≪1≫日本での市場拡大が期待されるSaaS
企業が利用する業務アプリケーションの新しい利用法として注目されているSaaS(※)は、Interopでも大いに注目され、出展社も多かった。また、企業向け検索エンジン、SOA(※)/ESB(※)など、企業向けサービスを集めた「エンタープライズ2.0パビリオン」でもSaaS関連サービスが複数紹介された。
こうした中で、NECは、これまでのSaaSとは違った新しいモデルとして、「アグリゲーション(統合)型SaaS」を提示した(写真1)。これまで国内で提供されてきたSaaSが「専門店」ごとになっていることに対して、「アグリゲーション型SaaS」はNECが提供するSaaS基盤に、さまざまな種類のアプリケーション・ベンダが、それぞれのアプリケーションを提供する。デパートのように、NECが場所を貸し、店子がユーザーに販売するという形だ。これにより、ユーザーとしては、アプリケーションごとにSaaS企業と契約するのではなく、NECと契約するだけで、多岐にわたるアプリケーションを利用できる。
また、アプリケーションを提供する企業にとっても、利用頻度に応じて料金を払う「レベニュー・シェア」という形態であるため、自社でシステムをもつよりも、初期投資を抑えることができる。
SaaSについては、「エンタープライズ2.0パビリオン」で行われたインプレスビジネスメディア 取締役の田口潤氏の特別講演のレポートでも紹介する(続報)。
※ SaaS:Software as a Service、サース。サービスとしてのソフトウェア
※ SOA:Service Oriented Architecture、サービス指向アーキテクチャ
※ ESB:Enterprise Service Bus、エンタープライズ・サービス・バス
≪2≫システムの効率化からグリーンITまでを実現する仮想化技術
仮想化(バーチャライゼーション)は、サーバなどのリソースを効率的に利用するために、1台のサーバをあたかも複数のサーバであるかのように利用したり、あるいは複数のサーバを1台のサーバであるかのように利用したりする技術である。サーバなどの資産の効率化とともに、近年はグリーンITに代表される環境意識の高まりを背景に、仮想化によって、消費電力を抑えるという面も出てきた。
ジュニパーネットワークスの「Juniper Control System 1200」(以下、「JCS 1200」)制御システムは、こうした仮想化の中心に位置する製品である(写真2)。JCS 1200は制御プレーン(制御機能)をルータから外部に分離独立させた新しいシステムで、これにより高い拡張性と柔軟なシステム構築を可能にしている。
JCS 1200はIPアドレスの異なる複数のサーバを束ね、運用することができ、同社のモジュラー型ネットワークOS「JUNOS」にも対応している。JCS 1200は、広域イーサネットの対応製品でもあるが、NGNに対応したイーサネットの保守管理の技術である「イーサネットOAM」を実装したJUNOSのバージョンは、JUNOS 9.2で、2008年8月にリリース予定である。
※ イーサネットOAM:Ethernet Operations,Administration,Maintenance。イーサネット網の保守・管理機能。2006年5月、ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)が国際勧告「Y.1731」として標準化。IEEE(米電気電子学会)802委員会でも「IEEE 802.1ag」として標準化されている
※ 関連記事:802.1/802.3の標準化動向(3):802.1agでNGN対応のイーサネットOAMを標準化へhttp://wbb.forum.impressrd.jp/report/20060922/280
≪3≫NGNでも注目の広域イーサネット&イーサネットOAM
利用シーンを拡大する広域イーサネットは、NGNの商用サービスの開始とともに大きな注目を集めている。現在、IEEE 802.3ワーキング・グループ(WG)で次世代高速イーサネット(40Gbpsおよび100Gbpsイーサネット)の規格「IEEE 802.3ba」の標準化が進んでいる(※関連記事:802.1/802.3の標準化動向)こともあり、今後さらに展開が期待できる技術として注目されている。
前述したように、すでにNGN対応の「イーサネットOAM」というイーサネット網の保守管理の規格が「Y.1731」(ITU-T)や「IEEE 802.1ag」(IEEE 802)として標準化されており、NTTのNGN商用サービスでも採用されるに至った。今回出展された製品でも、イーサネットOAM対応を謳う製品が数多く目にとまった。
