≪1≫次世代WiMAX 2の5つの特長
UQコミュニケーションズは、世界初の次世代のWiMAX 2(802.16m)の動態デモを行い、モバイル・ブロードバンドによるクラウド・コンピューティングの実力を披露した。このWiMAX 2(802.16m)は、LTEの次世代規格であるLTE-Advanced(3GPP)とともに、ITU-Rにおいて標準化が進められている第4世代の規格「LTE-Advanced」の一つとして位置づけられており、下り330Mbps/下り112Mbpsの高速・大容量を実現するモバイル・ブロードバンドである。
このWiMAX 2は写真1に示すように5つの特長を備えている。
(1)ワイヤレスで光ファイバ(FTTH)並みの高速・大容量通信を実現できること
(2)現在のWiMAXの遅延時間が20ms(端末-基地局間の往復、片道10ms)であるのに対し、WiMAX 2ではその2分の1の10ms(片道5ms)以下に短縮され、ライブ動画配信などのリアルタイム性アプリケーションも容易に送受信できること(LTEとほぼ同じ遅延時間)
(3)WiMAX 2は時速350㎞と新幹線の速度に対応できること(現在のWiMAX規格は時速120㎞に対応
(4)現在のWiMAXとの互換性を維持していること
(5)周波数効率すなわち、1Hzあたりに送信できるビット数(bps/Hz)は、WiMAXが下り最大6bps/Hzであるのに対し、WiMAX 2では下り最大15bps/Hzと2倍以上も改善されていること
≪2≫UQ WiMAXとWiMAX 2(802.16m)の仕様の比較
また、写真2に現在サービスが提供されているUQ WiMAXとWiMAX 2(802.16m)の仕様の比較を示すが、両者の大きな違いは、
(1)周波数帯域幅を大幅に拡張しマルチ周波数(5/7/8.75/10/20MHZ幅)をサポートすること
(2)マルチアンテナ技術であるMIMOを拡張し、例えば下り2×2MIMO(送信2本、受信2本)から下り8×8MIMO(実験では4×4MIMO)に拡張したこと
(3)これらの拡張によって、システム最大速度を現在の下り最大40Mbps(10MHz幅、TDD)から330Mbps(40MHz幅、TDD)と向上させたこと
などがあげられる。
≪3≫WiMAX 2のロードマップ:2012年頃からWiMAX 2製品が登場
写真3は、WiMAX 2のロードマップを示している。WiMAX 2の今後の展開をみると、2010年の12月にIEEEおよびWiMAXフォーラムで規格の標準化が完了し、2011年末からWiMAXフォーラムにおいて、WiMAX 2関連機器の認証が開始される。その後、2012年頃からWiMAX 2関連の商用製品の提供が開始される予定となっている。
今回のデモでは、写真4に示すように、2.6GHz帯(帯域幅40MHz幅)の環境で、下り330Mbps(IP層における実効速度:300Mbps)の仕様で、下り4×4MIMO(送信用4本、受信用4本)のマルチアンテナ技術を使用して動態デモが行われた。
実際のスループット(実効速度)は平均300Mbpsを実現していた。
≪4≫今回のWiMAX 2トライアルの構成とデモの内容
写真5は、今回のWiMAX 2トライアル(動態デモ)の構成図である。写真5の構成からわかるように、基地局は基地局本体(BS-DU)と無線増幅器(BS-RRH)を分離した構成となっており、それぞれの機器の役割は次のとおりである。
(1)BS-DU:Base Station-Digital Unit、基地局本体(ビル内等に設置される)
(2)BS-RRH:Base Station-Radio Head、 WiMAX基地局用リモート・ラジオ・ヘッド(無線増幅器)
(3)ASN-GW:Access Service Network-Gateway、アクセス・サービス・ネットワーク・ゲートウェイ。基地局を介して他のネットワークとの接続性を提供する装置
このWiMAX 2トライアル・システムのバックヤードには、VoD(ビデオ・オン・デマンド)サーバがある(写真5左側)が、ここにハイビジョンの動画コンテンツが格納されている。すなわち、VoDサーバのコンテンツは、基地局を介し、右側のL2SW(レイヤ2スイッチ)を経由して、スループット・モニター用パソコンおよび5台のパソコンに接続され、ハイビジョン映像を映し出すデモが行われた。
このデモに使用された機器の外観を写真6に示すが、すべて韓国のサムスン製であった。また、写真7はWIMAX2の通信端末を示す。現在、実験用のため大きな試作機(端末)となっているが、いずれ半導体チップ化され、コンパクトなUSBドングルあるいはPCカードの大きさとなって提供される。
写真8に示すWiMAX 2に接続された4台のパソコンには、ハイビジョン映像が流され、他の1台(写真はない)には、3Dのハイビジョン映像が使用された。デモでは17本のハイビジョン・コンテンツが束ねられて同時に流されたが、この時のWiMAX 2のスループットは、平均300Mbps以上の伝送速度を実現した。
≪5≫WiMAX 2による高速大容量の効能と今後の展開
〔1〕ストレスのない快適な通信環境の実現
写真9は、クラウド・コンピューティング環境において、AndroidやiPhoneなどのスマートフォンやモバイルPCなどからの大容量トラフィックを処理する、WiMAX 2による高速大容量の効能を示した図である。写真9右上部の図は、帯域が広い(高速)場合のトラフィックの状況を示している(注:赤色や青色は各ユーザー別のデータを示す)。帯域が広い場合は、各ユーザーのデータは瞬時に処理されていることがわかる。
一方、写真9右下部の図は、帯域が狭い(低速)場合のトラフィックの状況を示している。この場合は、あるユーザーが使用している最中に、他のユーザーのデータが入ってきてしまう現象が起っていることがわかる。つまり、データの遅延時間が大きくなってしまったり、スループット(実効速度)が低下してしまっていることがわかる。このように、帯域を広くすることによって、ユーザーのストレスを除き、快適な通信環境を提供することが、WiMAX 2の狙いとなっている。
〔2〕新しいトレンド:インターネットのワイヤレス化とパーソナル化
今後、写真9のように、携帯端末を外に持ち出して使うインターネットのワイヤレス化がいっそう加速し、インターネットのパーソナル化が通信サービスの大きなトレンドになろうとしている。具体的には、写真10のように、ワイヤレス化されたクラウド・コンピューティング環境の下で、新しいWebアプリケーションや医療介護をはじめ、ゲームコンテンツに至るまで、「いつでも、どこでも、どんなアプリやコンテンツでも」ネットワークを意識せずにストレスなく利用できる時代が到来すると期待されている。
今回のCEATEC 2010のデモ展示の取材を通して、WiMAX 2やLTEをはじめとする次世代のモバイル・ブロードバンドによって、真のユビキタス社会が実現されることが間近いことを実感させた。
(終わり)