、モバイルWiMAXを提供するKDDIグループのUQコミュニケーションズ(2595MHz~2625MHz)と、次世代PHSサービスを提供するウィルコム・グループ(2545MHz~2575MHz)に決まりました。図1は2.5GHz帯の割り当て結果です。

図1 BWAに割り当てられた周波数図(クリックで拡大)

■地域バンドはどのように検討されたのですか。

真野氏 地域バンドについては、当初は検討されていませんでしたが、改めて地域バンドとしての利用の有効性を指摘したところ、地域バンドの固定的利用の検討が始まり、それが認められました。

個人的な意見ですが、当初は、固定的利用も移動的利用も、まったく同じ制度で、同じ免許方針でいくと思っていました。ところが、実際は、移動的利用は、全国バンドとして、全国事業者が対象となり、主幹は総務省の移動通信課となり、固定的利用は、地域バンドとして、主幹は総務省の基幹通信課となって、2つの制度、2つの技術基準ができてしまいました。

■全国バンドと地域バンドの制度の違いを教えてください。

真野氏 全国バンドは、全国を単独のサービス事業者としてカバーするもので、先に示したように二つの事業者だけはしか認められません。 ユニバーサルサービス(110番や119番サービスなど)を提供する義務があり、開業後5年で全国95%のエリアをカバーしなければなりませんし、他の事業者に対するMVNOによる開放義務もあります。

これに対して、地域バンドは、地域の無線局ごとに免許が与えられます。無線LANなどのように無免許で自由には使えず、免許が必要です。この免許は通信事業の事業認可ではなく、個々の無線局の局免許になります。今回の地域バンドも局単位に免許が与えられます。 いままでの技術検討などの資料からもわかりますが、高利得アンテナを用いた固定的利用の場合、無線基地局がカバーする区域としては半径4kmほどになります。 また、無線カードなどのように、モバイル環境で使用する場合には、1.4km程度のカバー範囲になると想定されます。

ポイントは、免許で許可するのは、あくまでも個々の無線局の開設であって、その地域の営業権ではないということです。例えば、ある事業者がある市の地域バンドの免許をえたとします。その場合、同じ市に別な事業者も無線局を作ることは可能です。電波が干渉しないように場所が離れてさえすればいいわけです。

つまり、同じ市内で複数の事業者がさまざまな場所で、さまざまなサービスを提供することになるわけです。これが今回の制度です。

逆に、同じ場所やとても近い距離の場所では、干渉が発生するため、1つの事業者しか許可されないことになりますので、その場合には比較審査により免許付与をする事業者が選定されます。申請は、総務省に対して行いますが、無線局の局事項書(申請書のこと)だけでなく、財務状況や、事業計画、公共性などの説明資料も必要とするのは、このような比較審査のためです。

≪2≫地域WiMAXは無線局ごとに免許交付

■地域バンドを申請した複数事業者のサービス・エリアが重なっている場合はどうなるのですか。

真野氏 その場合は、行政や地域の公共性に適しているかなどサービスの内容のほか、事業者の経営状況や事業の継続性、事業資金、社会的責任、今後の事業展開などを比較審査して、裁量判断されます。

通常は、先願主義で、先に申請した事業者に優先的に割り当てられますが、今回は新しい周波数の割り当てということなので、2008年3月3日から2008年4月7日までは、併願期間として、この期間のうちに申請すると、同じ日同じ時刻に申請したとみなされます。

■同じ地域に、複数の異なる事業者が、別々にサービスを提供するということになるのですか。

真野氏 電波が干渉していなければ問題ありません。ここが誤解しやすいところなのですが、地域バンドの場合は、CATVのような1地域、1営業権の排他的な営業権がある事業免許とは違うのです。今回の制度は、無線局の免許なのです。そこが大きく違います。

これは営業権ではないので、干渉さえなければ同じ市や町などでも、免許はおります。また、自治体単位の免許ではないため、隣り合った自治体でも電波の干渉があるようなところは認められません。

総務省が認可する形態としては、なになに市の一部、なになに県の一部、なになに県となになに市をまたがったエリアというものも認められます。

認められないのは、なになに県全域というようなものです。県全域のサービスならば、全国バンドを利用すればよいということです。

強調しておきますが、あくまで局の免許なので、先にとればその地域で排他的になるというわけではありません。

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