日立電線の「Apresia18000シリーズ」は、通信事業者などのコア・スイッチ用途向けのイーサネットOAM対応のイーサネット・スイッチである(写真3)。スイッチ容量の違いにより、「Apresia18020(1.8Tbps)」「Apresia18008(720Gbps)」「Apresia18005(450Gbps)」の3タイプあり、ネットワークの規模に応じて適切な機器を選択することができる。いずれもイーサネットOAMに対応している。「Apresia18020」は、国産スイッチでは最大のスイッチ容量を持つ。
横河電機のブースでは、10Gビット・イーサネット(10GbE)対応イーサネット負荷試験機「Traffic Tester Pro AE5511」は、10GbEまで対応したQoS試験機器を出展(写真4)。イーサネットOAMにも対応し、PoE(※)試験をはじめ、リンクフラップ試験などさまざまな検査が可能で、GE-PON(※)/PLC(※)/PoEなどのIPアクセス機器の評価、検証にも利用できる。
※ 関連記事:802.1/802.3の標準化動向http://wbb.forum.impressrd.jp/report/list/29
※ GE-PON:Gigabit Ethernet-Passive Optical Network。IEEE 802.3標準のギガビット・イーサネットを使用したPON
※ PLC:Power Line Communication、高速電力線通信
※ PoE:Power over Ethernet。IEEE802.3afに規定されるイーサネットの電力供給方式。スイッチからUTPケーブル経由で接続機器に最大12W程度の電力を供給することが可能。最大30W(目標)を提供するためのPoE Plus (IEEE802.3at)の標準化も進められている
アジレント・テクノロジーのマルチサービス・テスト・ソリューション「Agilent N2X」は、NGNにフォーカスしたテスタである。IPva/IPv6ルーティング、イーサネットOAMに対応、数万加入者を擬似した上でのチャネル・ザッピング(チャネル選択)遅延測定やビデオQoSなどのIPTV試験などを行うことができる(写真5)。
≪4≫次世代高速無線LAN規格「802.11n」=ドラフト2.0対応製品も登場!=
次世代の高速無線LAN規格である802.11nは、目下、標準化が大詰めの段階を迎えている。これと同期して、対応製品を認定するWi-Fiアライアンスでは、すでに802.11nドラフト2.0標準製品の相互運用性の認定を始めていることもあり、802.11nの対応製品も増えてきた。Interop会場では、アセロスの802.11n対応チップを使っているところが多く出展していた。
すでにデンバー国際空港やマイアミ大学など、米国での802.11nソリューションの導入実績があるメルー・ネットワークス(Meru Networks)は、デュアル802.11n無線アクセス・ポイント(AP)「Meru AP300」とMeru MC5000コントローラで構成された製品を出展。この製品は、802.3af準拠のPoEに対応し、2.4GHz/5GHzにも対応している。伝送速度は、理論上は最大300Mbps(物理層)となっている(写真6)。
≪5≫IPv4/IPv6対応のロードバランサ
外部ネットワークからの要求を、同じ機能をもつ複数のサーバに振り分け、負荷を分散させるロードバランサ(負荷分散装置)は、これまでも、通信事業者やサービス・プロバイダなどの基幹ネットワークで利用されてきた。しかし、近年のブロードバンドの普及に伴い、企業間ネットワークにおいても、ロードバランサが使われるケースが増えてきている。
物産ネットワークスが販売するA10 Networksのロードバランサ「AXシリーズ」は、IPv4とIPv6の共存環境でも、同程度のパフォーマンスを提供できるのが大きな特長(写真7)。AXシリーズは、NGNで地上デジタル放送のIP再送信も開始したNTTぷららの映像配信サービス「ひかりTV」の映像配信プラットフォームにも採用されている。
≪6≫IPを使った次世代映像配信技術
Interopに併設されたIMC Tokyo 2008では、放送・通信の融合を背景に、放送事象者によるIPを使った高画質な映像配信などが展示されていた。中でも、朝日放送のブースでは、画素数がHDTV映像の4倍の800万画素(4K×2K)の4K高解像度画像を、リアルタイム、非圧縮で大阪本社から幕張メッセの朝日放送ブースまで送信する実験を公開し、注目を集めた。
この「4K非圧縮リアルタイムサービスネットワーク」のシステムは、大阪本社にあるメディア・サーバにある4K非圧縮コンテンツ(3,840×2,160ドット/800万画素)を、シスコシステムズの超広帯域・高信頼ビデオ・ヘッドエンド「CRS-1」によって送信し、JGN2Plus(NICT ※)、GEMnet2(NTT ※)、首都圏ネットワーク(NTTコミュニケーションズ)の10Gbpsの高速回線で伝送、幕張メッセのブース内に設けた「CRS-1」を経て、広帯域・高信頼アグリゲーション「ASR 1000」(シスコシステムズ)で回線を束ね、4K対応のゲートウェイを通って、56インチ4K液晶モニタに表示した(写真8)。
