≪2≫IPTVを実現するホーム・ネットワーク
〔1〕ホーム・ネットワークのセキュリティ
IPTVを実現するホーム・ネットワークに関する、コンテンツ保護の技術として、DTCP(※)を使用する提案がなされた。ホーム・ネットワークは、アクセス・ネットワークとIPTV端末機器に接続するプライマリー・ドメインと、IPTV端末機器とホーム・ネットワーク端末機器の間のセカンダリー・ドメインで構成される(※参考記事「IPTVの標準化動向(8):IPTV-GSI第1回のレポート」)。プライマリー・ドメインでのコンテンツ保護の技術SCP(サービス・アンド・コンテンツ・プロテクション。DRMと同義)についての文書「X.iptvsec-1」との整合性を配慮し、DTCPのような受信機の出力信号に関するセキュリティ技術についてはセカンダリー・ドメイン内に限定することになった。図3がホーム・ネットワーク内でのコンテンツに関するセキュリティ(保護技術)について説明したものである。
例えば、IPTVの場合、コンテンツはISPによりMarlin(※)などのSCP(DRM)で暗号化されてネットワークに流れ、ホーム・ネットワークに届く。SCPは、ホーム・ネットワークの入り口であるDNG(Delivery Network Gateway、アクセス・ゲートウェイ)を通り、IPTV端末で終端される。図3に示すように、アクセス・ネットワークからのDNGを経由してIPTV端末の間のプライマリー・ドメインまでのところが、「X.iptvsec-1」で規定されたSCPとなる。
SCPの適用範囲から外れたあとのコンテンツは、図3のSCPとは別の技術(DTCPなど)で保護され、ホーム・ネットワーク内を流れる。IPTV端末から、ハードディスク・レコーダなどを含むホーム・ネットワーク端末の間のセカンダリー・ドメインでは、DTCPなどを使うため、ホーム・ネットワークの中でもきちんとセキュリティがかかっている。
※DTCP:Digital Transmission Content Protection。デジタル転送におけるコンテンツ保護技術。パソコンとメディア・プレーヤなどをIEEE 1394デジタル・インタフェースで接続する際に、不正なコピーを防ぐために用いられる
※参考記事:「IPTVの標準化動向(8):IPTV-GSI第1回のレポート」
※Marlin:マーリン。著作権管理の方式の一種。このMarlinの規格に準拠した著作権管理(DRM)技術であれば相互に互換性を保てるため、コンテンツを異なる端末間で交換して利用できる。米インタートラスト・テクノロジーズ(Intertrust Technologies Corp.)、松下電器産業、オランダのロイヤル・フィリップス・エレクトロニクス(Royal Philips Electronics)、韓国サムソン・エレクトロニクス、ソニーなどの家電メーカーが中心となって「Marlin」を策定する団体「Marlin Joint Development Association」(Marlin JDA、Marlin共同開発協会)を結成(2005年1月設立)、仕様を開発中
〔2〕NGNベースのホーム・ネットワーク
ホーム・ネットワークにおいても、QoSは重要であるということから、NGNベースのホーム・ネットワークのQoSが提案されている(図4)。具体的なソリューションではないが、NGNにおけるRACF(※)と同様のQoS機能は、ホーム・ネットワークのホームRACF(H-RACF)が対応している。
アペンディクス(付録)として加えるよう提案されたが、H-RACFの機能がはっきりしないため、今後の検討課題となった。
※RACF:Resource and Admission Control Functions、リソース/受付制御機能。NGNにおける通信品質の確保のためのQoS制御機能
〔3〕IPTVのインタフェース:IPI-3とIPI-4
IPTVのインタフェース技術(IPI-3とIPI-4 ※)については、インタフェース技術そのものについては問題ないが、QoE(Quality of Experience、体感品質)の要求条件に関して、現在の文書では、サービスの最低条件が書かれているが、このことが課題になっている。例えば、文書には最低帯域2Mbpsと記述されているが、国内で運用するためには実際にはもう少し帯域が必要だろう。
ただし、この文書は、国際勧告としての最低条件なので、それよりも高い帯域を使うことは否定していないし、最低条件まで落としていいというわけでもない。また、国情によっては、DSLしか使えなかったり、DSLでもさらに電話局から距離が遠くなるにつれ、インフラとして帯域が確保されないということもある。実際、海外では、通常のテレビもそれほど画質がいいわけではない。したがって、勧告として最低条件を定めた文書としては大きな問題はないと考える。
※IPI-3:アクセス・ゲートウェイの下り側インタフェース
※IPI-4:アクセス・ゲートウェイの上り側インタフェース
※参考記事:「IPTVの標準化動向(5)IPTV環境のホーム・ネットワークの『参照インタフェース』を定義」
このほか、IPTVのインタフェース技術についてはDSL、光、Ethernet、無線LANなど各種技術が挙げられているが、選択基準が不明で、技術によっては不安定だったり、帯域が不足していたりして、IPTVのサービスに使えないものもある。現在の文書では、IPTVに必ずしも必要のない技術的な記述が多くあるので、IPTV特有の内容以外は削除するという提案をし、受け入れられた。
また、各インタフェース技術を帯域ごとに整理、列挙して、提供可能な帯域を並べておくことは意味があるということなった。
それから、帯域の算定方法など、具体的なサービスとの対応については将来の課題となっている。プログラム(番組)の提供形態や使用する帯域、コンテンツ以外のEPG(Electric Program Guide、電子番組表)などのデータの提供方法などは、サービス・プロバイダごとに異なり、サービス・シナリオやビジネス・モデルが違っている。そうしたことも考慮した議論が必要になる。
さらに、PLC(※)や無線LANなど伝送系技術は新しいものがどんどん出てくるので、どういうサービスをターゲットにして、帯域を算出するかという問題もある。
このため、こうしたサービスに関わるところは、今回の勧告とは切り離し、2~3年かけた長期的な議論が必要となろう。
このIPTVのホーム・ネットワークについては、2008年9月を目標にコンセントにできるよう進めている。IPTV-GSIそのものではコンセントはできないため、WP(ワーキング・パーティ)を予定している。
※PLC:Power Line Communication、高速電力線通信