実際には、4K画像を非圧縮でやり取りする状況は、日常的にはあまり多くないが、想定するシーンとしては、放送局間のデータのやり取りなどに利用されるという。
※ JGN2plus:NICT(独立行政法人情報通信研究機構)が推進する新世代ネットワーク(NWGN)の研究開発を支えるテストベッドネットワーク
※ GEMnet2:NTT研究所の研究開発用ネットワークテストベッド。武蔵野、横須賀、厚木の各研究開発センターをWDM技術で接続する
※ WDM:Wavelength Division Multiplexing、波長分割多重
≪7≫商用サービスとして注目の第4世代P2P
新しいネットワークの形態として、第4世代のP2P(ピア・ツー・ピア)通信が登場し、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)への利用などで注目されているが、BitTorrentやドリームボート(写真9)などが、動画配信のCDNのシステムを展示した。P2Pネットワーク実験協議会も発足(2007年8月)し、P2Pの商業化へ向けての取り組みが活発化している。
≪8≫NGN商用サービス開始に伴い注目される新しいホーム・ネットワーク技術「ミリ波」や「HD-PLC」
NGNの商用サービス開始に伴い、ホーム・ネットワークの重要性が高まっている。一般的なホーム・ネットワーク技術としては、802.11a/b/g/nなどの無線LANがあるが、新しい次世代技術も登場してきた。
NTTコミュニケーションズは、無線PAN(Personal Area Network)として、テレビに高画質データを転送する「ミリ波※」(60GHz帯)を展示していた(写真10)。ミリ波は、802.15.3cで標準化が進展している免許不要の規格で、日本主導の高速通信技術であり、家庭のような狭いエリアで高速通信を実現する。
※ ミリ波:ミリ波帯とは、一般的には、30~300GHzの電波のこと。この中で、特に60GHz帯は、2000年の法改正によって、通信資格の免許を保持していなくても無線通信を行うことが可能になり、ホーム・ネットワーク技術の1つとして注目されている日本主導の高速通信技術。802.15.3cで標準化が進んでいる
もう1つのホーム・ネットワーク技術は、電力線通信技術PLCの発展系である「HD-PLC」(High Definition-Power Line Communication)で(写真11)、HD-PLC製品はパナソニックから発表され、すでに販売されている。HD-PLCは、松下電器が開発した新しいPLCの規格で、HD-PLCアライアンス(2007年9月設立)が普及拡大を進めている。変調方式にはWavelet OFDM(※)を、暗号化には128ビット AES方式を採用し、4~28MHzの周波数帯域を使用。伝送速度は、理論値で190Mbpsの高速通信が可能。
PLCは設定が容易で、壁などの障害物を越えた通信が可能であるため、欧州を中心に普及しているが、PLC規格はPLCのほか、HomePlug AV、UPA(Universal Powerline Association)など複数あり、相互に互換性がない。
日本では、PLCについては、PLC-J(高速電力線通信推進協議会。2003年3月設立)が開発・啓蒙活動を行っている。
こうしたさまざまなPLC規格に相互互換をもたせるため、ソニー、松下電器産業、三菱電機の3社が2005年に業界団体「CEPCA(Consumer Electronics Powerline Communication Alliance)」を設立、IEEE P1901、ETSI PLT、PLC-JなどでPLC規格の標準化を目指している。
※ Wavelet OFDM:Wavelet Orthogonal Frequency Division Multiplexing。各サブキャリアの直交化にWavelet変換を適用して、高効率な高速データ通信を実現する技術。周波数利用効率が非常に高い
※ ETSI:European Telecommunications Standards Institute、欧州電気通信標準化機構
≪9≫新しい広告利用の形態として市場拡大が期待されるデジタル・サイネージ
Interop Tokyo 2008では、新しいキーワードとして、デジタル・サイネージ(電子看板)がお目見えした。薄型のモニタや無線ブロードバンドの利用形態として、屋外・店頭・公共空間・交通機関などで、表示を変えられるポスターや、ビル外壁の大型スクリーンなどの利用が考えられ、新しい市場の展開が見込まれている。
デジタルサイネージコンソーシアムが、NTT、NEC、パナソニック、三菱電機、シスコシステムズなどによって2008年6月に設立され、コンテンツ配信のルールの統一化や、広告指標の確立、統計データの不足の解消などの課題を解決し、デジタル・サイネージの新しい市場を創出することを目的にしている。NTTグループのブースでは、デジタルサイネージコンソーシアムに参加している各社の取り組みが詳しく紹介された(写真12)